THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

古い写真の持つダークな魅力から生まれたファンタジー『Miss Peregrine's Home for Peculiar Children (日本語版題名:ハヤブサが守る家、ミス・ペレグリンと奇妙な子供たち)』(by Ransom Riggs)

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 ジェイコブは、フロリダに住む孤独な15歳の少年。ある日、敬愛する祖父が凄惨な死を遂げる。その間際に目にした奇怪な生物、自分に向けられた祖父の最期の言葉の意味は何だったのか? ジェイコブは、その謎を追ってウェールズの孤島へと旅立つ。そこで彼に起こったことは・・・?

 これがほぼデビュー作と言っていい、アメリカ人若手作家ランサム・リグズによるダーク・ファンタジー小説。ターゲットの読者は、主人公と同年代の子たちだろうけど、大人でも楽しめる。2016年にティム・バートン監督で映画化もされた。
ISBN:978-1594748905:detail
 たくさんの古い写真が挿し絵代わりに使われていて、作者の「カメラで一枚一枚写真を撮って現像していた時代」への強いノスタルジーを感じる。某サイトで読んだ作者自身の自己紹介によると、”..., I became obsessed with photography.”とあり、obsessed、つまり「とりつかれるほどどうにもならないほど好き」というくらいの愛着とこだわりなのだろう。
 原書のハードカバー版は、装丁が雰囲気たっぷりで、読まなくても本棚に飾っておいたらそこだけかっこいい部屋になりそうなたたずまい。珍しく図書館で借りずにボックスセットを購入しました。作中に出てくる写真のコピーも付録で付いてきた。どう使えばいいのかわからないけれど、物語のムードには浸れます。しかし、日本版のほうは、東京創元社のこっちはまあいいとして・・・
ISBN:978-4488016562:detail
映画のポスターを表紙に持ってきたこっちは、ちょっと残念。作者が見たら、がっかりしないかなあ。
ISBN:978-4267020728:detail
 
 中身の物語は、ファンタジーとホラーとSFと歴史と冒険とラブ・ストーリー・・・やりたいことを詰め込みに詰め込んでいます。壮大です。

 そして、「写真小説」なのです。写真ありきのストーリーライン。写真を使いたい、この写真から物語を展開するとしたらどうしたらいいか、そんなところから生まれた物語なんだろうなあというのが、読者にも薄々伝わってしまう。ところどころ、無理やり写真を入れるために話が不自然になっている箇所すらある。 これらのなんとも言えない不気味な写真たちは、作者が撮影して加工したんだろうと思っていたけれど、本の最後の作者による説明を読んでびっくり、なんと本物の昔撮影されたヴィンテージの写真だそうで,物語に必要な最低限の加工はするにはしたけれど、古い写真の収集家のコレクションから頼んで貸してもらったものとのこと。そして、写真提供者である収集家の名前の長い長いリストが掲載されている。 蚤の市やそのへんのガレージ・セール、アンティーク・ショップなどで、何年もかかって古い写真を探して収集するという世界があるのですね。
 
 物語の最初のほうに、

As if these weren't bizarre enough, the last two were something out of David Lynch's nightmare:
(これらの写真は奇怪というほどでもなかったが、最後の二枚だけはデヴィッド・リンチの悪夢から生まれたかのようだった)

 というような記述もあり、全体的にリンチの映画みたいな、なんだかわからないけれど不気味で怖くて目が離せないし頭から離れない、というようなムードを活字と写真で表現するのか、と期待したんだけど、惜しい!惜しかった。 物語が写真に負けています。 しかし、「小説に写真が使われている」ととらえず、「写真集に物語がくっついている」ととらえると、「傑作写真集」と言えると思う。
 
 そしてこの小説も、若い読者向けの最近のヒット小説の例に漏れず三部作になってはいる。また三部作!! でも、この一作で読むのをやめても消化不良感はあまりない。最終章は、話をぶった切った感じはなく、主人公が新たな人生に旅立つところで美しく終わっている。そこが、「Divergent」や「Maze Runner」とは違ってよかった。

We'd brought none of the old photo albums with us; maybe this would be the first picture in a brand new one. It was strange to think that one day I might have my own stack of yellowed photos to show skeptical grand children - and my own fantastic stories to share.
(僕たちは、古いアルバムを一冊も持って来なかった。この写真が新しいアルバムの最初の一枚になるのかもしれない。不思議な気持ちだった。いつか、黄ばんだ写真の束を見せながら、疑り深い孫たちに僕自身の素晴らしい物語を分かち合う日が来るのかもしれない。)

 クリフハンガーでは無くて、そうやってきちんと終わってくれた方が、なぜか続きを読もうという気持ちになる。 このあと主人公は、ファンタジックな雰囲気のX-men仲間(要はそういうことですよね?)と冒険の旅に出てどうなるのか? 中学生くらいの夏休みにこの本と出会って、夢中で一気読みしたかったなあと心から思った小説でした。