「敬虔なクリスチャンの両親が同性愛を認めてくれない」
「彼氏が私のパンティをはいて鏡の前にいるところに鉢合わせしたのに、彼はその後それについて何も話そうとしない」
「私の性的なファンタジーは異常ですか?」
「生まれつきの病気のせいで外見が醜く、誰とも恋愛関係になったことが無い」
「相手は何の落ち度も無く素晴らしい人なのに、若くして結婚したことを後悔している」などなど……今回の本も、どう考えても私には良い回答が思いつかないお悩みが満載です!!
新聞や雑誌などの人生相談コーナーのことを、英語ではAdvice Columnと言うそうです。相談に回答する人は、Advice Columnist。そのまんまですね。たいていそういったコーナーは「Dear Abby」だの「Ask Polly」だのと、Advice Columnistの名前がタイトルになっています。今回取り上げる本は、『Dear Sugar』という、インターネットのとあるサイトRumpus(ちょこっと覗いたけど主旨がいまいちわからなかった、物書きのためのサイト?)で人気だったAdvice Columnからの選出集です。回答者は、連載当初は「Sugar」というペンネームを名乗っていたけれど、途中から素性を明かしたベストセラー作家のシェリル・ストレイドさん。前回ご紹介した上野千鶴子さんの相談本は、部数ウン百万部という全国紙上での相談・回答なので内容・字数ともにある一定の制限があったのに対し、こちらはネットですからかなり自由度が高い。相談・回答ともに分量が多く、そしてかなり刺激的でした。
ISBN:978-0307949332:detail
シェリル・ストレイドさんは、映画『わたしに会うまでの1600キロ』の原作で数年前ベストセラー作家の仲間入りを果たした人。私は未読・未見ですが、女性が厳しい自然の中で自分探しの旅を続けると言った内容で、ミレニアル世代(1989年~1995年)にウケたように記憶しています。影響されて同じように荒野を旅した若い青年が帰れなくなった痛ましい事件もあったような・・・? 驚いたことに、シェリルさん、このお悩み相談コラムは無償で引き受けて続けたとのこと。かなりの時間をとられる仕事だと思うんですけどね。
ISBN:978-4863893085:detail
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- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2018/07/04
- メディア: Blu-ray
あと、「自分の直感や本能を信じ、それらを無視してはいけない」という彼女の価値観に基づく回答が多いので、いくつかの回答に関しては納得いかない読者も多いかもしれません。誰を傷つけても自分の心が命じたところに従うべき、自分の気持ちを一番大切に、という姿勢なのです。ある意味とても自分勝手な生き方であり、自分の選択に強い精神力で責任を持って生きられる人のみができる生き方でもあり、誰にでも当てはまる普遍的な解決策ではないと感じる回答も多かったです。
相談者からのメールの内容は、多岐に渡っていますが、痛み止め薬中毒の問題や、LBGTのお悩み、性の悩みがオープンに熱心に語られているところにアメリカを感じました。アメリカ人の性生活へのこだわりはすごいように思います(まあ、メディアを通しての印象ですが)。日本など淡白です・・・。
しかし、成人した子供たちが実家に寄生していて困っている親とか、浮気してしまいそう、とか上野千鶴子さんの本に載っていたものと似たような悩みもあり、あらためて人間って国は違えど同じようなことで悩むんだなと思ったり、上野さんとシェリルさんの回答の相似や違いも興味深かったです。
この本の白眉は、飲酒運転の車の犠牲になって22歳でこの世を去った息子さんの死から四年経っても立ち直れないという父親からのメールと、それに対するシェリルさんの回答『The Obliterated Place』でしょうか。行き場の無い苦しみ、後悔、愛が伝わってくる相談者の悲痛なメールが心から離れません。こんな彼にかけられる言葉を持っている人がどこにいるというんでしょう。こんなの、誰も何も言えない。でもそれを理解した上で、彼は「あなたは、自分は子を亡くしたことがないから何か言う権利は無いと回答を避けるかもしれない。でも、あなたからの言葉がほしい」と、シェリルさんに助けを求めているわけです。そして、シェリルさんも、心のすべてを傾けるかのように回答しています。これに答えるのは相当勇気が要ったでしょう。素晴らしいと思いました。以下で全文読めますので、もし興味がおありの方はここだけでも精読してみて下さい。
therumpus.net
今回、英語圏の人生相談本を初めて読みましたが、これって英語の勉強にもいいですね。小説と違って、相談と回答の1セットが一日一つずつ精読するに丁度いい長さだし、かなり話し言葉にも近いですし。小説の地の文の表現ってそのまま話すと変なのも多いけれど、この手の文章はお互いに語りかけあっているようなところがあるので、実際の会話にも役立つと思いました。Fワードも頻出。Fワード活用が学べます。そんなもん学んでどうすると言われそうですが、自分では使わなくても、小説や映画で出てきたときに意味合いを理解したいですよね。でも、日本語で悪い事にもいいことにも「ヤバい」を使うみたいに、Fワードも本来の意味から離れてかなりの意味を持つようになってしまったようで、ネイティブではない私が完全に理解するのは無理だろうなあと今回もため息が出ました。
でももちろん、Fワード満載でも、美しい表現や真剣で熱い気持ちに溢れた本です。最後まで読み切ると、なんだかひたむきな著者の気持ちに影響されてしまうような力強い本でした。