THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

母はヘロイン中毒、でも青年はまっすぐに夢に向かって生きた。生い立ちに悩むすべての人に読んでほしい、実話のグラフィック・ノベル『Hey, Kiddo』(by Jarrett J. Krosoczka)

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 父のことをどうしたらいいか考えようとしているうちに、母の日がやってきた。母の日はいつだってメッセージカードを選ぶのが難しい日だった。
「お母さんは、いつだって僕のためにそこにいてくれたね」
「お母さんみたいな母親がいて、僕は幸運だ」
「お母さんが何年にも渡って僕にしてくれた素晴らしいことを全部思い返した時・・・」
 どれも僕と母の関係にはあてはまらない。カードの会社はこういうカードは作らなかった。
「クスリというクスリを全部やってたとしても、あなたはそれでも素晴らしい母親だよ!」とか、「ねえ、覚えてる? 刑務所にいて、僕が成長していく姿を全部見逃した時のことを」とか。
(『Hey, Kiddo』ジャレット・J・クロザウスカ著より)

As I trying to figure out how to deal with my father, Mother's Day came along. Mother's Day was always a difficult Holiday to pick up cards for. (snip)
"You were always there for me..."
"I'm so lucky to have a mother like you..."
"When I reflect on all of the wonderful things you have been to me over the years..."
Nothing ever fit our relationship.
Hallmark didn't make cards that said, "Even though you did all of those drugs, you're still a swell mom!" or cards that read, "Hey, remember all that time you spent in jail and missed, like, every aspect of my childhood?"
(From Hey, Kiddo by Jarrett J. Krosoczka )

 2018年刊行、同年の全米図書賞の児童文学部門の最終候補作品になったグラフィック・ノベル。 著者のジャレット・J・クロザウスカのとても難しい生い立ちが、幼年期から主に高校卒業まで振り返って描かれている作品です。

Hey, Kiddo

Hey, Kiddo

 ジャレット・J・クロザウスカは、絵本作家、イラストレーター、子供向けのコミック作家。一番有名なのは、『Lunch Lady』シリーズでしょうか。今のアメリカの小学生なら、一度は図書館で見かけたり読んだりしたことがあると思います。「みんなは知らないけど給食のおばちゃんたちは実はスーパーヒーローで、悪の手から子供たちを守っているんだ!」というとても楽しい低学年向けの漫画で、私も大好き。最近は『Jedi Academy』シリーズも手がけていますね。とにかく、一度見たらすぐに「Lunch Ladyの人の絵だな!」と分かる独特のヘタウマな絵柄とタッチがあります。
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給食のおばちゃんは実は最強! 武器はフライ返しとかへアネットとか
 とにかく楽しく暖かいムードが作品から溢れているので、この回顧録は衝撃でした。作者がこんな複雑な出自の方だったとは。
 生みの母親は十代の頃からヘロイン中毒で、クスリを買うお金のために盗みを働き、刑務所とリハビリを繰り返すという典型的な転落コースをたどってしまう。そんな母が息子の自分を育てることなど到底不可能。年老いた祖父母に引き取られ、以後彼らが育ての親となります。愛情いっぱいに育ててはくれるが、祖父母も煙草やアルコールなどに依存気味、実父は誰だかわからない・・・。
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幼児の頃に母親との生活は終わりを告げる『Hey, Kiddo』より
 でも、彼はどうやったらこんなにまっとうに生きられるのか、というくらい素晴らしい人生を歩むのです。完ぺきとは言えない祖父母に感謝し大切にし、母親とも絶縁というわけではなく関係を続け、先生や幼なじみ、故郷を大切にし、「絵を描き物語を作る」という自分の才能を信じて、自分の人生を創っていくわけです。腹違いのきょうだい(half brother, half sister)や実の父親とも、最終的には良い関係を築くのも印象的です。そうなるまでには多大な努力や葛藤があったとは思うのですが、とにかく誰も恨まず、与えられた「良いもの」だけにフォーカスしているかのような生き方に心打たれます。

She loved me so much. And I was lucky to have that love; it carries me to this day. She was a good person who made bad decisions.
母は僕をとても愛してくれた。僕はそんな愛があって幸運だった。その愛が今日という日まで僕を導いてくれた。母は良い人間だった。判断を誤っただけだ。

 なぜこんなふうに生きられるのか。母や祖父母が物質依存傾向だったのに対し、彼は創作に依存した、そこが人生の明暗を分けたように思えてなりません。創作があったから、物質依存に陥らないですんだのでしょう。世間でいう「普通の家庭環境」は与えられなかった代わりに、心から打ち込める何かを見つけるという幸運は手にした。よかったね、と心から言いたいです。

It's said that books saved lives, but I also say that empty sketchbooks save lives, too. I filled up many, and there is no doubt they saved mine.
(本が人生を救うとよくいわれるけど、真っ白なスケッチブックもそうだと僕なら言う。僕はたくさんのスケッチブックを埋め、疑いなくそれが僕の人生を救ってくれた。)

 なぜこんな家庭に生まれてしまったんだ、なぜこんな親を持ってしまったんだ、そういう思いに苦しんでいる青少年に是非読んでほしい。人生で変えられないものはあるけれど、自分の手で創ることができるものも多くある。こんなふうに生きられたらいいな、と憧れる生き方がこの本にはあると思います。

 When you're a kid and a teen, you're not in control of your circumstances. But the beautiful thing about growing up is that you get to create your own reality and your own family. That family might be a group of tight-knit friends, that family might be a spouse and children of your own. But ultimately, your childhood realities do not have to perpetuate themselves in to adulthood, not if you don't let them. It for sure takes work.
 子供の頃やティーンネイジャーの頃は自分の環境をコントロールすることはできません。でも、大人になることの素晴らしさは、自分自分の現実を家族を自分で創り出せるようになることです。その家族は強い絆で結ばれた友人たちのグループでもよいし、配偶者と自分の子供かもしれません。でも結局のところ、子供時代の現実は大人になってからも永遠に続くというわけじゃありません。あなたがそうさせなければね。たくさん頑張らなくてはいけないことは確かですが。

 こちらは、著者によるTEDのプレゼン映像です。日本語字幕も入っているし、20分も無い短いプレゼンなので、著者に興味が湧いた方は是非! 幸せな気持ちになれます。

TED ジャレット・J・クロザウスカ『アーティストになった少年の話』
www.ted.com
 著者らしい暖かく楽しいプレゼンになっていて、ヘロイン中毒の母親との葛藤部分はあまり語られず、創作のことが多く語られています。この映像からも、著者の素晴らしい人柄は伝わりますが、私は本のほうがやはり著者の魂をより深く感じられました。お母様の想い、祖父母のお二人の想いなども本のほうが切ないものがありました。

blog.the-x-chapters.info

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英語メモ

throw a fit カンカンに怒る、カッとなる Grandma and Grandpa threw a fit that I reached out.(僕が連絡を取ったせいで、おじいちゃんとおばあちゃんはカンカンだよ)

swell素晴らしい You are still a swell mom! (あなたはそれでも素晴らしい母だよ)