THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

冤罪で18歳から21年間服役! 悪夢のような実話『Crown Heights』(by Colin Warner, Carl King, Holly Lorincz)

 少し前のことですが、私の住んでいる街でポルトガル系のロドリゲスさんという男性が性的暴行事件の犯人として逮捕され、真犯人のメキシコ人が逮捕されるまでの11日間拘留されるという出来事がありました。韓国人・中国人・日本人が当人以外には全部同じなのと一緒で、警察にしたらポルトガルもメキシコも区別がつかなかったらしく、ロドリゲスという名前(メキシコ出身の方の一番よくある名前ですよね)と肌の色、事件が起きたモーテルに宿泊していたというだけで、「コイツだな」と決めつけて逮捕したらしい。「警察は逮捕のために証拠など要らなかったんだ」とロドリゲスさんは後日語っています。
 その後、ロドリゲスさんは地元警察を相手に訴訟を起こし、日本円にして約四千五百万円の和解金を受け取りました。その記事を読んだ時、正直「そんなにお金とれたのか!」と正直思ったのですが、そんな大金を手にできたとしても、名誉がその後回復されたとしても、やっぱりロドリゲスさんのような経験は絶対にしたくない。どんなに怖かったことでしょう。 ご両親や奥さんやお子さんの心労も想像を絶します。和解金だって、訴訟にかかった費用を差し引いたらそんなに残らないでしょうし。訴訟自体だってすごいストレスがあったはずです。
 しかし、この本『Crown Heights』のコリン・ワーナーさんは、11日間どころかなんと21年間、やってもいない殺人の罪を償うためにニューヨークの刑務所に服役したのです!! 18歳から39歳という人生の一番良い時間を不当に奪われるなんて、こんなことが本当に起こっていいんだろうか。 まさに悪夢です、よく発狂しなかったものです。

Crown Heights (Kindle Single) (English Edition)

Crown Heights (Kindle Single) (English Edition)

 しかし、これは有色人種の、とりわけ男性だったら誰にでも起こるかもしれない不運と不当なのかもしれません。日本人含め有色人種で海外に旅行したり暮らしたりしている人は、「犯罪に遭う危険」に注意するのはもちろんのこと、「犯罪の加害者にでっちあげられる危険」に警戒を怠らないようにしなくてはいけない。悲しい現実だけど、有色人種に対する逮捕や公判は雑としか言いようがないから。そして、打ち消しようの無い「階層の違い」。16歳でアメリカに移民し、二年しか経っていない有色人種の青年など、警察にとっては社会の底辺の犯罪予備軍でしかないのだろう。実際、1980年代のニューヨークのブルックリンでは、そうした青年たちの犯罪も後を絶たなかったのかもしれない。なんでもいいからさっさと片づけちまえといういい加減さが、警察側の対応や陪審員のコメントから感じられました。
 この本に救いや美しさがあるとすれば、それは無実の親友コリンのために塀の外からすべてを尽くすカールの存在でしょう。金も時間も投げうって、20年物間、諦めずにコリンを自由の身にし無実を証明する方法を探し続けるカール。なぜそんなにも他人のために頑張れるのか、という問いにカールはこう答える。
「自分がやめたらコリンは孤立無援だ。自分しかいない。それにコリンの試練のおかげで、僕はより良い人間になれた。
 その通り、カールはタクシーの運転手や建築現場の作業員といった仕事をしながら、コリンのために異議申し立ての書類を提出し続けたり弁護士を雇ったりしたおかげですっかりその分野の法律に詳しくなってしまい、「Process Server」という訴訟のための書類準備や作成を行う専門家になったのです。そしてその職業をフルに活かし、弁護士に接近し着々と目的に向かって動いてゆく。

You don’t need to have money or power to make a difference.
(何かを変えるために、金も権力も必要無い)

 助けを必要としている人に真に助力すること、それこそが何かを成すということなんだ、というカールの言葉です。素晴らしい。素晴らしいのですが・・・
 カールの尽力により自由の身となったコリンのその後が気になります。警察関係者の誰も責任を問われることもなく、前述のロドリゲスさんと違って警察からの和解金もとれず・・・。市からは2億の和解金をとれたそうですが、訴訟費用や債務返済につかったとか。 「普通に暮らせることに感謝して生きていきたい」、そうおっしゃっているそうですが、気の毒過ぎます。これって「ごめんなさい、間違いでした」ですむことじゃないですよね? 18歳から20年の時間は、どんな大金にも代えられません! そして、警察からはその「ごめんなさい」すらもしてもらってないわけで・・・。
 今回、コリンとカールのストーリーにアマゾンが興味を示し、まずPrime Originalの映画化権を購入、そして電子本の製作権も購入して、このように私が読んでいる電子本も出版されたわけですが、少しでもせめて財政面だけでも潤うといいなと切に願っています。もうコリンは残りの人生、豪遊して暮らしていいと思うんですけどね。カールは、今もProcess Serverとして仕事を続けながら、こういった不当な罪で服役している人たちのためのサポートを続けているそうです。
 カールとコリンのこの物語が映画化された話、日本の記事にもなっていました。
www.cinematoday.jp
 そして余談と言えば余談ですが。大変興味深い、以下の記事もリンクしておきますね。私はこの記事をだいぶ前に読んでいたので、この本を読み始めた時に「コリンはいつぞやの記事で『なんか聞きたいことある?』をやっていた彼に違いない!」と思ってました。しかし、別人で・・・。冤罪で何十年も服役して言う人は他にもたくさんいるということなのでしょう。 やはり、人間の作った法制度は完璧からは程遠い。もうこんな悪夢が繰り返されませんように。
rocketnews24.com