THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

ロリータ+MeToo? 15歳の少女と42歳の教師との関係は愛なのか虐待なのか『My Dark Vanessa』(by Kate Elizabeth Russell)

「私たちはよく似てると思うんだ、ネッサ」彼は囁いた。
「君の書いたものからわかるんだ、君は私のようにダークでロマンティックなんだってね。君はダークなことが好きなんだよ」
“I think we’re very similar, Nessa,” he whispers. “I can tell from the way you write that you’re a dark romantic like me. You like dark things.”

f:id:AgentScully:20200404233859j:plain
『My Dark Vanessa』米国版表紙

 2020年待望のヒット必須本としてこれまたHype(発売前の宣伝や騒ぎ)がすごかった一冊。2020年3月刊行のケイト・エリザベス・ラッセルの衝撃のデビュー作です。
 オプラのブッククラブの3月の課題図書に選ばれましたが、ラテン系女性の作家から「既に似たような話を数年前に発表している、また出版業界の白人ひいきか」という声が上がり、1月の課題図書『American Dirt』と同じような議論を呼んでしまいました。その結果、結局オプラはブッククラブをキャンセル。幻の3月課題図書となりました。売り上げ数ががらりと変わるわけですから、出版社はかなりがっかりでしょうが、それでも売れているようです。

Oprah’s Book Club Dropped Her Novel. It Still Became a Best Seller. - The New York Times

 発売日直後のコストコでも平積み。前にいたジェントルマンがじっと手にとっていました。

f:id:AgentScully:20200406214817j:plain
奥の方は手届かないって

 15歳で全寮制の私立高校に特待生入学したヴァネッサは、国語教師のストレインと出会い深い仲になる。17年が経ち、MeTooムーブメントが高まりを見せる中、ヴァネッサはストレインが複数の卒業生から性的虐待で訴えられていることを知る。ヴァネッサも彼女たちをサポートするために、虐待の被害を告発することを求められるが、ヴァネッサにとってストレインは真剣に愛し愛されたたった一人の大切な恋人であり、自分が虐待の被害者とは思えないのだった。ヴァネッサは、17年前の二人の関係を再評価する必要に迫られる・・・・・・

 というようなあらすじです。

 テンポや展開、ダークでエロティックで背徳感あふれるムード、その後の二人がどのようになったのか、読むのがやめられず、かなりの傑作と感じました・・・・・・前半は!!!

 女の子の、彼を自ら強く欲しながらも同時にどこか違和感や嫌悪感を感じている感じ、男性がゆがんだ欲望や自己欺瞞でたくみに女の子を取り込んでいく過程がかなりよくわかりました。私、食虫植物のハエトリソウを育てていたことがあるのですが、あれが食指に触れた他の生き物を生きたまま捕らえて、無くなるまで栄養吸い取ってる様子が頭の中にちらつきました。
 ↓この動画を観ている時の恐怖感と嫌悪感と無力感が活字で体験できる小説です。
www.youtube.com
 これを興味深く観られる方ならおもしろく読めると思いますが、ダメな方は多分読んでいて「おえぇ~」となってしまう小説でしょう。
 性描写もかなり詳細かつ克明なので、公共交通機関とか家族の前で読んではいけません。一人で夜に読みましょうね。ここまで42歳の男が15歳の少女を使って自分の性的なファンタジーを叶えまくる様子を描写すると、そのテの欲望に苦しんでいる男性の犯罪実行のスイッチを押してしまうのではないか、そういうファンタジーを肯定して後押ししてしまうのではないか、と心配になりました。その部分は多少ロマンティックでエロく書かれ過ぎている感もあります。多分、その当時のヴァネッサはそのように感じていた、ということなのでしょう。しかし、その後に待っている地獄も書かれているので、ロリコン礼賛にはなっていないからよし、ということなのか。

 後半が残念です。
 「朝9時に仕事を始めて、ノリにノッて集中して仕事を進めていたら1時くらいに仕事終わっちゃった、5時まで何やろう・・・? あれとこれとそれでもやるか・・・と思ってたら、もう4時45分!! どうしよう、この仕事まとめないと帰れない~」というような感じです。1時に帰宅することが許されていたら素晴らしい一日だったでしょう。編集さんは長くしたかったのかな。中編小説にしていたら傑作だったかも。でも中編小説ってあんまり売れないってスティーブン・キングも言ってたっけ。

 「それは一人の男を社会的に抹殺するほどのことなのか?」というMeToo運動に関する疑問や、虐待の定義など、確かにブッククラブでの議論に向いている一冊ではあります。みんなで読むにはエロ過ぎる感もありますが、読み終えた後、いろんなことを議論したくなる本です。

 恋愛だったのか、虐待だったのか・・・
 こんなの虐待に決まってるじゃない、という良識派の声が聞こえてきますが、私は「恋愛であり虐待である」、つまり両方であったと思います。この男なりに真剣に彼女を愛したところもあったのだろうと思うし、彼女も積極的に望んでそういう関係に飛び込んで行ったのですから。「無理やりじゃなかった、君だって喜んでたよね? なぜ自分だけが責められるのか」という男性側の言い分もわからないでもないです。
 が、この男のしていることは結局泳げないのに自分で海に飛び込んで、「君が突き落とした! 君のせいでこうなった! 君が手を放したら私は死んでしまうんだぞ、死んでもいいのか?」と女の子に罪悪感を持たせて長期間に渡り苦しめているのと同じことのように思うのでやはり残酷です。そして、そうやって支配しておきながら男性側は自分では意図していないのでしょうが、女の子が大人になっていくに従って明らかに興味が失せてますよね。40代後半の男に22歳の女の子が「私はあなたにとって歳をとり過ぎってわけ?」と聞かなくてはいけない関係。やはり病んでいるとしか。

 二人してやたら簡単に「I love you」とか「Love」いう言葉を使っていますが、そんな彼らに、車谷長吉先生が「異性を好きという気持ちがよくわからない」という人生相談に回答した以下の文章が思い浮かびます。

「好き」という感情は、端的に言えば男女ともに相手とまぐわい(性交)をしたいということです。
(『車谷長吉の人生相談 人生の救い』93ページより)

 いやそれは違う本当に愛しているんだ、と言うのなら、女の子は男性側を社会的に破滅させるような行為に簡単に踏み込むのはやめましょうね。あなたには、男性を生かすことも殺すこともできるパワーがあるのです。スパイダーマンの叔父さんも言ってますよ、「大きな力には大きな責任も伴う」ってね。見つかっても責任を問われるのは自分ではない、という気軽さは持たないほうがいいでしょう。一生付いて回るし、たいてい何年にも渡って人生の一番いい時期が無駄になります。

 そして、ロリコン男性の皆さん。そんなふうに生まれついてしまっただけで、叶えられない欲望に苦しまなければいけないのは本当に気の毒な事です。実現したら犯罪にしかならない欲望を抱え続けるのは苦しい事でしょう。でも、頑張って耐えて下さいね。女の子が裸でどうぞお好きに、と立っていてもギャーと叫んで地球の裏側まで走って逃げましょう。食べてはいけない据え膳というものがあるのです。一回やったら抜けられない麻薬のようなものです。もしかして一回くらいならばれずにうまくいくかなと思っても、そううまくいかないことが多いですよ。忘れた頃に蒸し返されたりとか。社会的な制裁を受けて何もかも失うのはあなたなのです。ほんと、いいヴァーチャル・リアリティのゲームとかで悶々としている苦しみを発散できるといいんですけど。

 それにしても、この小説の中でも、この小説の盗作疑惑で話題になった『Excavation』でも、読者の皆さんのレビューでも、ナボコフの『ロリータ』が「みんな読んでて当たり前の小説」って感じで登場し過ぎて、未読の私はかなりいらいらしました。何?教科書にでも載ってるの?というくらい、皆さんよくご存じで。しかも絶賛されている。名作なんでしょうね。読まないと!! なんかどんどんロリコン文学にはまっていく自分が複雑・・・。

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)

英語メモ======
ephebophile 思春期の児童に性的関心を抱く大人

falling-out〔仲の良かった者同士の〕仲たがい、不和、けんか She means Tom Hudson, Jenny’s boyfriend, the catalyst for the falling-out. (彼女は、ジェニーの彼氏、仲たがいのきっかけであるトム・ハドソンのことを言っているのだ)

bumpkin 田舎者  I was scared to out myself as a loser, a bumpkin.(私は田舎者の負け犬とばれるのが怖かった)

blog.the-x-chapters.info
blog.the-x-chapters.info
blog.the-x-chapters.info