THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

孤読を忘れる楽しい放談集その1『ベスト・オフ・映画欠席裁判』(町山智浩、柳下毅一郎)

 映画評論でご活躍のお二方が、様々な映画を俎上に上げて好き放題言い散らしている放談集(漫談集?)。間違っても「対談集」ではありません。溢れる知識と偏った趣味をバックに、映画を愛で毒を吐き、しゃべり倒している様子が活字になった本。自分のことを上品だと思っている人は読まないほうがいいし、この本で「良い映画を知ろう」とか間違っても思わないほうがいい。
ISBN:978-4167801700:detail
 10年以上前の本なので、取り上げられている映画も90年代の終わりから2005年前後までと古く、作品自体も知らないものが多い。 知識レベルが同じ人同士がわいわい身内で盛り上がっているような内容なので、出てくる人物名や引き合いに出される監督や作品もピンと来ないし、あまり読者に親切とも言えない。 それなのに面白くて、最後まで読んでしまった。電車内とか公共の場で、愛する対象(この場合は映画)のことを周囲を忘れて夢中で喋っている頭のいい人同士の会話を盗み聞きしている感じ。 
 「『キネ旬』『映芸』ベストテン大検証 映画評論家ならサリエリよりモーツァルトを評価しろ!」の章が一番興味深い。そこだけでも本一冊になるんじゃない?と思った。引用したい会話だらけ。例えば、様々な雑誌や書籍で映画のベストテンが発表されることに関しての会話を引用すると・・・

ウェイン(=町山) 面白いのはね、集計じゃない。誰が何に入れてるかなんだよ。
ガース(=柳下) ああ、そうだよね。文春のベストでも江戸木純が『ゾンビ』(78年)1位にしてたり(笑)。
ウェイン 「あー、この人やっぱりセンスいいな」とか、「コイツはバカだと思ってたけど、予想通り背伸びした映画選んでやがるな」とか勝手なこと言いながら楽しむの。
ガース 好きな映画で人格を判断するわけね(笑)。
ウェイン 当ったり前じゃん! 三十そこいらのくせに小津とかゴダールばっかり選んでる奴とは飲みに行きたかねえもん!
ガース 利口だと思われたいからそういうの選ぶんだよね。
ウェイン そこだよ! 映画に限らず「オレはコレが好きだ!」って人に言うことは、嫌でも「こういう人間だと思ってください」ってことになっちゃうじゃん。
ガース ファッション見ると好きな音楽がわかるのと似てるね。
ウェイン 水野晴郎先生が『Q&A』(90年)や『アンタッチャブル』(87年)をベストワンにしてるのを見ると、「ああ、やっぱりおまわりさんが好きなんだなあ」って顔がほころぶ(笑)。
ガース 人の本棚見る楽しみと一緒。

 そうそう、そうなんだよね、と紙上の会話に参加できない私はうなずくしかなかった。まあ、こんな感じで、ウェインこと町山氏がばばーっとしゃべり、ガースこと柳下氏がクールに相槌入れてる会話が多いです。好きな映画や本を人にさらすのは一種の自己表現だ、というお二人が編集者だった雑誌『映画秘宝』が選んだ1997年の年間ベスト10とオールタイムベスト10(97年当時)は、以下の通り。

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『映画秘宝』オールタイム・ベスト10&1997年ベスト10 
 「当時は評価されていたものの百年後は見向きもされなくなったサリエリより、当時は下品と言われ低評価だったけど世代を超えて楽しまれているモーツァルト」のような映画を、ゴミの中から宝を探すように見つけて応援していきたい、というお二人の評論家としての意気込みが存分に発揮されたベスト10だと思いました。
 そしてこの章を読んだあと、過去のベスト10分析から意外や意外ウェイン&ガースと趣味がばっちり合っちゃってることが判明した蓮實重彦さんに猛烈に興味が湧きました。 
 でもこういう放談集って、読んでいて楽しいんだけど、出てくる作家の本は読みたくなるし、取り上げられた作品は悪く言われてるものでも「そんなにひどいのか。悪口言うためにも観なくちゃ」ってなるし、欲しい本やら観たい映画やらが増えてしまうのが困ったところです。