THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

書店と本へのあふれる愛、アメリカ文学ガイドのような大人のおとぎ話『The Storied Life of A. J. Fikry (書店主フィクリーのものがたり)』(by Gabrielle Zevin)

“A town isn’t a town without a bookstore.”
「本屋の無い街なんて街じゃない」

(from Page 259, The Storied Life of A. J. Fikry)

"Bookstores attract the right kind of folk. Good people like A.J. and Amelia."
「本屋ってのは、ちゃんとした奴らを惹きつけるものなんだ、A.Jとかアメリアみたいないい人間をな」
(from Page 255, The Storied Life of A. J. Fikry)

 2014年12月刊行のアメリカ人作家ガブリエル・ゼヴィンによる八作目の小説。日本語版も出ており、2016年本屋大賞「翻訳小説部門」の一位だそうです。

「すべての読書家、本好き必読の一冊」というhachiro86さんの書評を読んで興味を感じ、英語版を手にしてみました。
hachiro86.hatenablog.com

 装丁は、原書のほうがいいですね。
 アメリカではそれほど大当たりした小説でもないので、日本語に翻訳される小説ってどうやって選ばれているんだろう、とたまに不思議に思います。アメリカで売れたから日本語に翻訳されて日本の本屋に買われる、というわけではなさそう。この小説が本屋さんたちに愛されるというのはまあ理解できますが。本屋と本屋さんが主人公のお話なんだから。
 2019年12月現在、Amazon.comの「Booksellers, Bookselling」部門で売り上げ第一位だそうですが、こんな細かいジャンル分けしたら、どの小説もたいてい一位になれるんじゃないの、と苦笑してしまいました。四肢麻痺アメリカ人犯罪捜査官部門一位『ボーン・コレクター』(ジェフリー・ディーヴァー)!! とか、遺伝子工学恐竜部門第一位『ジュラシック・パーク』(マイケル・クライトン)!! とか。

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Amazon.comより
 小説の舞台は、マサチューセッツ沖の架空の島、アリス島の個人経営の書店。・もうこの設定の時点でファンタジー。こんな本屋、現代のアメリカでは絶滅していますよね。90年代の映画『ユー・ガット・メール』で、メグ・ライアン扮する書店主が街角の小さな本屋を閉店する切ないエピソードがあり、その原因となったのが巨大資本で経営されている大手の書店チェーン(どう見てもバーンズ・アンド・ノーブル)だったのですが、今ではその大手書店チェーンが「時間の問題だな」と囁かれているというのが現状です。私は中規模の地方都市に住んでいますが、私の街のバーンズ・アンド・ノーブルもやばそうだなと感じます。そのほかの本屋は、売れ残りの古い本を半額で売っている「Half Price Books」一件だけ。この小説に出てくるような店主の好みが色濃く出ている個性的な書店なんて、もうかなり昔から見た事も聞いたこともありません。その現実を考えながら読むとすごく悲しい。「街の本屋さん」という今はもう戻ってこない文化、そこで過ごした思い出や時の移り変わりを思ってしまうからです。読みようによっては切なすぎる小説です。こんなふうに誰かに救済されて経営が続く本屋は、もうおとぎ話なのです。
 舞台設定のみならず、ストーリー自体も全体的にこんなことがあったらいいなあという大人のファンタジーで、特に孤児を養子にするところはちょっと展開がキュート過ぎると感じました。主人公の書店主が自分の本の好みをまくしたてる場面があるのですが、「子供の本、特に孤児が出てくる本が嫌い」って言うんですよね。この小説のストーリー自体が彼のテイストに合ってないところが、少し皮肉で面白いです。
 また、主要登場人物が全員ハーヴァードだのプリンストンだのヴァッサーだの超一流大学を出ているインテリ(著者もハーヴァード卒)で、アメリカ文学に関する知的な会話を繰り広げており、その半分もわからず置いてきぼり状態の私は正直多少ひがみも感じました。

“The Beauties” by Anton Chekhov,
“The Doll’s House” by Katherine Mansfield,
“A Perfect Day for Bananafish” by J. D. Salinger,
“Brownies” or “Drinking Coffee Elsewhere” both by ZZ Packer,
“In the Cemetery Where Al Jolson Is Buried” by Amy Hempel,
“Fat” by Raymond Carver,
“Indian Camp” by Ernest Hemingway.
(from Page 179, The Storied Life of A. J. Fikry)

 上記は、主人公がティーンネイジャーの娘に読むことを薦める本の数々です。チェーホフ、キャサリン・マンスフィールド、サリンジャー、ZZ・パッカー、エイミー・ヘンペル、レイモンド・カーヴァー、ヘミングウェイ・・・。一冊も読んだことすらない・・・。自分はちっとも本を読んでいないのだなということを再確認させられます。この小説の登場人物で言うと、私はジェフリー・ディーヴァーやジェイムス・パターソンやYA小説ばかり読んでいるランビエーズ警官でしょうか。でも、著者がランビエーズ警官を好意的に書いているので、私のような「読者家とは言えないタダの本好き」みたいな読者にも「それでいいんだよ、それもいいよね」と言ってくれているととりました。バカにしている感じだったら、途中で読むのをやめてたと思います。
 私のような「インテリの文学談義についていけない読者」は、ここは素直にこの本をブックガイドととらえ、これからたくさん読むぞと思うしかないですね。私は、読んでみたい本をたくさんメモしましたよ。特に、警官たちの読書会で、白熱して頭に銃を突きつけるまでになったという『House of Sand and Fog(砂と霧の家)』(Andre Dubus III)が気になりました。この小説の何にそんなにもめたのか? 映画化もされているようだし、なんらかの物議を醸すおもしろい小説なのでしょうね。絶対読んでみようと思います。
 読書家を自称する方、特にアメリカ文学が好きな人にはもうページをめくる手が止まらない面白い小説でしょう。ちょっとしたミステリーあり、ラブストーリーあり・・・。ありそうで無さそうな感じの物語。「本っていいよね、本大好き!!」という著者のまっすぐな愛に心が温かくなりました。そして、読んでみたい本がまた増えてしまう困った本です。

We read to know we’re not alone. We read because we are alone. We read and we are not alone. We are not alone.
(from Page 249, The Storied Life of A. J. Fikry)

独りじゃないと知るために読む。
独りだからこそ読む。
本を読むと独りではないんだ。私たちは独りじゃないんだよ。

書店主フィクリーのものがたり

書店主フィクリーのものがたり

The Storied Life of A. J. Fikry

The Storied Life of A. J. Fikry

  • 作者:Gabrielle Zevin
  • 発売日: 2014/12/02
  • メディア: ペーパーバック
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