THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

読むこと、書くこと、言葉の力を真剣に訴える大ヒット小説『The Book Thief(日本語版題名:本泥棒)』(by Markus Zusak)

 2005年刊行のオーストラリアのYA作家マーカス・ズザックによる小説。63か国で出版されて累計1600万部のベストセラーとなり、2013年にはジェフリー・ラッシュ、エミリー・ワトソンなどで映画化されています。英語圏の小説は読者人口が多いので、当たるとデカいですね。

The Book Thief (Definitions Young Adult)

The Book Thief (Definitions Young Adult)

  • 作者:Markus Zusak
  • 出版社/メーカー: Definitions (Young Adult)
  • 発売日: 2016/09/08
  • メディア: ペーパーバック
 ドイツが舞台のドイツ人の物語をオーストラリア人が英語で書き、それをアメリカの映画会社が、カナダ人の子役を主演に、オーストラリア人とイギリス人を助演に据えて英国人監督に作らせるというなんだかわけのわからないことになっています。(私は、映画は観ていません)
 日本語版ももちろん出版されています。が、表紙の著者名「マーク―ス・ズーザック」はこれでいいのか? 私が聞いたオーディオブックでは、はっきりと「マーカス・ズザック」と発音されていたけれど・・・。これは、ベルディハ(Berdich)とかエドベリ(Edberg)とかとおんなじ問題?(アメリカでは、それぞれバーディックとエドバーグ)ヨーロッパ読みしてるんですかね?
本泥棒

本泥棒

 もう出版から10年以上経つというのに、2019年12月26日現在、Amazon.comの「児童向け向けホロコースト・フィクション部門」第一位。相変わらず細かいランキング。この小説、ホロコーストものでも子供向けでもないと思うんだけど・・・。

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Amazon.comの細かい部門分けは今日も通常営業
 私が渡米した当時、訪れた本屋にこの本がすごい量平積みされていたのをよく覚えています。その量にもショックを受けましたが、それよりも分厚さ、そしてそんな辞書みたいに分厚い本がティーン向けの売り場にあるのが衝撃でした。若者たちよこんな暗そうな分厚い本を読むより外で遊ぶとか青春したほういいよ・・・と、自分も暗かったくせに余計なお世話なことを思ったものです。
 しかし、これまたこの本も中学生・高校生が読んでいるというより、大人のブッククラブ等で人気になった本のようで、読んでいるのはほとんど大人ですね。作者がそれまでYA小説を書いていたこと、作中に凄惨な暴力シーン、性描写が無い(この2点はYAでは重要)ということで、YA小説にすることもできますが、ストーリーはダークでシリアスで子供向けではないように思います。

 物語の舞台は、第二次世界大戦下のドイツ、ミュンヘンの近くの貧しい街。死神を物語の語り手に、里子としてその街にやってきたリーゼルという少女の10歳から14歳までの約4年間の日々が描かれています。少女が本の盗みを始めるきっかけとなった悲しい出来事から始まり、やがて彼女が読み書きを覚え、貧しくも愛溢れる養父母と暮らし、友情を知り、読むことを通して人々と繋がり、やがては書く側になってゆく姿が丁寧に描かれています。
 アマゾンは、「ホロコースト小説」に入れているようですが、ユダヤ人迫害の悲劇はメインのテーマではなく、登場人物はほとんど全員ドイツ人で、戦時下での彼らの思いや敗戦に向かってゆく悲しい運命にページが割かれています。

 読むことと書くことは人間を救う。作者の「言葉の力」へのゆるぎない信頼が溢れた小説です。『書店主フィクリーの物語』のような小説とは趣がガラリと異なるものの、これもまた「本礼賛小説」のひとつでしょう。
hyakunennokodoku.hatenablog.com
 しかし、ヒトラーの著作「我が闘争」も「本」であり、「言葉」なのです。小説中に繰り返し出てくる疑問「なぜ一つの物事は相反する二つのものになりうるのだろうか」という重要なテーマがここにあります。言葉があるおかげで、多くの人が救われ、多くの人が殺された。戦時下で、人間は最も醜い姿も見せるが、美しい姿も見せる。「人間のことがよく分からない死神」は、その矛盾をじっと見つめ続けるのです。
 
 良い小説だとは思ったし、私のクリスマス・クッキングの励みになったことは確かですが・・・長い。長いよ!! 死神さん、あんたしゃべり過ぎなんじゃないの? 見た事知ってる事、全部話さなくていいから。「戦時下で人々の魂をすいあげるのに私は忙しかった」とか言いながら、リーゼルちゃんにストーキングしてるじゃない。
 この「語り手が死神(あるいは死)」っていうやつに、最後まで違和感がぬぐい切れませんでした。他の方のレビューでは、「斬新」「ユニーク」とか好意的に書いている人もいたけれど、私は読み始めて数ページで「なんかこれって人間の目には見えない天使が人間に寄り添ってなんかうだうだやる昔の映画・・・『ベルリン天使の詩』とかいう映画の真似じゃない? ドイツの話だし」と無性にもやもやして集中できなくなりました。なんで普通に一人称とか三人称とかの小説にしてくれなかったんだ。それでも、作者の伝えたいことは伝わったと思うんだけど。

 そしてお約束ですが。
 ここまで、文句を言っておきながら、最後20ページくらいのところ、作者の「ほら、ここですよ、ここ! このクライマックスで号泣するには、この500ページ以上が必要なんですよ! 登場人物すべてに感情移入してこの場面を迎えないと涙出ないでしょー?」という声を片耳に聞きながら、ぼろぼろと泣きました。これはないでしょ! ひどすぎる。

 『ふくろうくん』(アーノルド・ローベル)のように、「涙でわかしたお茶」を飲んでみたい方は、涙をポットに貯められるかもしれませんので、是非頑張って最後まで読んで下さい。

ふくろうくん (ミセスこどもの本)

ふくろうくん (ミセスこどもの本)

 余談ですが、映画のトレーラーを観ましたが、極貧生活にあえいでいるはずのリーゼルちゃんが巻き毛クルクル、メイクばっちりで体格も良いことに苦笑してしまいました。もっと貧相な子を使いましょう。ジェフリー・ラッシュとエミリー・ワトソンは割とイメージ通りでした。さすが。
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 こちらは、『ベルリン天使の詩』。眠くなって最後まで観られない映画ベスト10に入ると思う。誉め言葉です。
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 それでは、皆さん良いお年を。今年、私のつたない文章を読んで下さったすべての方に感謝します。来年も、読んで、書いて、読んで、書いて、言葉の力を正しく使いましょう!! ありがとうございました。