THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

「楽園のカンヴァス」 原田マハ

ISBN:978-4101259611:detail

好意と悪意、敬意と軽蔑。相反するふたつの感情が、背中合わせにその場にあることを、彼女は敏感に感じていました。若い芸術家の誰もが、アンリ・ルソーとの時間を心底楽しんでいました。と同時に、彼をからかい、馬鹿にし、面白がっている意地に悪い気配が、そこここにちらべめられていたのです。

[「楽園のカンヴァス」第七章 訪問一夜会 284ページより]

「本気であの人の女神になってやれよ。それであんたは、永遠を生きればいい」
不思議な言葉に、ヤドヴィガは、パブロの目をみつめ返しました。吸いこまれそうに深い瞳を。

[「楽園のカンヴァス」第七章 訪問一夜会 285ページより]

 上記引用文章内のパブロは、あのパブロ・ピカソです。キザですねー、ピカソさん。
 他にも読んでるこっちが恥ずかしくなって本を直視できないようなカッコいい言動だらけ。勝手にヒーローにされていて、まるで何かのファンが作る二次小説のノリです。 全編、作者の「好きで好きでたまらないんだー!!」というルソーの絵への愛、ピカソへの敬愛に溢れていて、その愛が高じて勝手にこんな物語作っちゃった、って感じの小説です。それを普通の人がやると、単なる自己満足で読むのが拷問のようにツライ同人誌レベルになってしまうんでしょうが、高い知性と知識がある人がやるとこのレベルの面白さになるんだから、すごい。
 細かくいろいろケチつけたくなるところが無くはないんですけど、でも、誰かに「最近、なんか面白い本読んだ?」とか「なんか面白い本あったら貸して」と言われたら、私はこの本を挙げると思います。凄惨な暴力やら性描写も無く、大きなトリックの破綻も無く、自分の知らない世界をたっぷり教えてくれて、ラブ・ストーリーあり、ミステリあり、そして次へ次へと読ませる力のある本ってなかなか無いです。
 女主人公の方にあまり魅力を感じられなかったのが一番残念。老け顔と若白髪をフル活用して上司になりすますティム・ブラウンさんのほうは、「頑張れよ、ティム!」という気持ちにはなるかな。 ラブ・ストーリーとしては、作者の絵画への愛 > 古書の登場人物間の愛 >>>>>> ティム・織絵、って感じで、最後の方々のが軽い軽い。無くってもいいんじゃないの、とちょっと思ったり。 それにしても、ルソーは墓の中で何を思う。勝手にこんな話作られて。 そして、なぜ2枚書いたのか、いまだによくわからない。誰か教えて下さい。

 とにかく、読み終わった瞬間、美術館に飛んでいきたくなった。ルソーの絵を検索した人も多いんじゃないでしょうか。絵の楽しみ方がこれから変わりそう。 

 こういう、読む前と読む後で、自分が少し変わっていることを実感すると、読書はやっぱりいいなあと思わずにはいられない。