THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

Empty Nesterになった町山さん、映画の話題の深さはさすが『アメリカ炎上通信 言霊USA XXL』(町山智浩)

 アメリカに移住した映画評論家の町山智浩さんが、アメリカで流行っている言葉や話題になっている失言や名言を日本に毎週伝える週刊文春連載『言霊USA』。連載が続いて早10年、その中から2018年3月8日号~2019年7月25日号に掲載された記事を書籍化した単行本です。

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL

  • 作者:町山 智浩
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: 単行本
 アメリカ在住と言えど英語がいまいちな私は、いつも情報収集で苦労しています。いわゆる「情弱」というやつでしょうか。移民は情弱になりやすいですよね。言葉の壁があるので、情報収集に時間とエネルギーが必要なんです。それに、たいてい同じ人種で固まってそのコミュニティの中にしか交友関係が無いので、私の周囲の移民友達は日本人に限らずびっくりするほど何もアメリカのことを知りません。毎日ものすごいスピードで大量に供給される情報を、母国語ではない言語で処理していくのはやはり難しいのだと感じます。
 そういう事情もあり、秋山曜子さんの毎週のコラムと町山さんの『言霊USA』の単行本には本当に助けられています。お二人とも、かなりの数の新聞やテレビ、ネット記事や雑誌をチェックするといった私が絶対時間的にも能力的にもできないことをなさって、それをアウトプットして下さるので大変助かります。政治・経済からスポーツ、ファッションの情報まで浅く広く全範囲を網羅していているのが秋山さん。 エンターテイメント、特に映画と音楽の話題は町山さん。 秋山さんは完璧に日本語と英語を操るアメリカ人みたいな感じでアメリカ人の中から情報発信して下さっているのに対し、町山さんはまだ「日本人」で、アメリカに暮らしていて私が感じるような違和感やとまどいをいまだに色濃く感じていらっしゃるのがわかります。二人のコラムを両方読んで、ちょうどいいなと感じます。
 町山さんの本で残念なのは、単行本になってから読んでいるので、いつもやっぱり内容が少し古いということ。今回の本も、一番古い記事でも二年経ってないのに、なんだかものすごい「昔」のような感じが。それだけ、世の中の流れ、情報の流れが激しいということなのでしょう。まったくもうついていけません。
 それと、気のせいか連載が時を追うごとに政治色が強くなってきている感じがします。今のアメリカが町山さんには耐え難い社会になっているのはよくわかりますが、やっぱりこの本の中でも出色だなと思う記事は、映画か音楽など、エンターテインメントに関するものなんですよね。特に映画に関する記事は、これは町山さんじゃなくちゃ書けない、これが書ける日本人は町山さんだけ、といつも読んでいて楽しいです。専門分野は専門家に。餅は餅屋。読者は、やっぱりそんな記事を求めているのでは。音楽の記事も、私が自分の情報収集能力じゃなかなかカバーしきれないところなので、助かってます。今回はケンドリック・ラマ―の記事、前回の単行本でもエミネムとキッドロックの記事がおもしろかった。
 「Empty Nester(子供に巣立たれた親)」という言葉が取り上げられているのには、「別に流行ってる言葉でもないしずっと昔からある言葉なのになぜ?」と首を傾げたけれど、これは町山さんご自身が最近お子さんの大学進学に伴い、「ついにEmpty Nesterになってしまった」ということだったのですね。そのコラムもご自身の身辺の変化に関して悲哀を隠しもせずに、ピクサーの短編映画と絡めて書いておられさすがでした。元気出して、町山さん! 今はアメリカでも「いつまでもEmpty Nesterになれない親」とか「Empty Nesterになったと思ってたのに、子供が戻ってきちゃった親」とかが問題になってますからね。Empty Nesterになってさみしい~って言っていられる親は幸せ者です。
 そして、いつもながら澤井健さんのイラストが素晴らしい!! 一コマコラムみたいになってるんですよね。似てる!似てる!そうそう!!と毎ページ、目が幸せでした。澤井さんのイラストでこの本の魅力が40パーセントくらい増している。
 今のアメリカのしょうもない現実には気が重くなりますが、気軽にさらさら~と読めて、今のアメリカの一端がわかり、そして観たい映画や聴きたい音楽が増える一冊でした。