THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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『New Kid』がグラフィック・ノベルで初のニューベリー賞の大賞を受賞!おめでとう!!

 先週、2020年のニューベリー賞とコルデコット賞の発表がありました。

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2020年のニューベリー賞とコルデコット賞大賞受賞作
 2005年のニューベリー賞大賞受賞作『きらきら』を取り上げた記事の中でもニューベリー賞に関しては簡単に触れましたが、もう一度さらっと書くと、アメリカの児童文学の文学賞で最高峰の賞です。
hyakunennokodoku.hatenablog.com
 ニューベリー賞は、全米図書館協会主催の1922年から続いている権威ある賞で、多分芥川賞とか直木賞とかとは比べ物にならないくらい金が動く賞とも言えます。
 受賞作は、大賞受賞を示す金色のメダル型シールが貼られて大量増版されて本屋に平積みされ、図書館にも未来永劫残ります。
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大賞受賞作の表紙に燦然と輝くメダル型シール
 ニューベリー賞は、佳作でも(大賞に比べると幾分地味ですが)公認のメダル型スティッカーが貼られ、抜群のアピール力があるのですが、大賞受賞のインパクトは相当です。
 コルデコット賞は、ニューベリー賞と同時発表される賞ですが、こちらは絵本に贈られる賞。ニューベリー賞もコルデコット賞も、図書館によってはそれ専用のコーナーがあったり、子供はともかく教師や親の子供のための本選びに大きく影響する賞だと思います。本離れとか言われて久しいですが、唯一紙版の本を読んでくれる世代(読むしかない世代とも言える)、それが幼児と小学生ですからね。

今年2020年の大賞受賞は、かなりニュースですよ。何と言っても、賞の歴史上初めてグラフィック・ノベルが大賞受賞したんですから!! もうびっくりです。
 受賞作『New Kid』は、出版直後になんとなく惹かれて読んだのですが、「黒人中学生が主人公なのに、この表紙の薄い肌色はもしかして黒人以外の読者に手にとってもらう戦略なわけ?」という、もう削除してしまいたい恥の記事をブログに書いてしまった私にとっとはいわくつきの一冊です。
hyakunennokodoku.hatenablog.com
hyakunennokodoku.hatenablog.com
 消すのが卑怯だと思うので残していますが、自分の読解力の無さと偏見が永遠にネットに刻まれた本当に苦い思い出がある本です。この本がニューベリー大賞とるなんて! 
 Twitterなんかでは、同じく児童向けのグラフィックノベルを書いている作家が祭りモードで祝福していますね。グラフィックノベルが大賞を受賞したということは、グラフィックノベルがメインストリーム、文学として認められたということでもあるので、同業者は嬉しいんでしょう。

 作者のジェリー・クラフトさん現在57歳。同人誌なんかでこつこつ創作を続けたり、あちこちでイラストを描く仕事はしていたようですが、ご自身の名前が著者としてついた本をメジャーで出版するのは本作『New Kid』が初ではないでしょうか。いくつかインタビューを読みましたが、謙虚で肩の力の抜けた親しみやすい方という感じで、おそらく半自伝的な内容だろうと思われる『New Kid』の心優しい主人公とかぶります。
 ニューベリー賞のことはあまりにも自分と畑違いだったために数年前まではまったくご存じなかったそうで、同業者と食事した時に「どんな仕事をしてるんだい?」「私、〇〇〇でニューベリーの佳作をとったのよ」「それはすごいじゃないか!」という会話の後、帰り道に慌てて検索してその存在を知った・・・というエピソードを披露していました。そう、そういう無欲の人に賞って行っちゃうもんなんですよね。私なんて佳作でもニューベリーもらえるんなら悪魔に魂売ってもいいって思いますけど。
 インタビューの中で、グラフィックノベルを現在の地位まで持ち上げてくれた先輩たちに、「彼らがいいパスを出してくれたから、僕がダンクを決められただけ」と感謝しているのが印象的でした。
 そうなんですよ、この作品、すごくいい作品で人に薦めたくなることは間違いないんですけど、これまで読んできたグラフィックノベルの中でものすごく優れているか、他のグラフィックノベルではない文字だけで書かれた児童文学と比べて受賞に値するかと聞かれると、多少疑問が残ります。2019年出版の児童文学で当たりが無かったのかな、とちらっと思ってしまいました。これがとれるなら、あれもこれもとれてもおかしくなかったのになあと思ってしまう、ここが文学賞の限界であり難しさだと感じます。
 ちなみに、過去のニューベリー賞で、グラフィックノベルが佳作(Newbery Honor)になったことは二度あります。『El Deafo』(Cece Bell)と『Roller Girl』(Victoria Jamieson)です。両方女性作家による作品で、読みましたが素晴らしかったです。私は特に『Roller Girl』が好き。どちらもそのうち記事にしてみたいと思います。
 今年は、コルデコット賞大賞受賞の『The Undefeated』もアフリカン・アメリカンの著者による作品。アフリカン・アメリカンの文化が主題になっている作品に贈られる児童文学賞コレッタ・スコット・キング賞をとった二作がそのまま、ニューベリー大賞とコルデコット大賞になりました。黒人作家大躍進の年とも言えるし、審査員が多様性の大切さを主張したかった年とも言えますよね。グラミーやアカデミー賞なんかは、「白人主体の白人のための賞だ」と怒っている人も多いので、ニューベリー賞とコルデコット賞はかなり攻めのチョイスで来たなあ、と思いました。ほら、キング先生も怒ってますよ、「オスカー選んでるヤツらは、白人のじいさんばっかりなんだろ!」と。
www.huffpost.com

 ところで、コルデコット賞大賞の作品は、ニューベリー賞の佳作もとっています。絵本と文学の境界線がどこにあるのか、これまた難しい問題ですよね。

New Kid (English Edition)

New Kid (English Edition)

  • 作者:Jerry Craft
  • 出版社/メーカー: Quill Tree Books
  • 発売日: 2019/02/05
  • メディア: Kindle版
The Undefeated (English Edition)

The Undefeated (English Edition)

  • 作者:Kwame Alexander
  • 出版社/メーカー: Andersen Digital
  • 発売日: 2019/06/15
  • メディア: Kindle版
El Deafo

El Deafo

  • 作者:Cece Bell
  • 出版社/メーカー: Harry N. Abrams
  • 発売日: 2014/09/02
  • メディア: ペーパーバック
Roller Girl

Roller Girl

  • 作者:Victoria Jamieson
  • 出版社/メーカー: Dial Books
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: ペーパーバック