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人生相談本シリーズその4 小僧ども、ソープへ行け!地平線を追いかけろ!『試みの地平線 伝説復活編』(北方 謙三)

 以前ネットのどこかで「生まれてから一度も女性とお付き合いしたことが無い」という男性のお悩み相談に対して、元陸上選手の為末大さんが「北方謙三先生なら”ソープへ行け!”で終わりなんでしょうけど」という感じで回答されていたのを読んだことがあります。察するに、この北方先生(先生、と呼びたくなる方です)の人生相談はある年代の男性によく知られた有名なものなのでしょうね。
 この本は、雑誌『ホットドック・プレス』上で16年間(!)395回に渡って続けられた、日本のハードボイルド小説界の第一人者、北方謙三先生回答のお悩み相談の選出集。
ISBN:978-4062752879:detail
 私は、『ホットドック・プレス』も読んだことが無く、この人生相談のことは連載中も連載後も全く知りませんでしたが、十年くらい前に某都市の日本人向け書店で、北方先生のどアップ写真の下に「ソープへ行け!」と大きな文字が躍っている表紙と目が合ってしまい、気が付くとレジに本を差し出していました。そして、もちろん一気読みです。一応女性なんでさすがにソープまでは行けませんでしたが、なんかすごい力に突き動かされる本です。
 以来、入れ替わりの激しい私の本棚の中で、依然として北方先生は大きな顔で居座っておられます。明らかに男性、特に若い青少年がターゲットなのですが、女性の私が読んでもおもしろくてたまらない本で、前回の車谷長吉さんに続いてこれまた唯一無二、北方先生にしてできない人生相談であり手放せません。
 性器に関するコンプレックスとか、女性の私が読んでいいのかと申し訳無く感じるような悩みもあるのですが、寄せられている悩み自体は多分この先何十年経っても同じ悩みを持つ青少年がいるであろうというものばかりです。「初体験をスムーズに終わらせたい」「彼女を妊娠させてしまった」「もう生きていたくない」「ひとりでさみしい」などなど、掲載された悩みの内容が古くなることは無いでしょう。
 しかし、久しぶりに読み返すと、北方先生の回答部分とコラムは、今はこのまま出版することはできないかもしれませんね。だって、『はじめに』からいきなり、

 世の女どもの、嘲笑と反撥を買うだろう。そんなものは、俺にとっては屁のようなものだ。昔から、女はそんなことに目くじらを立て、喚き立てる動物だった。
(中略)女などうるさいときには張り倒せ。
(『はじめに』10ページより)

ですから!! そのあとすぐに、

女がほんとうに悲しんでいる時、苦しんでいる時、困り果てている時、助けてやれる男であればいいのだ。
(『はじめに』10ページより)

と続くとは言え、修正を依頼されてしまいそうです。今はそういう世の中ですから。ここだけじゃなくて、途中でも「女にでかい顔させるな」みたいな表現もあって、そこには時の流れを感じます。女性である私は怒んなくちゃいけないんでしょうけど、本を全部読むと北方先生が決して女性をバカにして貶めている訳ではない、というのが分かり、あまりムカッとはしません。「人の一挙手一投足に右往左往しないくらい、何かを見つけて死ぬ気で打ち込め」が真意なんでしょう。
 ほぼすべての文章が、「おい小僧ども」「女ども」「おまえら」「~しろ」みたいな口調で、上から目線バリバリです。それの何が悪い? 俺のほうがお前らよりずっと上だろ? 違うと思うなら、俺に勝てるとこを見せろ! 全編こんな感じです。怒ったり笑ったりしてはいけません。男・北方の心を込めた叱咤激励、鼓舞なのです。 
 お悩み相談と回答のやり取りの合間に、「KENZO'S MESSAGE」というコラムがあるのですが、その内容も文章もさすがです。引用したいところに付箋を貼ろうとしたら、付箋だらけになり意味がありませんでした。

 おまえらには、俺にないものがひとつある。若さだ。それを生かそうとしないお前らを見ていると、なんともくやしくて、俺は怒鳴りたくなってしまうのだ。(中略)俺が自分の全財産をはたいても買えないそれを、おまえらは持っている。
 わかるか、俺の言っていることが。生きて、生ききって、ズタズタになり、どうにもならなくなってから、悩め。それまでは鼻の穴をふくらませて突っ走れ。
(『友よ君は』88~89ページより)

 ここまで他者に対して真剣に気持ちを寄せて何かを訴えようとする行為自体が、最近はどこにも無くなりつつあるように思います。うざい、なんかこの人すごいマジなんだけど、とひかれるだけでしょうね。この本も、誰かとツッコミを入れつつ笑いながら読まれてしまう類の本になってしまったかもしれません。事実、私も、「これは真面目に書いているのか?北方謙三が本人をパロってるのか」と笑ってしまうところがあったり、『ボクはホモです。このままでいいか?』という相談の最後の一文で吹いてしまったり。 こんなノリで行動していたら、今は笑いものでしょう。
 でも、北方先生の言葉の根底に、中身の無い空虚なカッコつけではなく、悩みを寄せる青少年たちを実の弟のように思いやる兄貴のような愛の大きさ、読者との真剣な友情、魂を込めて仕事をして生きているという北方先生のプライドがあるのがひしひしと伝わるのです。やはり、大きな大きな器を持った方です。すべての言葉がありがたく興味深く感じます。
 真の男らしさとは何なのか? カッコいい大人とは何なのか?
 バーで真っ赤な口紅が似合う謎の女と一杯飲んでいるうちに社会の闇と戦うことなのか? 葉巻吸うことなのか? 高級車を乗りこなすこと? とかく「型」と「イメージ」から入りがちなハードボイルドの世界を描いてきた北方先生ですが、生き方が伴っている男性なのだと知って大好きになりました。最近は、硬派な歴史小説の大作を書かれているようで、是非そちらも読んでみたいです。
 余談ですが、北方先生は日本推理作家協会10代目理事長も務めておられ、その時のエピソードが『文学賞メッタ斬り!』に少し出てきます。北方先生から魅惑の低音ボイスで突如電話が来たと喜び動揺する大森・豊崎両氏。北方先生、ほんとによく働いていますね。
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