<謝罪は?>
「まだです」
<匿名はやめると伝えましたか>
「ですから—」
<早く伝えろ! このウスノロ!>
三上は目を閉じた。脳が霞が関の高層ビル群を俯瞰した。
「わかりました」
言った直後、ぷつりと電話が切れた。
(文庫版下巻143ページより)
「・・・警察職員26万人、それぞれに持ち場があります。掲示など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手はもっていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織がまわっていくはずがない、広報室には広報室の矜持があります。掲示からはマスコミと通じていると揶揄されますが、恥じてはいません。部内の顔色を窺い、外と通じる窓を閉じることこそ、広報室の恥」
(文庫版下巻266ページより)
警察内部の事情が説明されていたり、主人公がああでもないこうでもないと悩んでいるので、それほど「読み始めたら止まらない」系のテンポでもないのですが、登場人物が多くて、何日かに分けて読んだら「この人誰だっけ」になりそうです。あと、超シリアスで笑いの要素ゼロなので、スカッと明るい気持ちになりたい人は別の本を読みましょう。 組織の中で、身動きが取れずに苦しんでいる男性は、共感のあまり涙が止まらないかも? 完全に「男小説」です。女性も出てきますがなんか男性の人生の添え物です。本全体からテストステロンが放射されまくってます。
それにしても、同じ作者の「顔」を読んだ時も思ったのですが、元警察官でもないのにどうして作家というのは、ここまで警察の内部を書けるんでしょうか。よほど警察が好きなんでしょう。作中、主人公に「警察好き」とメモに書かれる某新聞社の記者が作者と被ります。 描かれている警察はあくまでフィクションで、この方の中での「警察」なのか、それともほんとにこんなんなんでしょうか。是非、警察内部の方の感想を聞きたいところです。 本当にこんなんだったら・・・ちょっとこれでいいんでしょうか。なんかパワーゲームばかりじゃないですか。非道な連中だけでなく、こんなめんどくさい身内の権力闘争にも神経すり減らしてるなんて、本当に警察の方々には頭が下がります。 いやはや、本当に警察の方々はすごい。警察小説読むたびに、この方々に自分と同じ血が通っているのか、と茫然とします。私など一日でクビ、いや、そもそも採用すらされません。
なんだかけなしまくっている気がしますが、周到に伏線が張られ、それが回収されていく力作です。 この残りページ数だと例の事件の犯人はわからないままかなーと思っていたら・・・というような展開もあり、正直びっくりしました。
↓↓ここからは、小説を読了した方だけ読みましょう↓↓
でも、あの「第二の誘拐」の方法は無理があるでしょう。 女子高生がふらっと気まぐれ起こして、早く家に帰ってきちゃったり、もっと早くどっか見つかりやすい場所を徘徊してたら、誘拐としてなりたたないですよね? 「長官が来る日は、多分そんなことは起こらないだろう」などという心もとない憶測や希望に基づいて人生をかけた復讐を行うでしょうか。声だけで探していた人物を突き止めたというのも、現実離れしているし・・・。
警察内部のことが綿密な調査や経験に基づいてノンフィクションのように生々しく描かれているせいか、事件を巡る顛末のところはいかにも「創作」と言った感じで浮いているように感じました。