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アメリカの小説家/元出版エージェントによる小説の書き方ガイド『How to Write a Novel』(by Nathan Bransford) 第二回

 

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『How to Write a Novel』の電子版より
 前回に続き、小説の書き方ガイド『How to Write a Novel』に関するエントリ第二回目です。
How to Write a Novel: 49 Rules for Writing a Stupendously Awesome Novel That You Will Love Forever

How to Write a Novel: 49 Rules for Writing a Stupendously Awesome Novel That You Will Love Forever

  • 作者:Nathan Bransford
  • 出版社/メーカー: Nathan Bransford
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: ペーパーバック
 小説のアイディア選び、プロット考案など書き始めるまでの過程を取り上げた第一回はこちら↓
hyakunennokodoku.hatenablog.com
 今回は、いよいよ小説の執筆開始後に関してです。
 準備が終わって実際に書く、その過程に関するアドバイスであるルール13から31を読んで興味深かったところ、例として言及されていた作品のことなどを書きます。

 しかし・・・この段階のアドバイスを読んで私が一番わかったことは、結局書き手のセンスなのね、ということです!! 
 書き出しの大切さ、視点(人称の決め方)、章の分け方、登場人物のキャラ造形くらいまでは結構説明も具体的で、この辺は知っておいて損はない知識だなあとふむふむと読めましたが、その後のストーリー展開についてのアドバイス(起伏の大切さ、クライマックスの作り方)は、そんなの当たり前じゃないということしか書かれていない!! つまり、アドバイスのしようが無いということかと。
 後半、一気に具体的な情報の量が落ちるんです。
 ルール28「Find Your Voice」のところなんて、Voice(多分日本語で言う「文体」のことだろうと解釈)の大切さ、さんざんオリジナルな「Voice」を持っている作家の説明などが行われた後、どうやってその「Voice」を見つけるか、それは・・・

There is only one way to find this great voice: keep writing.
素晴らしいVoiceを見つけるたったひとつのやり方、それは書き続けることだ。

だってさ! まあ見つかるまでせいぜい頑張れや、みたいな捨て台詞じゃないですかー!! 実際に小説を書く段階になると、もう「やるしかない」、アドバイスはそれに尽きるんでしょうね。(ちなみに独特のVoiceを持つ作家の例として紹介されたのは、フォークナー、ヘミングウェイ、ジャネット・ウィンターソン、エルモア・レナード、トニ・モリソン、アンソニー・バージェス)

 この本に関する第一回目のエントリでも触れましたが、著者も認める通り、小説は「こう書け」は言えなくても、出来上がったものに「これはいかん」とアドバイスすることは簡単ということなので、アイディア、プロット、クライマックスくらいは自力で頑張って(そうしないと自分の小説になりません)、書き出しや会話の洗練具合などの細かい部分は経験のある人にアドバイスを仰ぐのも手かなと思いました。

 そうそう、書き出しに関しての項が面白かったです。
 書き出しが大切なところは誰もが知るところだと思いますが、実際編集者や出版エージェントもだいたい1ページ目で残りを読むかどうかを決めてしまうとのこと。そして、著者のエージェントとしての経験から、これはやめとけという書き出しをいくつか教えてくれるのですが、その中の二つが、「 主人公が目覚める」「主人公が鏡を見ている」なんだそうです。実に、実に、多いそうで。「またか」とがっかりしているエージェントの顔が想像できます。 「別に1ページ目で地球最大の花火を打ち上げろって言うわけじゃない、この後に続く小説のトーンとVoiceを読者に示して流れにうまく引き入れればいい」、というのが書き出しに関するアドバイスの要点なのですが、そのトーンやVoiceは「書き続けて見つけるしかない」と言うし、なんかもう書き出しは一番最後に書いたほうがいいということか?
 
 何章で何が起こるか、と言った構成に関するアドバイスでは、ExcelなどのSpread Sheetの利用が薦められていました。なんでも、あのJ.K. ローリングさんが、ハリー・ポッターを書いた時に使った手書きのプロット表みたいなものを公開したそうで、このやり方がいろんな作家をインスパイアしているとのこと。このページに載っています。
electricliterature.com
 彼女のこのグリッドの取り方がスタンダードなわけではなく、作家によって行や列をなんの項目に使うかは違います。でもとにかく、登場人物全員の項目を作り、それぞれのイベントで各自がどう考え行動するかを整理すると、混乱や矛盾の無い展開を作るのに役立つそうです。

 私の場合、こういった段階まで至っていないため、本書のアドバイスが全体的に具体的に響かなかったのかなと思います。実際に一通り書いた人なら、今回取り上げた、実際の執筆部分のアドバイスが腑に落ちるのかもしれません。

 次回は、行き詰まった時の対処、推敲に関するアドバイス部分を取り上げたいと思います。

 第一回に続いて、今回も本書で言及された作品を載せます。ハリー・ポッターシリーズとスター・ウォーズに関しては第一回から引き続き言及が多かったです。誰もが知っているし、説明に使いやすいのでしょう。
 それ以外の作品は、以下の通り。
========

『愛の続き』(イアン・マキューアン)
Conflict(葛藤)の作り方の項で引用

愛の続き (新潮クレスト・ブックス)

愛の続き (新潮クレスト・ブックス)

『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ )
一人称使用で、現実離れした世界を読者に実感させることに成功した例

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

『グレート・ギャツビー』(スコット フィッツジェラルド)
著名な一人称使用小説の一例

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

『白鯨』(ハーマン・メルヴィル )
著名な一人称使用小説の一例

白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

『コウモリの見た夢』(モーシン ハミッド)
一部分が二人称使用の小説

コウモリの見た夢

コウモリの見た夢

  • 作者:モーシン ハミッド
  • 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 単行本

『夜のサーカス 』(エリン モーゲンスターン)
一部分が二人称使用の小説

夜のサーカス

夜のサーカス

『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』(ジェイ マキナニー)
一部分が二人称使用の小説

ブライト・ライツ、ビッグ・シティ (新潮文庫)

ブライト・ライツ、ビッグ・シティ (新潮文庫)

『七王国の玉座』(ジョージ・R・R・マーティン)
あの『ゲーム・オブ・スローンズ』原作。三人称小説の一例。キャラクタ造形の話などでも頻繁に引用されていた。

七王国の玉座〔改訂新版〕 (上) (氷と炎の歌1)

七王国の玉座〔改訂新版〕 (上) (氷と炎の歌1)

『The Love Affairs of Nathaniel P.』(Adelle Waldman)
三人称使用小説の一例。日本語版が見つからず。

The Love Affairs of Nathaniel P.

The Love Affairs of Nathaniel P.

  • 作者:Adelle Waldman
  • 出版社/メーカー: Henry Holt & Co
  • 発売日: 2013/07/16
  • メディア: ハードカバー

『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』(アンジー・トーマス)
プロットのスプレッドシート使用作家の一例、この本2018~2019年にかけてアメリカで売れてましたね~

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

『食べて、祈って、恋をして 女が直面するあらゆること探究の書』(エリザベス ギルバート)
登場人物の行動へのモチベーション設定の説明で使用された。

食べて、祈って、恋をして 女が直面するあらゆること探究の書 (RHブックス・プラス)

食べて、祈って、恋をして 女が直面するあらゆること探究の書 (RHブックス・プラス)

  • 作者:エリザベス ギルバート
  • 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
  • 発売日: 2010/08/10
  • メディア: ペーパーバック

『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)
表面化の葛藤に関する説明で使用

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

『アラスカを追いかけて』(ジョン・グリーン)
アップ・ダウンを繰り返しながら人物間の関係が深まっていく展開に関する教科書的な作品として絶賛されていた。

アラスカを追いかけて (STAMP BOOKS)

アラスカを追いかけて (STAMP BOOKS)

  • 作者:ジョン・グリーン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/01/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

『ロリータ』(ウラジーミル ナボコフ)
善人とは言えないキャラクタで読者をつかむにはどうしたらいいか、という説明の例で使用されていた。

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)

『羊たちの沈黙』(トマス ハリス)
これも、悪人でもなぜ読者を引っ張れるかの説明に使用

羊たちの沈黙(上) (新潮文庫)

羊たちの沈黙(上) (新潮文庫)

  • 作者:トマス ハリス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/01/28
  • メディア: 文庫

『時計仕掛けのオレンジ』(アントニイ・バージェス)
「Voice」の見つけ方の項で引用された。

時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)

時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)

『おばけ桃が行く』(ロアルド・ダール)
「Voice」の見つけ方の項で引用された。

『キャッチ=22』(ジョーゼフ ヘラー)
「Voice」の見つけ方の項で引用された。

キャッチ=22〔新版〕(上) (ハヤカワepi文庫 ヘ)

キャッチ=22〔新版〕(上) (ハヤカワepi文庫 ヘ)