THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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25歳のタフな美人探偵ジェシカ・ショウ登場『Thin Air (Jessica Shaw Book 1)』(by Lisa Gray)

 2019年6月刊行、これがデビュー小説となるスコットランドのサッカー記者、リサ・グレイによるミステリー小説。2019年12月前半、私が読んでいた時点ではアメリカのアマゾンの私立探偵ミステリ小説部門売り上げ第一位でした。

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ジェシカ・ショウシリーズ第一作『Thin Air』
 その後、同探偵のシリーズの第二作にその座を明け渡すという著者にとっては嬉しい一位からの転落となっています。
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Amazon.comの私立探偵部門ベストセラー第一位
 しかしこれもやっぱり、以前の記事にも書きましたが、細かいランキング部門分けのなせるわざ? 今、私がダンゴムシが探偵業をするミステリを発表したら、昆虫探偵ミステリ小説部門第一位は確実なんじゃないだろうか。
 
 本作の主人公は、ジェシカ・ショウという失踪人探しが専門の女性私立探偵。スティーグ・ラーソンのミレニアムシリーズに出てくるリスベットちゃんみたいにハッキングの才能があるとか、ジェフリー・ディーヴァーのキャサリン・ダンスみたいに「人間嘘発見器」のような技能があるとか、そういう目立った特殊な才能は無く、現実的と言えば現実的です。若くて細くて美人というだけ。しかし、それだけで十分という気もする。それ以外何を望むと言うのか。 
 基本的な銃器の取り扱いやピッキング、そして男の顎をパンチすると言った喧嘩のテクは一応ばっちりで、片方の腕に肩までタトゥーを入れ鼻ピアスをしているという、「タフでクール」を気取ってる女です。しかし、本当は心に深い悲しみを抱いた孤独な女の子なのでした・・・というお約束過ぎる主人公。

 父一人娘一人の絆の固い親子だったのに、その育ての父親が突然、遺伝性の心臓疾患で自分の腕の中で逝ってしまった。たった一人の家族である父を失った悲しみは深く、彼と共に生きたニューヨークにいることが耐え難くなり、遠く離れたロス・アンジェルスのモーテルを転々とし新しい人生を探している・・・そんな彼女に危険が迫る!! というストーリー。
 以下は、父親の心臓疾患が彼女にも遺伝していることを危惧した医師に勧められ、心臓の検査を受けたくだりより。

They’d hooked her up to machines and computers and eventually told her she had nothing to worry about. Her heart was strong and healthy and absolutely fine.
They were wrong. Jessica’s heart wasn’t fine. It had been smashed into a million pieces. She would never be fine again.

(From Thin Air by Lisa Gray)
 医者たちはジェシカを検査機器やコンピュータにつなぎ、結局何の心配も無いと告げた。ジェシカのHeart(心臓)は強く健康で大丈夫だと。
間違いだった。ジェシカのHeart(心)は大丈夫などではなかった。粉々に砕かれ何百万ものかけらになっていた。もう二度と元には戻らないだろう。

 「どう?うまい表現でしょ!?うまい事言ったでしょ!? 心と心臓をかけたの!!」という作者の得意顔が浮かびます。はいはい、すごいすごい。キザですねー。

 失踪人専門の探偵が、「実は自分こそが捜索対象の失踪人なのではないか?」と気付き、自分の真のアイデンティティを危険を冒しながら探す、というストーリーライン自体は、すごくオリジナリティがあると思いました。
 しかし、その最大のヒントになりそうな父親からの封書を受け取ってなぜすぐに開けない? なぜ何日も車に置いておく? 物語は、主人公が一人それを開けるところで美しく幕を閉じるのですが、小説の構成上はカッコよくても現実にはありえません。喉から手が出るほど知りたい真実がそこにあるのに、それを知らずにいられる探偵がいるでしょうか? そこがひっかかってしまって、後半にストーリーのキーとなる出来事が起こっても、集中が難しかったです。同じことは、他の方の読者レビューでも頻繁に指摘されていましたね。
 
 あとですね~、最近の心理サスペンスというかミステリ小説は、もしかしてすべてハリウッド映画の脚本の黄金ルールにのっとっているんですか? 
「映画の開始30分までに犯人を含む主要人物を登場させろ、最後の15分で出てきた人が、実は犯人でした~ はダメ!!」 
「危機に次ぐ危機は観客を疲れさせるから、危機は10分に一回!!」
「犯人と対決するクライマックスシーンは、雷雨の夜にしろ!!」

 上記のようなルールです。『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』もこの小説も、上記のルールを守って書かれています。
hyakunennokodoku.hatenablog.com
 犯人も、登場したタイミングと描写ですぐわかってしまう。わかってしまう自分が悲しい。小説の前半30%~40%に出てきた人物で、「この脇役は、さして重要にも思えないのになぜここまで行数を割いて丁寧に描写されるのか」と不自然に感じたら・・・はい、その人が犯人です! その後は、犯人の動機などが最後に明らかにされるのを楽しみに読むしかない。
 そして、夕暮れが近づいて遠くに雷鳴の音が聞こえたら、その晩が犯人との対決の夜です。そりゃそよ風が吹く暖かな春の午後に、犯人と殺し合いしても盛り上がらないけどさ。もっとこう・・・意外性のあるシチュエーションは考えられないのか!! 映画化を意識しすぎじゃない? それか、サスペンスとスリラーの作家は、全員同じシナリオスクールに通っているとか?
 
 いわゆる「背のり」のような身分乗っ取りの問題が扱われていたり、カリフォルニア州では私立探偵業にライセンスが要ることが書かれていたのは興味深かったです。私はてっきり、「私立探偵 ダナ・スカリー」とか書いた名刺でも配れば、その日から探偵になれるのだと思っていました。まあ、依頼は来ないでしょうけど。
 どうやったらライセンスがとれるのか調べてみたところ、数年にわたる捜査業務経験や関連学部の学歴が必要で、試験もあり、州に申請して審査されやっとライセンスが手にできるとか。カリフォルニアで探偵になるのは私には無理そうだな。残念。なぜカリフォルニアがこんなに探偵業に厳しいのか、今度また探ってみようと思います。
 
 さすらいの一匹狼で、孤独な代わりにどこまでも自由な探偵ジェシカ・ショウ。いろいろとがんじがらめの私には、そのキャラがまぶしかったです。全体的に「次回期待」という感じが残りました。せっかくだから第2弾『Bad Memory』くらいは読んでみようかな。また雷雨の夜に犯人と対決したら、ほんと怒るよ!!

Thin Air (Jessica Shaw)

Thin Air (Jessica Shaw)

  • 作者:Gray, Lisa
  • 発売日: 2019/06/01
  • メディア: ハードカバー

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