THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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死刑制度を考えるきっかけにぴったりなサスペンス・ミステリ小説『13階段』(高野 和明)

 「殺すのが二人までなら死刑にならないから、二人までにしておこうと思った」
 この事件の犯人の上記発言のせいで、現行死刑制度への疑問や批判がまた高まっていますね。
www.sankei.com
 「死刑制度が無かったら、もっと殺されていたぞ!」
 「こんなヤツがなんで死刑にならないんだ!」
 ネットでは、ニュースに対しこんなコメントをしている人が多かったです。あなたはどう思われたでしょうか? 私は正直言って、そんなふうにズバッと意見を持てる人がうらやましいです。私は、死刑を巡る問題に関しては単純に「これ」という意見が持てずにいます。正しい答えは存在しないとずっと思っています。この小説を読んで、ますますそう思うようになりました。
 『13階段』は、2001年の江戸川乱歩賞受賞作となった高野和明さんのデビュー小説です。2003年には映画化もされました。私は映画のほうは未見です。

13階段 (講談社文庫)

13階段 (講談社文庫)

  • 作者:高野 和明
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/08/10
  • メディア: 文庫
 小説のほうは、「仮釈放中の青年と刑務官のコンビは、死刑の執行が迫っている冤罪の死刑囚を救えるか」というサスペンスでぐいぐい一気読みさせるエンターテイメント性の高い作品です。
 しかし、読んでから数年経った今、サスペンスの部分や「真犯人は誰なのか」というミステリのトリック等はすっぽりと記憶から抜け落ち、残っているのは、刑務官・南郷の仕事が書かれた第四章『過去』のみです。
 この第四章は、刑法史に残る大論争に軽く触れつつ刑務官の揺れる心を描き、そして具体的な処刑手順がリハーサルから実行に至るまでことこまかに描写されている章です。

特別配給の饅頭に相好を崩し、うまそうにむしゃぶりついている殺人犯たち。どうして彼らを喜ばせなくてはならないのか。これでは犠牲者はうかばれないのではないかと、南郷は一種の衝撃とともに直感したのだ。
(『13階段』文庫版、175ページより)

 「犯罪者を教育改善して社会的脅威を取り除くという目的刑思想」(同ページより)を持って職務にあたっていた南郷が、一気に犯罪者への報復として刑罰を与える「応報刑思想」に傾いた瞬間が生々しく書かれています。
 そんな25歳の南郷に、人生最初の死刑執行が命じられます。その後は、繊細な方は読めないと思います。私はフィクションにおける凄惨な暴力描写に慣れている方ですが(ホラー映画、スプラッタ映画も大好き)、現実の処刑を描写していると思って読むとやはりきつかったです。しかし、死刑を論じるならここは読まなくてはいけない章でしょう。
 保護司の仕事や、犯罪被害者の家族の地獄など、死刑の是非だけでなくもっと社会的にスポットライトが当たるべき事柄に関しても、エンターテイメント小説の範疇をはみ出すことなく、うまく読者に紹介されています。高野和明さんは、重いテーマを娯楽にして問題提起するのがうまいですね。
hyakunennokodoku.hatenablog.com
 ミステリ小説としては欠陥も多く、ツッコミどころ満載ですし、わざわざここで私が紹介するまでもない有名な小説だとは思いますが、初刊から時間が経った今、埋もれてしまうには惜しい小説です。死刑制度の議論が度々沸き起こる今、特にあまり深くこの問題を考えたことが無い人に一度は手にとって欲しいと思います。
 ちなみに、アメリカにおける死刑問題ですが、これまた矛盾だらけ問題だらけでめちゃくちゃです。全体的に廃止の方向に向かってはいるものの、州によって死刑があったり無かったり、死刑が認められていても停止状態になっていたり。処刑のやり方もバラバラです。つまり、同じ犯罪でも州境を越えて隣の州でやったら死刑だけど、こちらの州だと終身刑とか、そういうおかしなことが起こるというわけです。死刑制度に関しては、日本より混とん状態で話題に事欠かない不名誉な現状です。
 しかし、アメリカにおける死刑制度そのものを題材にした映画は観たことがあるものの、この『13階段』のように小説になったものはまだ読んだことがありません。たくさん出版されていると思うので、いずれ読んでいくつもりです。