THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

小説の盗作はもはややりたい放題? 英語圏の有名盗作スキャンダル

 盗作:Plagiarism
 私のPCでは「とうさく」が「倒錯」で最初に変換されてしまうのはなぜ? 
 Plagiarism、発音はプレーィジァリズムという感じ。よりカジュアルに「パクリ」という感じで使うなら「rip off」でしょうか。

 先日、当ブログでも、アメリカで最近話題になった小説の盗作疑惑の一件に触れましたが、英語圏の出版業界ではこの「Plagiarism」や「rip off」の疑惑が後を絶たないようです。

 古くはヘレン・ケラーから、最近ではJ. K. ローリングまで、有名盗作スキャンダをまとめてみました。

1.ヘレン・ケラー『The Frost King(邦題:霜の王様)』(by Helen Keller)
 お世話になっていた盲学校の校長に『The Frost King』という短編小説をプレゼントしたのは、ヘレン・ケラーが11歳の時。出来がよかったのでしょう。校長は学校発行の雑誌に掲載してしまいました。ヘレンも「人生最高の喜びでした」と振り返っています。
 しかし、その小説はヘレンが生まれる前に発行されたMargaret T. Canbyの『Birdie and His Fairy Friends』の中の一篇『Frost Fairies』とほぼ同じだということが指摘されてしまいます。ヘレンはまったく記憶していなかったものの、二年前にサリバン先生の休暇中に来た代用教員がその本をヘレンに読んで聞かせていたのでした。目の不自由なヘレンにとって、美しい紅葉の色に関するファンタジーの物語は特別な形で心に残っていたようです。
 これは本当に意図せずやってしまった盗作のようですが、ヘレンやヘレンの小説を雑誌に掲載した校長は厳しく世間の追及を受けました。ヘレンはこの盗作騒動で大きく心に傷を負ったようで、そのあとに自分の書くもの口にする言葉がすべて過去に自分が知った誰かのものであるのはないかという恐れを持ち続けたそうです。
 ヘレンが後に著した『The Story Of My Life』でこの騒動に関するヘレンの苦悩を知ったマーク・トゥウェインが彼女に送った手紙も有名です。全文掲載できないのが残念ですが、「人間が言ったり書いたりする言葉で盗作じゃないものなんてあんのか!?はっきり言って全部盗作みたいなもんだろ? アイディアなんてしょせん使いまわされているのさ!」みたいなほんとトム・ソーヤが大人になってちょっと勉強したらこんなこと書くのかな、というような手紙です。

2.J. K. ローリング『Harry Potter and the Goblet of Fire(邦題:ハリー・ポッターと炎のゴブレット)』(by J. K. Rolling)
 2004年に、英国のAdrian Jacobという作家の遺族が、彼の1987年の作品『The Adventures of Willy the Wizard』が2000年に出版されたハリー・ポッターの第4作に盗用されていると主張。

ISBN:408855682:detail
 言葉が似ているというよりプロットや作品全体のアイディアを盗用されているという主張のようです。裁判所が命じた多額の訴訟費用の支払いにジェイコブさん側が応じきれず、棄却に終わりました。
 JKローリングさんは、「そんな本は読んだことも聞いたことも無い」と主張しているものの、確かに偶然にしては無理がある不思議な類似があります。遺族の主張によると、故ジェイコブさんが原稿を送り続けていた出版エージェントが後にJKローリングさんの担当になったとのこと。そのエージェントがジェイコブさんの著作から発想を得てローリングさんにアドバイスし、両者が似てしまったのかも・・・?

3.ステファニー・メイヤー『Twilight:Breaking Dawn(邦題:トワイライトIV)』(by Stephenie Meyer)
 第一部から第三部までの大ヒットを受けて2008年に出版されたヴァンパイア・サーガの第四部も盗作疑惑が持ち上がりました。

トワイライトIV 上 (ヴィレッジブックス)

トワイライトIV 上 (ヴィレッジブックス)

Breaking Dawn: Twilight, Book 4 (Twilight Saga)

Breaking Dawn: Twilight, Book 4 (Twilight Saga)

 声を上げたのは、ジョーダン・スコットさんという方。ステファニー・メイヤーが『Breaking Dawn』を出版する二年前にネットで発表した小説『The Nocturne』のあらすじが、『Breaking Dawn』に剽窃されていると主張しました。ジョーダン・スコットさん側の主張を見る限り類似は明らかなのですが、この主張には疑惑も多く、スコットさんが自分の主張を有利にするために元の小説に手を加えたという裁判所からの指摘もあります。トワイライトを出版した出版社の「剽窃元とされている小説のコピーを送って欲しい」という要請にスコットさんが、答えなかったためうやむやになってしまいました。この騒動はどちらかということ、スコットさんのほうに不利な報道が多かったです。

4.ダン・ブラウン『(邦題:ダ・ヴィンチ・コード)』(by Dan Brown)
 2003年刊行以来4千万部以上を売り上げているダン・ブラウンの代表作で、映画化もされたこの大ヒット小説も複数の盗作疑惑で訴えられました。

The Da Vinci Code: Featuring Robert Langdon (English Edition)

The Da Vinci Code: Featuring Robert Langdon (English Edition)

  • 作者:Brown, Dan
  • 発売日: 2003/03/18
  • メディア: Kindle版
 まず1982年の作品『The Holy Blood and the Holy Grail』の作者二人が、作品の重要な主題やアイディアが盗用されたと主張。5年の歳月を費やして調査した部分だっただけに納得が行かなかったようです。彼らが書いた本を原作にダン・ブラウンがミステリ仕立ての小説を書いたという感じ。そして、2000年の小説『Daughter of God』の作者Lewis Perdueからも盗作で訴えられます。しかし、両者とも主張が認められず敗訴しています。

5.ヤン・マーテル『Life of Pi(邦題:パイの物語)』(by Yann Martel)
 2002年に英語圏の文学賞の最高峰のひとつであるブッカー賞を受賞したカナダ人作家による作品。アン・リーが監督して映画化もされ日本でも『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』という名前で公開されました。アカデミー賞も数部門受賞。小説も映画も大成功・大ヒットした一作です。

パイの物語

パイの物語

The Life of Pi (Scholastic Readers)

The Life of Pi (Scholastic Readers)

  • 作者:Martel, Yann
  • 発売日: 2014/11/06
  • メディア: ペーパーバック
 しかし、この名作の裏でも盗作疑惑が!
 ブラジル人の有名作家モシアル・スクライアー氏の『Max and the cats』とプロットがほぼ同じなのです。こんな人気作家をパクってブッカー賞を堂々と受賞しているヤン・マーテルの心臓の強さがすごい。パクリ元を「原作」のような形でクレジットすることを検討しているそうですが、「『Max and the cats』は読んでいない。批評家の批評文を読んで設定がいいなと思っただけ。本の方はあんまり読みたくなかった。どうして優れた設定が劣った書き手に台無しにされるのを我慢して読まなくちゃいけないんだ?」などと発言し、ブラジルで尊敬されている作家であるスクライアーさんとブラジルの読者を敵に回しました。「プロットのアイディアは私の知的財産。それを盗用され、しかもブラジル文学を侮辱された」とスクライアーさんは怒っておられます。
 『パイの物語』の作品のメッセージとは逆を行く醜いスキャンダルになってしまいました。
 
6.ダン・マロリー『The Woman In The Window(邦題:ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ)』(by Dan Mallory)
 出ました! 当ブログでも驚愕とともにその偽りだらけの人生に関して記事を書いた詐欺師作家ダン・マロリー、新たにまた盗作疑惑です。黒い疑惑には事欠きません。
ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上

ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上

The Woman in the Window

The Woman in the Window

  • 作者:Finn, A. J.
  • 発売日: 2020/04/02
  • メディア: ペーパーバック
 2018年に華々しくデビューを飾った一作ではありますが、2014年に自費出版されたSarah A. Denzilの『Saving April』と初めから終わりまであらすじが同じで、主人公の背景の設定まで同じだそうです。読者には「偶然こうなることはありえない」「ダン・マロリーは嫌いだけど『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』のあらすじを押さえておきたいという人は『Saving April』読めばいい」とまで言われています。盗作されたとされるSarah A. Denzilは、弁護士と協議後、ダン・マロリー側を法廷で争うことは諦めた様子。お金かかるもんね・・・。泣き寝入りです。
 どなたか読んであげて下さい・・・今ならKidleUnlimitedで0円。
Saving April (English Edition)

Saving April (English Edition)

 でも、この小説、最初は1995年の映画『コピー・キャット』の設定をまるまるパクったとして問題になっていたんですよね。ということは『Saving April』もそうだということじゃないですか。もはやだれがどれを最初に盗用したのかわかりません。

7.カアビア・ヴィスワナータン『How Opal Mehta Got Kissed, Got Wild, and Got a Life(未訳) 』(by Kaavya Viswanathan)

How Opal Mehta Got Kissed, Got Wild and Got a Life

How Opal Mehta Got Kissed, Got Wild and Got a Life

 日本では知られていませんが、文芸作品の盗作の話題でよく出てくるのが彼女。デビューが衝撃的だった分、スキャンダルも大きく扱われたようです。
 ヴィスワナータンは、たった17歳で約五千万円の出版契約を手にした文学界の神童でした。そんな順風満帆な作家デビューを飾った彼女の転落が始まったのはハーヴァード大二年生の時。彼女のその2006年のデビュー作『How Opal Mehta Got Kissed, Got Wild, and Got a Life』の中に数か所に渡って、YA作家のMegan McCaffertyの数作品からほぼ一字一句違わずコピーした箇所が見つかったのです。ヴィスワナータンは、コピー元の作家の大ファンであることを公言していたようで「はっきり意図してコピーしたわけではない」と主張。この盗作疑惑が報じられてからさらに、問題となった作品は厳しく検証され、 更にソフィー・キンセラ、サルマン・ラシュディ、メグ・キャボットの作品からの盗用も見つかってしまいました。
 これを受けて、出版社は作品を回収、ヴィスワナータンはデビュー作に続く二作目の出版契約を取り消されています。
 日本で言うと、綿矢りさたんや金原ひとみさんのデビュー作が後に「コピペした箇所がいっぱいあった!」とばれてしまった、というような事態を想像していただければ、衝撃の大きさがお分かりいただけるかと。
 ヴィスワナータンさん・・・今どうしていらっしゃるんでしょうか。まんまコピってしまったのがまずかったですね。6のダン・マロリーのようにうまいことやっていれば・・・17歳という若さゆえに大人の汚さがなかったんですね・・・。

8.アレックス・ヘイリー『Roots(邦題:ルーツ)』(by Alex Haley)
 アフリカン・アメリカンの作家が、ガンビアの祖先クンタ・キンテに始まる自身の家族の来歴、黒人奴隷の問題を綴った有名な歴史作品。発売年だけでも600万部の大ヒットで、1977年にはピューリッツァー賞と全米図書賞も受賞、テレビドラマも有名で、全米に社会現象と言ってもよいくらいのブームを生み出しました。

ISBN:B003YL4M8I:detail
 しかし、こんな名作にも盗作疑惑が。
 作品の多くの部分が1967年出版のほぼ無名の小説『The African』から盗用されていることが判明。作者から訴えられ、ヘイリーは両作品の類似を認めて和解に至っています。和解金は明かされていないものの、『ルーツ』の生み出した利益を考慮すると相当な金額だった模様。また、この作品はノンフィクションとして売り出されながら、著者の想像による部分が多かったということが明らかになり、その点も議論を呼びました。「事実に基づくフィクション」=「ファクション(Fact+Fiction)」というジャンルまで生み出しました。ファクション!ごめん花粉が辛くって~・・・みたいな造語・・・。

9.ジェーン・グドール『Seeds of Hope(未訳)』(by Jane Goodall)
 英国の動物学者、国連平和大使でもあるジェーン・グドールさん。日本でも多くの著作が翻訳され販売されています。最近は子供向けの伝記本になることも増えてきました。私も尊敬する女性の一人です。
 が、残念なことに結構恥ずかしい盗作・盗用疑惑が出てしまいました。
2014年刊行の著作に、ウィキペディアをはじめ数々のウェブサイトからのコピペが含まれていることをワシントン・ポスト誌にすっぱ抜かれてしまったのです。

 その後、グドールさんは盗用疑惑は「貧弱なメモのとり方」「不注意な間違い」のせいであるとし、著作を改訂し再出版しています。

10.エマ・クライン『The Girls(邦題:ザ・ガールズ)』(by Emma Cline)

ザ・ガールズ

ザ・ガールズ

The Girls: A Novel

The Girls: A Novel

  • 作者:Cline, Emma
  • 発売日: 2016/06/14
  • メディア: ハードカバー
 この小説も盗作スキャンダルの話題でよく出てきます。
 2016年のエマ・クラインのデビュー小説は、60年代のチャールズ・マンソンのマンソン・ファミリーを彷彿とさせるカルト集団を舞台にした少女たちの物語です。大手出版社ランダムハウスに7-figureつまりウン億円で版権が売れ、出版前から映画化権まで売れ、当時著者が27歳だったこともあり新しい才能として華々しいデビューを飾りました。
 が、これにケチをつけたのが著者の元彼Chaz Reetz-Laioloさん。同じく作家である彼は、エマ・クラインは彼の未発表の小説から文章や構成を盗作し、スパイウェアでメールをチェックしていたと主張。現在も私生活の暴露などを繰り広げながら法廷で醜い争いが続行中。

11.映画『Yesterday(邦題:イエスタデイ)』(Directed By Danny Boyle)
 こちらは映画が小説の内容に酷似してしまった例です。
 『トレインスポッティング』『スラムドッグ・ミリオネア』などで知られる英国の名監督ダニー・ボイルの2019年の映画『イエスタデイ』の設定、あらすじがオーストラリアの作家 Nick Milliganが2013年にAmazonで自費出版した小説『Enormity』とほぼ同じなのです。

Enormity (English Edition)

Enormity (English Edition)

www.youtube.com
 確かに「主人公が自分以外誰もビートルズを知らない世界に行って、ビートルズの音楽を利用する」というアイディアがまんま同じ。
 しかし、小説の作者のほうは法廷では争わない意向の様子。「アイディアと設定はまったく同じだけど作品のトーンが全く違う。私の小説はダーク、映画は家族で観られるような明るく軽い感じ」「書きながら映画化を意識した。だから自分のアイディアが映画になって嬉しいよ」「電子出版した小説のほうは、映画のおかげで注目が集まって売り上げが上がっている。それは喜ばしいがこんな形で脚光が当たって複雑な心境だ」等々のコメントをしています。


 以上、英語圏出版界における有名盗作事例11例でした。が、これでも絞っています。まだまだまだまだあります。 確かに、マーク・トウェインの言う通り、盗作じゃない作品なんてないんじゃないかと思えてくるほどです。

 こうした事例を追っていくと、以下のようにまとめられます。

1)世界的なヒット作品は、ほぼ確実になんらかの盗作疑惑がかけられる
2)大手出版社から出した本側、売れた本側が裁判で勝てる(潤沢な訴訟費用、良い弁護士)
3)完全なコピペじゃない限り、盗作が裁判で認められることはほぼ無い。よくて和解金をとれる程度
4)盗作疑惑は不名誉だが、一度売れてしまえば疑惑をかけられても売り上げには影響せず売れ続ける

 ニューヨークタイムズ誌も以下のように報じています。

 Except for cases in which exact language is lifted without credit, or a character’s name and likeness are used, and claims of literary theft against novelists are difficult to prove and tend to collapse in court, as they have in lawsuits brought against best-selling writers like J.K. Rowling and Michael Crichton.

 文章や登場人物の名前や人物像がまったくそのままクレジット無しに使われている場合を除き、文学における剽窃を小説家に対して主張するのは証明が難しく法廷で失敗する傾向がある。J.K.ローリングやマイケル・クライトンといったベストセラーの著者に対して訴訟を起こしてもそうなる。

(From The New York Times "Similarities in 2 Novels Raise Questions About the Limits of Literary Influence")
ニューヨーク・タイムズ誌「小説間の類似で高まる文学的な影響の限界」より

 これじゃ、強いもんがやりたい放題じゃないですか。これでいいんですかね。
確かに、過去の作品や自分が見聞きしてきたからまったく影響を受けずに作品を作ることなど不可能です。しかし、何をやってもいいというわけではないと思うのです。
 以下の記事で紹介されていた、著作権や盗作のコンサルタントであるジョナサン・ベイリーさんの言葉がよかったので、最後に書いておきます。
You’re A Wizard, Willy! Famous Claims Of Plagiarism In Popular Fiction – Urbo
 ベイリーさんは、盗作された経験がある元作家でコンサルタントに転身した方です。「もう全部やりつくされている(it’s all been done before)」という考え方は危険だし盗作の言い訳だとしています。そしてこのようにおっしゃっています。

“If there’s nothing new under the sun, why are we still creating?”
「もしこの世界に新しいものなどもう無いというのなら、なぜ私たちはまだ創作を続けているのか?」

 創作を志す方・出版に携わる方は、「過去作からインスピレーションを受ける」ことと「盗用する」ことの線引きをやはり真剣に考えてほしいです。似てしまったら、ちゃんと「原作」「参考文献」としてクレジットして利益の一部を支払うとか、「ゼロを1にした」方々も納得のいく解決方法を模索してほしいと願ってやみません。

 そして、学生の皆さん。最近は「盗用チェッカー」なるものがあるようですよ。先生もこれでチェックしています。コピペはダメですよ。「もしかしてこれって自分のオリジナルじゃないんじゃないかな」と思った場合も、チェッカーでチェックしましょう。
unicheck.com

blog.the-x-chapters.info
blog.the-x-chapters.info


参考記事:
Secondhand books: the murky world of literary plagiarism | Books | The Guardian

12 Literary Plagiarism Scandals, Ranked | Literary Hub

5 authors who have been accused of plagiarism - Times of India

Harry Potter publisher denies plagiarism claim - Reuters

Similarities in 2 Novels Raise Questions About the Limits of Literary Influence - The New York Times

Booker winner in plagiarism row | Books | The Guardian

Author Accuses Film 'Yesterday' of Plot Similarities