THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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安藤百福 私の履歴書 魔法のラーメン発明物語

 最近の子供向けの伝記本の取り上げられている人物って、私が子供の頃とはやっぱりだいぶ変わったなあと思う。野口英世とかヘレン・ケラーとか定番中の定番の方々に交じって、ジョン・レノン、松下幸之助、スティーブ・ジョブズ、ココ・シャネルなどが登場。安藤百福も最近よく伝記に取り上げられるようになった方の一人です。安藤百福さんの人生は朝ドラにもなったみたいだけど、私は子供向けの伝記本で初めて彼について知り、そしてもっと詳しく知りたいと思いこの本を手に取りました。
ISBN:978-4532194567:detail
 本書には、インスタントラーメンの発明者にして日清食品創業者の安藤百福さんが、日経新聞の人気連載「私の履歴書」に掲載した内容がまとめられています。でも、それだけでは文庫本として分量が足りなかったのか、後半は自伝ではなく紀行文。下記の写真から本の薄さがわかると思いますが、自伝部分はさらにこの半分なので、ささっと読めてしまいます。 

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一番上が「安藤百福 私の履歴書 魔法のラーメン発明物語」
 安藤百福さんのすごさはその短い自伝だけもじゅうぶん伝わるけれど、この人物がいかにしてこうなったのかという部分、つまり生い立ちなどに関してはほんの2,3ページしか割かれておらず、ほとんどが成人後、事業を起こした後の出来事、思い出になっていて、少し物足りなかった。 これは「自伝」なので、かなり割り引いて読まなければならないとしても、どうやったらこんな高潔なくじけない心を持った強い人になれるのか、そこがもっと知りたかった。
 例えば、戦中、いわれの無い罪で憲兵隊に投獄され暴行や拷問を受けたエピソード。私なら、震えあがってやっていない犯罪までぺらぺらと自白するところですが、百福さんは強い。

罪を認めれば、この責め苦からは解放される。しかし、私は抵抗した。死んでも正義は守りたかった。

「安藤百福 私の履歴書 魔法のラーメン発明物語」32ページ

 そして、不衛生な環境で与えられる粗末な食事が食べられず絶食。その経験の中で百福さんはある種の啓示を得るわけです。

同房の人たちは私の食事を奪い合った。あさましいと言うのではない。しょせん人間は動物ではないか。飢えればそうなる。それだけのことだと思った。(中略)
極限になれば人間の本質が見えてくるという。この時、私の心は、何か透明な感じで食と言うものに突き当たった。人間にとって、食こそが最も崇高なものなのだと感じられた。即席めんの開発の源をたどっていけば、ここまでさかのぼるのかもしれない。もちろん、その時の私に、チキンラーメンの発想があったわけではない。

「安藤百福 私の履歴書 魔法のラーメン発明物語」32-33ページ

 人間はどんな状況でも食べなくてはならない。生きることは、食べること。この過酷な経験と、戦後の街で目にした餓死者の姿から、すべての仕事を投げ打ってでもこれからは「食」でやっていくと心と決めた百福さん。事業家の申し子だなあと思う。目に映るもの、経験すること、すべてが事業へとつながっている。 
 彼は、インスタントラーメンとカップラーメンという二つの発明の父であるわけだけど、その二つに関するひらめきと試行錯誤の末の成功をつづった箇所は、読んでいてわくわくした。身近過ぎて、あまり深く考えたこともなかったけれど、即席めんとカップ麺はすごい英知の結晶なのだと再確認。誰かに話したくなるエピソード満載です。
 しかし、彼は決して順風満帆の恵まれた人生ではなく、挫折や失敗も数多くある。そんな経験に関しても、率直に書かれています。「カップライス」の失敗の部分は、その損害額の大きさに驚いた。それでもずるずるとひきずらず、さっと引く潔さはさすが。 
 高潔で誠実で、働き者で、時世を読むのに長け、終わったことをくよくよ考えず、人間関係のネットワーク(コネ、と言うべきか)を大切にする。こんなふうに生きられたら、という素晴らしい人生です。なんかもう、立派過ぎてほとんど参考になるところがないくらいなんだけど、この連載を終えて得た数々の反響に関しては、

私の人生に、いかほどかでも、人の心を打つものがあることを知った。そのことが私には嬉しかった。

ですって。謙虚過ぎます。伝記になって子供たちに読まれてますよ、百福さん! 
 最後に、遅咲きの成功者としての自分を語った百福さんのこの言葉を皆さんとシェアして終わりたいと思います。

 即席めんの開発に成功した時、私は四十八歳になっていた。遅い出発とよく言われるが、人生に遅すぎるということはない。五十歳でも六十歳からでも新しい出発はある。
 私は今年九十二歳になった。振り返ると、私の人生は波乱の連続だった。両親の顔も知らず、独立独歩で生きてきた。数々の事業に手を染めたが、まさに七転び八起き、浮き沈みの大きい人生だった。成功の喜びに浸る間もなく、何度も失意の底に突き落とされた。しかし、そうした苦しい経験が、いざという時に常識を超える力を発揮させてくれた。
 即席めんの発明にたどり着くには、やはり四十八年間の人生が必要だった。

「安藤百福 私の履歴書 魔法のラーメン発明物語」32-19-20ページ

 ラーメン食べたくなっちゃった!!