THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

オバマさんもおすすめ、現代の若い世代の恋愛を丁寧に見つめた小説『Normal People』(by Sally Rooney)

I don’t know what’s wrong with me, says Marianne. I don’t know why I can’t be like normal people. (snip) I don’t know why I can’t make people love me. I think there was something wrong with me when I was born.
(from Normal People by Sally Rooney)
 自分の何がおかしいのかわからない、マリアンは言う。どうして普通の人たちみたいになれないのか。(中略)  どうして誰かに愛してもらえないのか。生まれつきどっかおかしかったんだと思う。

 アイルランドの作家サリー・ルーニーによる第二作目の小説。
 アメリカでは2019年4月刊行、英国圏では2018年刊行でその年のブッカー賞の最終候補になった。作者は1991年生まれで作品刊行時点で26歳。米「タイム(TIME)」誌が選ぶ2019年版「次世代の100人」にも選ばれています。(小泉環境相も選ばれている微妙な100人ですが・・・)

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『Normal People』表紙
 英国圏で2019年に相当売れた小説のようで、HuluとBBCによるドラマ化も決定。小説の日本語版が出るかどうかは現時点ではよくわかりません。
www.bbc.co.uk

 ロマンスとラブ・ストーリーは、なんとなく「はいはい、勝手にしろ」となってしまうジャンルであまり手にとらないのですが、オバマさんが2019年のおすすめ本リストにこれを入れていて、興味を惹かれて読んでみました。
 こんな本を手にとって最後まで読んで、おすすめリストに入れる大国の大統領を8年務めた男・・・・・・クール過ぎるでしょ! オバマさんは間違いなく史上最高にクールな大統領だな。政治家として優秀かどうかは私にはわからないけれど。
 
 小説のあらすじはこれ以上ないくらいシンプル。コネルとマリアンという(ちょっとめんどくさい)男女は幸せになれるのか? これだけです。これで最初から最後まで引っ張っている。共にアイルランドの小さな街で育った二人の高校最後の一年(2011年)から大学最終学年くらいまで(2015年)の数年間が描かれています。

 ものすごく劇的な出来事が起こるというわけではないのに、これはなぜか一気読みできました。構成が巧みなのかな。「2011年11月」「その3週間後」などと章立てして時系列で追っているように見せながら、その中でちらちらと過去を振り返る形で書かれています。新しい章に移った段階で、何か読者にわからない変化、例えば、前章まで安定した関係だった交際相手と別れているとか、主人公が精神的に不安定になっているとか、突如そういう変化が起こった状態から始まる。読んでいる側としては「あれれ、どうしてこうなっちゃったわけ?」と注意を惹きつけられるわけです。そして、その疑問には主人公たちが少し前を回想する形で、その章の中で少しずつ答えを出してくれる。つまり時系列を行ったり来たりすることで、章ごとに小さな謎を作り、謎の答えが知りたい読者を先へ先へと読ませているわけです。 

 基本的に、「He says, She says」みたいな現在形で書かれ、起こった出来事を振り返る時だけ「He said, She said」、会話部分では日本でいう所のカギかっこ(「」)にあたる「””」が無いので、誰がどのセリフを言っているのかわかりづらいところが多々ありました。
 例えば、こんな感じ。これは、男が女に「携帯に君の裸の写真送ってくれないか、消してほしかったらいつでも消すから」と頼み、女が「あなたも、あなたのを送ってくれるの?」みたいな会話をしているところ。男が「本気で俺の〇〇〇の写真がほしいの?」と聞くと・・・

Yes, she said. But if you sent one I would honestly never delete it, so you probably shouldn’t.
He laughed then. No, I don’t care whether you delete it, he said.
She uncrossed her ankles. I mean I’ll take it to my grave, she said. Like I will look at it probably every day until I die.
He was really laughing then. Marianne, he said, I’m not a religious person but I do sometimes think God made you for me.

(from Normal Peple by Sally Rooney)
 うん、とマリアンは言った。でももし送ってくれたら正直、私、絶対消さないよ、だから多分やめといたほうがいい。
 コネルは笑った。いや、君が消すかどうかはどうでもいいけど、コネルは言った。
 マリアンは組んでいた足首を戻した。お墓の中まで持っていっちゃうからね、マリアンは言った。死ぬまで多分毎日眺めるってことだから。
 コネルは声を上げて笑って言った。マリアン、俺は宗教信じてる人間じゃないんだけど、たまに神は俺のために君を作ったのかなって思うよ。

 日本語だと「君」「私」「俺」とか、男女の口調の違いとか、誰の台詞がわかるような手がかりがあるけれど、英語だと全部「I」と「You」なのでますますわかりづらい。こういうスタイルになじみが無く、慣れるまで苦労はあったけれど、これが今風なのかと新鮮に楽しみました。そういえば、前回まで3回に渡ってエントリを書いた小説教本『How to Write a Novel』にも「He says, She says使用は現代的な雰囲気になる」と書いていたっけ。
hyakunennokodoku.hatenablog.com

 私は、この小説を読んで、小川を流れていく二枚の葉を想像しました。
 同じ木から落ちた二枚の葉。浮かんだり沈んだり、石や小枝にぶつかったりしながら海に向かって流れていく。そんなイメージです。
 高校卒業から大学卒業って、人生の流れがドラマチックに変わる時期。流れの向きも速さもしょっちゅう変わり、葉っぱたちもどこかにぶつかったりひっかかったりしてぼろぼろになったりもする。この二人は、川の中で同じ種類の葉は自分たちしかいないということはわかっていながら、なかなか寄り添うことができないのです。それを阻むものは、社会的な格差であったり(主人公の男の家庭には金が無い)、友人からの同調圧力であったり、情緒が安定していて健康的な新しい異性との出会いであったり、思いがけない精神の不調であったり、家庭不和であったり・・・。
 田舎の高校にいる間はサッカー部のエースで人気者グループに属し男女関係の主導権をにぎっていた男が、金持ちが多い都会の私立大学に進学してからはなじめなくなり、孤立していた高校時代からは一転してちやほやされるようになった彼女にすがるようになる、というような男女の力関係の変化などは、「あるある」とうなずきながら読みました。

 次世代の作家、現代の若者を表現できる若手作家としてもてはやされている作者ですが、描かれている恋愛はいつの時代の若い恋にもある普遍的なものを感じます。スカイプとかメールとかフェイスブックが出てくるところが、「新しい世代」なのかなあ? 逆にもう既に古さを感じる。作者の世代だと、もうその三つは使わないですよね。
 
 そして、こういう小説なので当然ですが、要所要所にラブシーンがあります。女性作家特有のエロさで、女性の感覚がうまく書けていて気に入りました。そのものずばりを書かず、詩的な表現にしている分エロいんですよね。良い子は大人になってから読みましょうね。大人は、おうちに帰ってから一人で読みましょうね。

 川に流れる木の葉をきれいだなあなどと時折目で追ってしまうタイプの方は、是非読んでみて下さい。そんなもん眺めてる暇ないよ、という方にとっては無価値な本かな。

No one can be independent of other people completely,
他者に全く依存せずにいられる人などいない

NORMAL PEOPLE

NORMAL PEOPLE

  • 作者:SALLY ROONEY
  • 出版社/メーカー: Hogarth
  • 発売日: 2019/04/16
  • メディア: ハードカバー
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英語メモ
self-absorbed 自分に酔ってる、自分中心
self-conscious 人目を気にする、自意識過剰
mock results 模試の結果
indecisive 優柔不断 He is not indecisive on that question. (その問題に関しては、彼は優柔不断ではなかった)
hang-ups 不安、悩みの種
have a hang-up about ~にコンプレックスがある
pine after ~に恋い焦がれる、~を切望する、~に未練がある I'm pining after her. (彼女に未練があるんだよ)