THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

ありがとう、さようなら、サスペンスの女王メアリ・ヒギンズ・クラークさん『Where Are the Children? (邦題:子供たちはどこにいる)』(by Mary Higgins Clark)

You really can’t control your life.
Most of the time you don’t act; you react.

(From Where Are The Children by Mary Higgins Clark)
本当は誰も人生をコントロールすることはできない。ほとんどの時間、あなたは行動しているんじゃない。反応しているのだ。
(メアリ・ヒギンズ・クラーク『子供たちはどこにいる』より)

”Today is the first day of the rest of your life.”
(From Where Are The Children by Mary Higgins Clark)
「今日という日が、あなたの残りの人生の最初の一日。」
(メアリ・ヒギンズ・クラーク『子供たちはどこにいる』より)

 先月末(2020年1月31日)、作家のメアリ・ヒギンズ・クラークさんが92歳で亡くなりました。
 訃報のニュースが流れた直後、Twitterでエドガー賞受賞の売れっ子ミステリー作家のハーラン・コーベンさんが、亡くなったクラークさんとの写真や思い出を連投していたのが印象的でした。敬愛する大好きな先輩作家だったようです。

f:id:AgentScully:20200218012304j:plain
Twitterより。「本当に悲しい。寛大な指導者、ヒーロー、同僚であり友だった。多くを教わった。ずっと感謝する。」
 クラークさんは、5人の子供を抱える未亡人として働きながら創作を続け、40代で1975年『Where Are the Children? (邦題:子供たちはどこにいる)』で一躍売れっ子作家になり、その後も多数サスペンス小説を発表、「サスペンスの女王」の呼び名を確固たるものにしました。(「ミステリの女王」の称号はアガサ・クリスティに行っちゃったからね) 
 2000年に大手出版社のサイモン&シューラ―社と結んだ契約では、5冊の小説で約64億円!! その契約により、一冊あたりに換算すると地球上でもっとも稼げる女性作家になった、とニューヨークタイムズが報じています。
 クラークさんの小説の多くは、いわゆる「読み始めたらやめられない」(can't put down)という感じが売りで、主人公の多くが女性です。英語表現は繊細ながらも平易で読みやすくとにかく読者を楽しませる娯楽性が高いものとなっています。
 文学的な価値は低いながらも、理不尽な運命や恐怖と毅然として戦う主人公たちの姿は、遅咲きながら作家のキャリアで大成功し50代で大学に通い直して卒業した著者ご自身の生き方と合わせて女性読者の多くを勇気づけ、男女問わず多くの読者を楽しませてきました。

 以下、またハーラン・コーベンさんのツイートです。クラークさんの素晴らしさと、コーベンさんのクラークさんへの敬愛がストレートに伝わってきます。

f:id:AgentScully:20200218014551j:plain

メアリは作家であることを愛し、読者を愛していた。皆にやさしかった。素晴らしい仲間で愉快で温かく寛大だった。不思議なくらいカリスマ性があった。メアリが入ってきたらどんな部屋だって明るくなった。そして、『Where are the Children』はそれまでの流れを完全に変える作品だった。

f:id:AgentScully:20200218015532j:plain

写真は、サスペンスの女王の90歳の誕生パーティーで撮ったもの。そして、そう、彼女は「サスペンスの女王」って呼ばれるのを気に入ってたね(その呼び名にふさわしいしね)。

f:id:AgentScully:20200218015725j:plain

メアリは、30代の頃5人の小さな子供を育てる未亡人だった。フルタイムで仕事しながら彼らを支えたんだ。朝の5時から7時まで台所のテーブルで書き、その後子供を学校のために起こした。書く時間が無いなんてグダグダ言うなよ。

f:id:AgentScully:20200218020119j:plain

「クラークの『Where are the Children』は、今まで読んだ本の中でクソ怖かった本の中の一つだ」ー デヴィッド・フォスター・ウォレスの1990年頃の私への手紙より
(メアリ、言葉遣い悪くてごめんね)


 メアリ・ヒギンズ・クラークさんの本は、著者名がタイトルより大きくプリントされて本屋に並んでいるので、私は名前は見たり聞いたりしたことはあったのですが、読んだことはありませんでした。

f:id:AgentScully:20200218021010j:plain
著者名がでかい! さすが女王!
 しかし、追悼ニュースやハーラン・コーベンのツイートですっかり著者の生き方のカッコよさに感激した私は、強く諦めずに生きたサスペンスの女王に敬意を表し、一冊読んでみましたよ。
 ハーラン・コーベン曰く「Game Changer」(何かを大きく変革したものや人)になったというクラークさんの実質的なデビュー作「Where Are The Children?」を選びました。
Where Are the Children? by Mary Higgins Clark(2005-07-01)

Where Are the Children? by Mary Higgins Clark(2005-07-01)

  • 作者:Mary Higgins Clark
  • 出版社/メーカー: Pocket Books
  • 発売日: 2005
  • メディア: マスマーケット
 日本語の翻訳版も出ていますね。古いけど。
子供たちはどこにいる (新潮文庫 ク 4-2)

子供たちはどこにいる (新潮文庫 ク 4-2)

 誰だ!「読みやすい、簡単、英語学習に最適」って言ったヤツ!
 いやいやいやいや、最初の方とか全然読みやすくなかったんだけど。みんなどれだけ英語できるんだよ・・・と私はまた落ち込みました・・・。
 もう読むのやめようかなあ、などとダラダラ読んで後半にさしかかるかさしかからないかのところのことです。「あれあれ、これはもしやこういう話・・・?おお、面白いじゃないか!!」と私は突如座り直し、猛然と読了への意欲を掻き立てられました。そして最初に戻って読み直し(読み直し3回目)、読み直しながら、ここまでストーリーが意味不明だったのはもしかして地名と人名に混乱しているせいではないかと気付き、それ以後は翻訳物の最初によくある登場人物表を自分で作って頭を整理しながら読み進めました。

 たしかに、Game Changerという評に恥じない、緻密に構成された傑作サスペンスですね。これで売れたのもわかります。昨年からいくつもサスペンス系の小説を読んできたけれど、ほとんどがこれより下だなあ。なかなかありそうで無い、いろんなことが丁寧に考えられているサスペンスでした。
 1975年発表だから古くておもしろくないんじゃないかと舐めてましたが、アガサ・クリスティが今読んでも面白いのと一緒で、良い小説は時間が経っても面白いんですよね。
 読みはじめは、なんだかびくびくおろおろしているだけのヒロインにイライラし、これだから昔の女は弱くてだめだな、などとバカにしていましたが、後半はもう、「頑張れ頑張れ!」「ああもう早く早く!!何やってんだよ!」と完全に感情移入。やきもきしまくりで、まさにサスペンス。これは、かなり知的な人が書いた娯楽です。

 髄所に「pick up the receiver」(受話器をとる)という表現があったり、ニュースを知るのがラジオだったりするところに時代を感じましたが、ストーリー自体は全く古くありませんね。むしろ、今現在あちこちで問題になっている悲劇であり犯罪だと思います。しかし当時は相当刺激的な題材だったらしく、数社の出版社が「タブーを扱った小説」ということで出版を躊躇し、出版してくれるところを探すのが大変だったと言うエピソードが前書きで語られていました。(この前書きはちょっとネタ晴らしし過ぎなので最後に読んだ方がいいかも) 
 そのタブー部分ですが、品よくそのものズバリは書かず読者に想像させる感じになっています。 センセーショナルな表現で読ませる作家ではないようで、ティーンネイジャーなんかがちょっと大人の本を読んでみたくてメアリー・ヒギンズ・クラークを読んでみる、というような位置づけになるのもわかる気がしました。Twitterには、「中学生の時初めて読んでその後もたくさん読んだ」というような一般人のツイートも結構ありましたよ。
 
 小説の長さもダラダラ長くなく、一度ストーリーに乗ってしまえばぐいぐいと読める、確かに英語学習者向きの本です。 読んでよかったです。これからも何を読むか迷ったり、ハラハラドキドキしたい気分になったら、クラークさんの本を読んでみようと思います。しかし、是非是非登場人物表を使いましょう。 なじみの薄い外国人の名前が大量に出てきますよ! その名前を頭に叩き込めるか、そこが読み通せるかどうかの決め手のように思います。
 これから『Where are the Children?』を読まれるからは、以下を印刷して切り取って本に挟んで読んで下さいね。あとは、ネットでニューハンプシャー州のCape Cod(映画『ジョーズ』や『ケープ・フィア―』の舞台)の景色や住宅をチェックすると、ストーリーの舞台がイメージしやすくなっていいと思います。いつか、行ってみたい場所です。

                                                    • -

『Where Are The Children』by Mary H Clark

the Cape 舞台となっている地域、Cape Codのこと
The Hunt house, the Hunt Property, the Lookout ハントさんという人所有の、地元の人に「Lookout」というあだ名で呼ばれる海に面した絶壁に立つ館

Nancy Eldridge(ナンシー・エルドリッジ) 32歳、主婦
Ray Eldridge(レイ・エルドリッジ) ナンシーの夫。不動産仲介業者。34-5歳
Michael(マイケル) ナンシーのレイの息子、5-6歳
Missy(ミシー) ナンシーとレイの娘、3歳

Dorothy Prestiss(ドロシー・プレンティス) レイの長年のアシスタント、不動産仲介業者
Kenneth (ケネス) ドロシーの夫。結婚25年目で亡くなった。

Carl Harmon(カール・ハーモン) ナンシーの初婚の相手、大学教授
Peter(ピーター) カールとナンシーの子供
Lisa (リサ)カールとナンシー子供

Rob Legler(ロブ・レグラー) カールの生徒、当時大学生。

Jonathan Knowles(ジョナサン・ノウルズ) ケープ・コッドで退職後の生活を送る弁護士
Emily(エミリー)  ジョナサンの亡くなった妻

Priscilla(プリシラ) ナンシーの母、ナンシーが大学生の時交通事故死
Dave(デイブ) ナンシーの父、インド出張後肺炎で亡くなった

Dr Lendon Mills(レンドン・ミルズ医師)  ナンシーの母と懇意にしていた精神科医
Allison Mills(アリソン・ミルズ) ミルズ医師の妻

Joseph Domes(ジョセフ・ドームズ) ナンシーの最初の事件の弁護士
Courtney Parrish (コートニー・ペリッシュ)  The Lookoutの間借り人

Jedd Coffin, Chief Coffin(ジェド・コフィン、コフィン署長)  捜査に当たっている警察官
Delia(ディリア)  コフィンの妻
Bernie Miles(バーニー・ミルズ) 警察官

John Kragopoulos(ジョン・クラドポロス)
 The Lookoutの購入を検討しているギリシャ人
Jack Wiggins(ジャック・ウィギンズ) 食料品店Wiggins marketの主人
Patrick Keeney(パトリック・キーニー)、Ellen Keeney(エレン・キーニー) ケープコッド地域の住人夫妻、教会関係者。四人の子供がいる。
Thurston Givens(サーズデイ・キヴンズ)  引退した不動産仲介業者、レイと彼の家族をよく知る老人

                                                    • -

英語メモ

self-possessed 冷静な
woolgathering 空想にふけった、上の空
deserter 脱走兵、徴兵逃れした人
staples 食料、必需品
fill in 詳しく話す I'll fill you in later. (後で話すわ)
looker  美人、魅力的な人 Everybody said that she was some looker.(みんなが彼女はなかなかの美人だと言っていた)
octogenarian 80歳代の人 ※ちなみに60代はsexagenarian、70代はseptuagenarian