THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

好評の一作目に続き、今回も主人公の私生活とミステリのバランスが良い『The Shadows We Hide』(by Allen Eskens)

”Sometimes home isn’t a place, it’s a person, and my home had always been right here, with Sarah.”
「家ってもんは、場所じゃなくて人のこともあるんだ。私の家は、いつだってサラと共にいることだったんだ。」

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『The Shadows We Hide』表紙、前作と対照的に今回は夏のミネソタ
 デビュー作『The Life We Bury (償いの雪が降る)』が大ヒットしたアレン・エスキンスによる2018年11月刊行の小説。『The Life We Bury (償いの雪が降る)』の主人公ジョー・タルバート君の6年後が描かれています。私同様、ジョーの人生はその後どうなったのか気になった読者が多かったのでしょう。
 前作でひとつの殺人事件がきちんと解決し物語も一区切りついているので、この小説から読むこともできますが、主人公の人間関係や家族との葛藤は前作からそのまま続いているので、やはりシリーズ第一作から読むことをおすすめします。映画化もされるという第一作の紹介はこちら↓
blog.the-x-chapters.info
 本作では、前作で大学生だったジョーがミネソタのAP通信社で駆け出しのジャーナリストとして働く20代後半の青年となり、25歳になった自閉症の弟ジェレミーはジョーと同居しながらなんとか就労、ジョーの彼女のライラは司法試験目指して猛勉強中、というところから始まります。
 今作も、ジョーがある小さな街の殺人事件の真相究明に一役買い、しかも莫大な財産の相続のチャンスまで手にするという素人探偵ものなのですが、やっぱりそれよりもジョーと家族の関係、恋人との関係の行方のほうがはらはらするものがあります。ミステリ部分は、誰もがお互いを知っているようなアメリカの田舎町の閉塞感や複雑な人間関係の雰囲気がよく出ているとは思いましたが、それほどあっと驚く展開はありません。やはりこの小説のオリジナリティは、「きょうだい児」であり、機能不全の家庭で育ちながらも必死に幸せを求める青年を主人公にしたことにあるでしょう。
 前作でアル中ギャンブル中毒でろくでなし男に入れ込んでいた母親は、クスリに手を出してさらに落ちるところまで落ち、主人公がその実の母親と弟の後見人の権利を巡って泥沼の法定闘争を繰り広げる部分などはすごい迫力でした。
 自閉症の弟の様子は割とマイルドに書かれていて、そんなにうまくいかないんじゃないかなと冒頭部分では思いましたが、途中、遺産相続のことで相談に乗ってくれた弁護士との会話で主人公は率直な苦しみを吐露します。

“I’ve been taking care of my brother, Jeremy, for nearly six years now. It’s hard; you have no idea. Sometimes I get so frustrated, I can’t breathe. I feel like I’ve been taking care of my brother my whole life, living for him, sacrificing for him."
「僕はもう6年くらい弟のジェレミーを面倒をみている。大変なんだ。あなたにはわからないよ。すごく辛くなって息ができないことだってある。生きてる間ずっと弟の世話をして、弟のために生きて、弟のために犠牲になっている気分になるんだ。」

"You’ve lived all over the world. You’ve had an exciting life. You’ve done what you wanted to do. I’ve never even been on a plane."
「あなたは世界中に暮らしたことがあって、楽しい人生を送ってきた。やりたいことをやってきたんだ。僕は飛行機に乗ったことすらない。」

 自閉症の人と暮らしていると遠出や旅行が大変で、気晴らしに出かけられるのも市民公園みたいなところだけになってしまう、というような生活も重くなり過ぎずよく書かれています。著者が自閉症の身内を持つ当事者なのか、もしくは当事者の方々の話にかなりよく耳を傾けて書いたんだろうなというのが伝わってきました。
 ジョーがいきなり舞い込んだ大金を手にするチャンスに自分を見失ってしまうのもわかる気がします。いろいろ辛くて追い詰められていたんだね・・・。
 
 人は本当に変われるのか。
 変わった人間の過去を水に流せるのか。
 人は一度手にした幸せを当然と思わず、それを大切し続けることができるのだろうか。

 ミステリの行方を楽しみつつ、いろんなことを考えさせられる良作でした。物語としては一区切りですが、よく考えるとまだまだいろんな問題が解決されていないので、今後も続きを出してほしいです。30代になったジョー、結婚したジョーの人生も追ってみたいです。

The Shadows We Hide

The Shadows We Hide

  • 作者:Eskens, Allen
  • 発売日: 2019/10/01
  • メディア: ペーパーバック

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英語メモ

the shit hits the fan 大変なことや災難が起こる、秘密が明るみになる When the shit hit the fan, I was in the kitchen calling you guys. (騒ぎが起きた時は俺はキッチンであんたたちに電話をかけてたんだ)

hit the sauce 酒浸りになる I guess it might have been around the time she got pregnant. Toke was hitting the sauce pretty hard. (彼女が妊娠した頃だったかなあ、トークはすごい酒浸りだったよ)

“What’s that got to do with the price of tea?” 「それがこの会話とどういう関係があるわけ?」

lost cause 見込みのない試みや努力 "Do you think I am a lost cause?" 「俺は見込み無しだと思う?」