THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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人生相談本シリーズその1 下ネタ系のお悩み相談も大歓迎の上野千鶴子さんが新鮮『身の下相談にお答えします』『また 身の下相談にお答えします』(上野千鶴子)

 回答者のご指名を受けて、光栄です。下ネタに強い、と思われたんですね、アタリです。
(『身の下相談にお答えします』36ページより)

 上記↑は、18歳の女性相談者から、「性欲が強くて勉強がはかどらない」「上野千鶴子さんにアドバイスいただきたい」という相談を受け取ったことに対する上野さんの回答の一部です。2019年の春に東大入学式の祝辞で物議をかもした上野千鶴子さんと本当に同一人物?と一瞬疑ってしまうほど、違う言語、違うノリで実に楽しそうにそしてまじめに下ネタ相談に回答されています。
ISBN:978-4022617620:detail
 この本は、朝日新聞土曜版に連載中の「悩みのるつぼ」という相談コーナーの上野千鶴子さん回答分から選出したものをまとめた本です。ほかの回答者は、本書の内容が新聞に載っていた頃は、岡田斗司夫さん、車谷長吉さん(後に美輪明宏さんに交替)、金子勝さん。上野さんが紅一点ですね。サバサバ、淡々としながらも包容力のある学校の先生という雰囲気で、確かに下ネタでもほかの悩みと全く同じ感じで聞いてくれそうな感じが一番します。
 上野さんご自身があとがきで解説されている通り、「読売新聞の老舗の身の上相談欄『人生案内』と中島らもの『明るい悩み相談室』の中間くらい」という雰囲気で、相談もそこまで深刻ではなく、回答もそこまでぶっ飛んでない、なんだか安心して読める内容でした。でも、書籍化のタイトルの『身の下相談~』は、釣りですね! ほとんど全部下ネタなのかなと思ったけれど、最初の1/4くらいです。さすが全国紙。結婚生活の悩みや、人間関係の悩み、そして老後の悩みなどが多く、回答者が上野さんの割には社会的な問題に関する話題が少ないのが意外でした。

 それにしても、第一巻と続きの両方を読み通して、「結婚」って一体なんなんだろう、ともやもやしました。結婚した人はもちろんのこと、していない人も、「結婚」に振り回されている感じがします。第一巻の「”婚外恋愛”はごまかし言葉」という19歳の男性からの相談の回答で、上野さんによる結婚の定義が回答されていてそれが絶妙でした。でも、

こういう守れない契約を社会の基礎として成立した近代社会ってヘン、て思いますか? この謎を解きたかったらジェンダー研究へどうぞ。
(『身の下相談にお答えします』88ページより)

だってさ! くっ、結局上野先生のほかの本を読まなくちゃ深いところはわからないのか! 
 私自身は「結婚」は、「精神的、経済的に自立、自己完結して生きていくのが難しいからする」、あるいは「結婚の制度を利用すると子供を産み育てやすいからする」、そんな感じのものなんじゃないかなくらいしか考えていなかったけれど、今回『身の下相談シリーズ』の二冊を読んで、今までこの社会の根本ともいえる家族形態をそれほど深く考えたことがなかった自分にあきれました。

 私が考える結婚の目的・意義からすると、この上野先生は精神的・経済的に自立でき一人で生きていける、結婚の必要の無い方とも言えます。結婚という、矛盾とあいまいの塊のような制度を熟知していらっしゃるせいか、夫婦生活や配偶者のお悩み相談に対して、かなりドライな感じがしました。「制度としておかしいものの上にのっかってるんだから、そりゃうまくいかないでしょ」「そんなにいやならおやめなさい」という上野さんの声が聞こえます。それでもひとりでは生きられない人間の弱さ・愚かさ、みたいなものがあまりよくわからないのかなと。 こんなに頭脳明晰だったら、たいていの問題は一人で解決して生きていけるだろうなあ、と少しうらやましいですが。

そもそもひとりの異性から、生活の安心、安定にとどまらず、関心や愛情、知的刺激から性的満足まで……何もかも調達できると思う方が間違いです。
(『また 身の下相談にお答えします』110ページより)

 上記は、夫に関する相談をしてきた女性に対する回答の一部ですが、これと似た言葉、たしか第一巻にも出てきたように思います。自分一人で文中のすべてを調達してきた人から見ると、結婚生活のすべての悩みが「努力しなよ、がんばりなよ」で終わってしまうのかもしれませんね。でもかと言って、頭でっかちの優等生、頭良すぎてロボットみたい、というわけではなく、理性・理屈をふっとばすような恋愛も多分経験済みで、上野さんの感情の機微に触れられる回答もあり・・・。おそらく自分語りを抜きにして理論的に回答されているおつもりなのでしょうが、上野さんの魅力炸裂だと思いました。

 二冊通読して、とても楽しかったのですが、『また 身の下~』のほうに載っていた「アルコールで死んだ夫への思い」という相談が忘れられません。相談にもなっていない相談でした。相談した方が泣きながらつづったような内容で、その方の大きな愛や後悔に涙が出てしまって。回答するのが難しかったと思うのですが、これもまた上野さんが相談者の気持ちをくみつつ、冷静に答えていらっしゃいます。よく、この相談を取り上げたものです。 
 人の数だけ、いろんな人生がある。身の上相談、人生相談の本を読んでいると、ほんとその一言に尽きます。