THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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日系俳優ジョージ・タケイの日本人強制収容所での体験がグラフィックノベルに『They Called Us Enemy』(by George Takei, Justin Eisinger, Steven Scott)

 ジョージ・タケイさんは、TVドラマ『スター・トレック』のヒカル・スールー役で一躍有名になった日系アメリカ人俳優で、アジア系俳優で初めて大きな成功を収めたと言っていい方だと思います。
 しかし、タケイさん出演の頃の『スター・トレック』シリーズはかなり昔で、現在は別の俳優に変わっていますし、私も実は観た事はありません。現在のタケイさんは、世間的には俳優と言うよりマイノリティのための活動家であり、”Internet favorite uncle”、「ネットで活発に発信している面白いおじさん」といった感じです。
 
 去年、アメリカの小学校の社会の授業の一環で、5年生の1学級による第二次世界大戦に関するプレゼンを観る機会がありました。そこで、原爆投下やホロコーストなどと合わせて、この日本人強制収容のことが取り上げられていることに驚きました。日本人の私すらあまりよく知らないことが、アメリカでは「知っておかなければならない戦争の過ち、悲劇、恥の歴史」の一つなのです。
 第二次世界大戦当時、アメリカ国内で起こった日系アメリカ人の問題なので、まあ現在日本に住む日本人にとっては、「遠いアメリカで起こった、日本を捨てて移民した人たちがなんかひどい目にあった」という程度の共感しづらい問題なんですよね。だから、日本ではほぼ全く取り上げられないのでしょう。
 でも、この本を読むと彼らも日本人の心を持ち、日本を愛するがゆえに苦しんだ「日本人」なのだと思い知らされます。

 ジョージ・タケイさんはいわゆる「二世」(ご両親が日本からの移民で自身はアメリカ生まれのアメリカ人)で、ロサンジェルスで3人兄弟の長男としてご両親と平穏な生活を送っていました。しかし5歳くらいの時に第二次世界大戦が始まり、そのすべてが奪われてしまいます。親の出身国が移民先の国に戦争を始めたという悪夢。人種がたまたま「日本人」というだけで、本人たちは立派なアメリカ国民のつもりなわけですが、当時のアメリカ人たちにとってみれば「同胞を殺した憎いやつらの一員」でしかないのです。
 小学校の研究発表でも下記の場面にあるような落書きの写真を何枚も見せられました。

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近隣住民による破壊や落書きの行為
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嫌がらせや仲間外れ
 やがて、タケイさん一家のような日系移民の日本人たちは、一生懸命働いて買った家や土地をアメリカ政府に取り上げられ、職業も奪われ、ほとんど身一つで、遠い強制収容所へと送られます。その後は、囚人の刑務所暮らしとなんら変わりません。
 タケイさんや兄弟たちは幼な過ぎて何が起こっているのかよくわからず、劣悪な環境の中でも子供らしくのびのびと育っていったというふうに、本書には描かれています。そのせいでこの本自体はあまり暗い雰囲気ではないのですが、ご両親の世代の人生が描かれている部分は悲し過ぎます。
 収容所にむかう途中、一行は競馬場に一旦収容されます。何もわからず「お馬さんがいたところで寝るんだよー!」とはしゃぐタケイさんたち子供を前に、屈辱に耐える親たち。住み慣れた家から突然連れ出され、馬糞のにおいがぷんぷん漂っている馬房に寝泊まりしなくてはならないのですから。
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競馬場の馬房に寝泊まりを命じられた場面
 この場面の後の数年間、二か所の収容所で一家は生活します。
 強制収容所の収容者に、アメリカ政府は「アメリカに絶対の忠誠を誓うか」「日本の天皇陛下への忠誠を捨てると誓うか」という「踏み絵」のような誓約書に署名を迫ります。驚いたことにタケイさんのご両親は悩んで悩んでこれに「No」を突きつけたのです。こんなのを拒否したら、ろくな目に合わないことは明白じゃないですか。私だったら少しでも自分の立場を良くするためにほいほい署名します。タケイさんのご両親はじめこれを拒否した日本人の方のプライドと信念に心を打たれました。「あなたたちは私たちを敵と見なしてこんなところに閉じ込めたのに、日本というルーツを否定しアメリカに忠誠を誓えと迫るのか?」という抗議の意思を勇気を持って示したのです。彼らは、日本もアメリカも心から愛していたのでしょう。

 収容された日本人たちは、戦後、没収された家や車が返ってくることもなく、スラム街でゼロから這い上がって生きていくしかなかった。失われた人生や名誉は、長い時間をかけても戻ってきません。こんな生い立ちでよく俳優としてここまで成功したものです。ご両親が懸命に生きられた証が今のタケイさんなのだと思います。

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本の序文「果てることの無い愛で人生を導いてくれた父と母の思い出に」
 この本には、タケイさん一家以外にも、勇気とプライドを持って戦争の時代を生きた、名も無い日本人の移民がたくさん出てきます。感謝と尊敬の気持ちが絶えません。
 イラク戦争や911のテロ事件の時、中東地域からアメリカに移民した人たちやその子供たちは、かなりの肩身の狭さや冷たい視線を経験したと聞きました。でも、この日本人収容所みたいなひどいことにはさすがにならなかった。人々は、過ちを学んだということだと思うのです。これからも、違う人種が同じ国で暮らすことの難しさは無くならないと思うので、こういった歴史がグラフィック・ノベルという読みやすい形で残っていくのは、後世にすごくプラスになるのではないかと思いました。
They Called Us Enemy

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