THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

かつて大人の都合で都会から田舎へと大量に輸送され、配布された孤児たちがいた。アメリカ版「おしん」みたい『Orphan Train』(by Christina Baker Kline)

列車で中西部へと送られた子供たち——彼らは皆、ニューヨークの街の通りからごみやがらくたのように集められたのだ。できるだけ遠く、目につかぬところに送り出すために。
All those children sent on trains to the Midwest—collected off the streets of New York like refuse, garbage on a barge, to be sent as far away as possible, out of sight.
『Orphan Train』(by Christina Baker Kline)より

 2013年出版後、ブッククラブ(皆で同じ本を読んで語り合う会)で頻繁に課題図書となり口コミでベストセラーとなった一冊。2014年には、既に累計販売数100万部を超える大ヒットになっています。ジャンルは、史実を元にした架空の物語、Historical Fictionでしょうか。
ISBN:978-0061950728:detail
 作者のクリスティーナ・ベイカー・クラインさんは、数作小説を発表したことはあるもののあまりヒットには至らず・・・といった感じの作家だったようで、出版社にとっても本人にとってもサプライズ・ヒットとなったいきさつがこの記事にも書かれています。
www.usatoday.com
 作品の一部の舞台がメイン州なので、私はなんとなくスティーブン・キングのおひざもとだなと彼のことが頭をよぎったりしていたのですが、なんとなんと作者のクラインさんはスティーブン・キングの二人の息子さんジョーとオーエン(両方売れっ子作家になりましたね~)のベビーシッターだったそうです!! すごいすごい。キング一家も彼女の成功を喜んでいることでしょう。
 ざっくり言うと今から100年くらい前、この作品で取り上げられている「Orphan Train」は実在し、何年にも渡ってニューヨークの孤児たちを大陸の真ん中の農村地帯に電車で運んで、子供が欲しい人たちに駅で引き渡し続けていました。 日本で言うと、東京の街から東北の寒村とか、働き手が足りない田舎に行かされる感じ? 電車で送られた子供の推定総数は20万人! もちろん、身寄りの無い子供たちに暖かい家庭を与えたいという良い目的もあったのでしょうが、本音は都会に過密する人口を各地に配分したい、中西部の農村地帯の農作物生産量を増やすために労働力を増やしたい、という大人の都合です。この史実はアメリカ人にもあまり知られていないらしい。 社会の時間に取り上げられたり歴史に教科書に載ったりはしていないそうで、この小説に対する皆さんの感想でも「知らなかった!!」という驚きの声が多かったです。
 小説は、里親の家庭を転々とする日々を送る現代の孤児である女子高生モリ―が、91歳になった「Orphan Train」に乗った少女ヴィヴィアンと交流し、現代の孤児と80年前の孤児の物語が行ったり来たりして一つになるという流れです。かなり平易な英語で書かれ、先へ先へと読ませる力が大きい小説、いわゆる”Page Turner”なので、ブッククラブの課題図書向きですよね。とにかく読みやすい。私のような英語力でも2,3日で読了できる。素晴らしい。見習って下さいよマーガレット・アトウッドさん! でも英語のネイティブ・スピーカーや文学作品を求めている人には物足りなさがあるらしく、「Quick read」「Elementary level」「YA小説に入れろ」とレビューしている人もいましたね。
 老婆ヴィヴィアンの少女時代は、やはり想像通り涙と怒りを誘う過酷さで、これでもかこれでもかというくらい苦難と屈辱に満ちています。なんか、口減らしのために丁稚奉公みたいなのに出されたおしんを思い出しました。そしてお約束ですが、けなげで性格良くて持って生まれた才覚で過酷な少女時代を生き抜き、成功するんですよね。ほんとまんま「おしん」じゃないですか! 「おしん」、祖母に観ろって言われて少女時代~結婚くらいまでまとめて観た記憶があるんだけど、たしかおしんはスーパーマーケットの経営で大成功していたような・・・? この本とかなりかぶってる! 作者は「おしん」をチェックしてんじゃないだろうか。 おそるべしおしんそして橋田寿賀子。この間インド人にも「I love Osheen!」って嬉しそうに言われたし。オシーンってアラブかどっかの有名人の名前だっけかとぼんやり考えていたら、相手は「オシン!TVドラマ!Don't you know it?」とかなり悲しそうだった。有名なドラマだけどあれは昔の日本だからね、日本が今もあんなだと思わないでよ、と念を押しておきましたが、通じたかわかりません。とにかく「すごい面白いドラマだ」と興奮していたから。 これから海外進出を考えていらっしゃる方々、「おしん」はチェックしておきましょう。思ったより世界に流通しているようですよ。
 「おしん」もこの小説もそうですが、人はなぜ少年少女が過酷な人生を生き抜く痛々しい姿に惹かれるんでしょうね? 現実だったら見ていられない悲惨さなのに。過酷である代わりにどういうふうにも変われる自由さがあるからか? 幸せになるのを見届けたいという願いか? 私にもわかりません。でも、「Orphan Train」の孤児たちのはっきり言って奴隷以下の姿にもう目が離せませんでした。↓これが電車の停まる駅の看板の言葉です。

10月18日金曜日ミルウォーキー駅に東海岸からの児童到着 配布は午前10時から
CHILDREN FROM THE EAST WILL ARRIVE AT MILWAUKEE ROAD DEPOT, FRIDAY, OCTOBER 18. DISTRIBUTION WILL TAKE PLACE AT 10 A.M.

 そして、児童の里親探しのコーディネーターみたいな人がこんなことを言う。

お選びになった子供はタダですよ、90日間の試用期間後ご希望であれば返送して結構です」
“The child you select is yours for free,” he adds, “on a ninety-day trial. At which point, if you so choose, you may send him back.”

 なんかもう・・・人間じゃなくてモノ? 新型家電状態でステージ上に並べられて、その場で連れて行かれて・・・史実かと思うとやはりショッキングです。こんなの悪い人たちに悪用されるに決まっているじゃないですか。この小説は、やはり前半のこの史実が多く出てくるあたりが読み応えありますね。そして、現代の孤児モリ―の現状から、これほど悲惨じゃないとしても今も大人に利用される存在でしかない孤児がいて、大人の醜さは変わらないのだという虚しさも感じました。 アメリカの里親制度をあまりよく知らないのですが、モリーの里親は彼女を家庭に受け入れることで金銭を得られ、そのためだけに里親をしているように描かれているんです。お金だけ受け取って愛情を子供に注ぐことはしない。孤児からこんな形で搾取しようとする人たちは現代にもいるのです。
 余談ですが、その悪役の里親は小説の中で「銃大好き中絶絶対反対、ヴェジタリアンを尊重せず肉ばかり食べる田舎の白人」に設定されています。レビューで、そのことを怒っている人が結構いました。あまりに一面的な浅いキャラクターじゃないかと。「そういう奴らはろくな親じゃないだろうね」という作者の偏見だと。こんな
ところにもリベラルと保守の対立が!! アメリカ社会の分断は、相当深刻です・・・。


英語勉強用メモ:
今回の小説の作者が繰り返し使っていた英語表現
1)bits and pieces(こまごまとしたもの、断片的なもの)
5、6回出てくる。使いすぎ。作者の口癖? Mrs. Nielsen told me bits an pieces of her life. (ニールセン夫人は、自分の人生についてこまごまと語った)  She remembers bits and pieces of her childhood. (彼女は子供時代を断片的に覚えていた)  Molly got bits and pieces of Jack's story. (モリーはジャックの話したことのあれこれを寄せ集めた)
2)cut out for(~に向いている)
2,3回出てきたような・・・。否定形で使われることが多いみたいですね。Maybe you aren't cut out for this kind of work.(あなたこういう仕事に向いてないんじゃない) I knew I wasn't cut out for it.(向いてないなってことはわかってたんだ)
3)go out on a limb(危険を冒す、危ない橋を渡る)
He went out on a limb for you, don't ask me why. (彼はあなたのために危険を冒したのよ、なんでかわかってるよね)