THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

マーガレット・アトウッド80歳、コロナ危機や隔離生活を語る。ご自身の隔離中の読書リストも!!

 4月8日にカナダのレジェンド作家、マーガレット・アトウッドが、ニューヨークタイムズ誌のポッドキャスト番組に出演されました。ホストはアメリカ人作家のシェリル・ストレイド。
 大御所によるなかなか貴重な対談だったと思うので、今回はその中のおもしろかったところをまとめました。もとのポッドキャストと記事はこちら↓
www.nytimes.com 

 お写真を拝見するたびに、その見事な魔女っ鼻に見とれ、ハロウィンで良いアルバイトができるのではないかと思ってしまうアトウッドさん。黒い服を着せてほうきにまたがらせてみたい方です。

 昨年2019年には、ご自身の代表作である1986年発表の『The Handmaid's Tale(邦題:侍女の物語)』の続編『The Testaments』を上梓。

The Testaments: The Sequel to The Handmaid's Tale

The Testaments: The Sequel to The Handmaid's Tale

「近代文学史上で最も議論を呼んだクリフハンガー」と名高いエンディングである前作の続きを33年後に出すという勇気に驚かされました。映画『トイ・ストーリー4』のように蛇足扱いされてコケる、という結果を予想していましたが、見事、英語圏の最高峰の文学賞の一つであるブッカー賞を受賞。まさに奇跡の80歳。本当に魔女だったりして。対抗できるのはもう日本代表魔女、黒柳徹子だけ。

マーガレット・アトウッドの代表作『侍女の物語』の紹介記事↓
blog.the-x-chapters.info
漫画版もなかなかきれいでよかったですよ。

HANDMAID'S TALE, THE (GRAPHIC

HANDMAID'S TALE, THE (GRAPHIC

 しかし、いくらマーガレット・アトウッドが魔女とはいえ(魔女じゃない)、80歳と言えばコロナウィルスに対して最も脆弱な年齢層です。お元気にされているか心配ですよね。近況のチェック、そして「年長者そしてディストピア小説の大家として辛い時期を生きる現代人たちに知恵を授けてほしい」ということで、シェリル・ストレイドが自身のポッドキャスト番組への出演を魔女アトウッドに依頼したようです。「I don't know if I have any wisdom to offer.(教えられる知恵なんてあるかわからないけど)」と言いつつ受けてくれたとのこと。

ホストのシェリル・ストレイドに関して詳しくはこちらをどうぞ
blog.the-x-chapters.info

 魔女アトウッド、インタビューが始まっていきなりマスク作りにわくわくしていて、普通のおばあさんぶりに拍子抜けしました。あのシャープでダークな作風とあまりにも一致しません。そういえば、この間はこんなツイートもしてましたね・・・。

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「ジョークよね? でももしかして使える!?」
 妹さんや娘さんの服を昔作ったという思い出のミシンを妹さんが引っ張り出して持ってきてくれたのが嬉しいご様子。
 70代で同じくコロナ脆弱年齢層に属する作家であるジョージ・R・R・マーティン(『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作者)が別のインタビューで答えた「心配ありがとう!でも書斎に閉じこもって書いてる生活だから大丈夫だよ」というような回答を期待していたのですが・・・。

I am socially isolated When I got back from where I have been, which was on March 10th off course, I just made it out of New Zealand, Australia and Ireland in the nick of time. And then I didn't see anybody for the required number of days.
(3月10日に出かけていたところから戻ってからは、社会的隔離状態です。ニュージーランド、オーストラリア、アイルランドからぎりぎりで戻ってきたの。そのあとは、必要な日数の間、誰にも会えませんでした。)

 海外渡航から帰国後二週間は自宅待機、というやつですね。その後は、12歳年下の妹さんが週末だけ励ましに来てくれ、お手伝いさんのような方もいるようですが、基本的には一人で暮らしていらっしゃるようです。でも、リスが来たり屋根の修理の人が外に来たりするし、ひとりぼっちという感じはしないとのこと。スーパーに行ったり、住居侵入してくるリスと戦ったり、なんだか楽しそうです。

「森で育ったし、人と会えないことで気に病んだりしないわ。」
「うまくやれないわけないでしょう? 病気になってもいないし、住む場所も食べるものもあるのだから。大変なのはそういうものが得られない人たちよ。」

 今の世界や状況が恐ろしくないのか、ニュースを見てどう思うかと聞かれた際の回答は以下の通り。

The older you get, the less afraid you are of those kinds things. You are afraid for other people, but you already know your plot, the plot of your life. And the plot of your life is that there is a lot more in your past than it's gonna be in the future.
(歳をとればとるほど、そういうことは怖くなくなるものですよ。ほかの人たちのためには恐ろしいとは感じるけど、自分に関してはもう人生のプロットはわかっているのですから。そしてそのプロットは未来にあるよりもずっと多くが過去にあるのです。)

So, time is limited anyway. Why waste your time worrying and being afraid?
(それに、私の時間はどのみち限られている。なぜびくびくしたり怖がったりしてその時間を無駄にするの?)

But if you are younger, off course, you don't know that plot. And you think you know that ”My whole future has gone up and smoke like everything that I thought what it's gonna be in my life is in question.”
(でも、もし若い人だったら、もちろん人生のプロットはわからない。そして「私の将来は煙のように無くなってしまった。この先の人生にあると思っていたもの全てがもうどうなるかわからない」と思うでしょう。)

 職を失ったり、食べるものが得られなかったり、小さな子供がいる人の不安やストレスはすごいだろうが、自分のような老人にはそんなことは言えない、とのこと。
 そういった恐れや不安を抱きながら生きている若い人たちに対して、何かお言葉を、と問われ・・・

I was born in 1939 , which meant that my early childhood was spent during World Way Ⅱ. So, When I think of hard time, I think of people in the Europe during those times. Those were very hard times.
(私は1939年生まれで、幼少期は第二次世界大戦の中で過ごしました。それで、苦境というものを考える時、私はその大戦中のヨーロッパの人々のことを思うんです。とても辛い時代でしたから。)

And I am also the one who has been interested in plagues. I think that partly from hearing about my mom and dad who went through the 1919 Influenza epidemic, which was very lethal and killed huge number of people around the world, like really lot.
(それと私、伝染病に関心を持ってきた人間なんです。父と母からそういう話を聞いてきたせいね。彼らは1919年の非常に強力で膨大な数の人間を世界中で殺したインフルエンザの大流行を経験した人たちなんです。)

So the whole family five kids two grown-ups went through that and all survived.
(そんなふうに、家族全員大人二人と子供5人が苦境を経験して全員が生き延びたわけです。)

So, that's rather hopeful story to of heard.
(ちょっとは希望が持てる話でしょう。)

I think, for young people who have never been through any those things or lived at the times they are happening, this seems like just frightful, seems like an absolute worst thing they've never known anything like it. It's horrible.
(そういうことを経験したことも無く、そんなことがあった時代を生きたことも無い若い人達にとっては、今回のことはただただ恐ろしく、まったく未知の最悪のことに思えるでしょうね。確かにひどいことよ。)

But if you witnessed, heard about, and known people who had been through the other thing, you think "OK, we're gonna get through this".
(でも、もしもほかの苦境を経験したことがある人たちに会ったり、話を聞いたり、そういう人たちを知っていたら、「大丈夫、これを生き抜いてやるぞ」って思うものですよ。)

It's going to be bad, and things are not gonna same on the other side, but you know, they aren't. They change anyway.
(ひどいことにはなるでしょうし、終わった後も物事は同じではなくなるでしょう。でもそういうものですよ、物事はどっちにしろ変化するものなのです。)

 そして、『Art & Energy: How Culture Changes』(Barry Lord著)という本を話題に挙げ、エネルギーの変遷と人々の生活のカルチャーの変化に関して考え、新たな視点が得られたというような話になっていきました。

Art & Energy: How Culture Changes (English Edition)

Art & Energy: How Culture Changes (English Edition)

  • 作者:Lord, Barry
  • 発売日: 2014/07/25
  • メディア: Kindle版
 石炭が人々に「生産」の文化をもたらし、石油が安価なものを大量に「消費」する文化をもたらし、そして、今は再生可能エネルギーにより「Stewardship」(環境への責務、管理のような意味?)の文化へと変わりつつある、とアトウッドさんは説きます。

And this time is gonna give us a bit of a rest button.
(そして、今回のコロナ危機は私たちへのちょっとしたリセット・ボタンになるでしょうね。)

How are we gonna do things differently on the other side?
(これが終わった後、私たちは物事をどんなふうに変えるのかしら?)

(snip) I think we are going to say to ourselves "Do I really need that? Do I really need to be doing that?"
(ー中略ー 自分自身に問いかけるようになると思うんです、「それって本当に必要なものなんだろうか? それって本当にやらなくちゃいけないことなんだろうか?」って。)

 今回のコロナ危機で、物やエネルギーに関して無駄な消費をしない生活のきっかけになるのでは、とお話されていました。

 誰かに何かを相談したくなったり、頼りたくなった時には誰のところへ行くのか、という質問には・・・

I like to talk things over with people whose opinions I value. So I have a number of people in my life that I can do that with. Somewhat fewer in number than they used to be, Cheryl.
(良い意見を言う人たちと議論するのは好きですよ。そういう議論ができる人達が私に人生にはたくさんいます。かつてよりその数がちょっと減ったわ、シェリル。)

Because in my age group, people are dropping off the tree.
(だって私の年代だと、人は木から樹から落ちていくんだから)

 親しい人やかつて辛い時に頼っていた人が亡くなったり、愛する人が亡くなっていくのを見るのはどういう気持ちかと問われ・・・

People die. I hate to break this to you. But that’s one of the things that they do.
(人は、死ぬ。こんなことをあなたに告げるのは嫌だけど、死は人がすることのひとつなのです。)
And that has been going on pretty much my whole life. Not my first rodeo of people dying.
(そしてそれは私の人生を通してずっと起こってきたこと。人の死は、私の初めてのロデオってわけじゃないの)

And it’s always very hard if you value that person. They’re not going to be in your life anymore in the way that they used to be.
(大切な人に死はいつだって辛いものです。その人が今までと同じようには自分の人生にいてくれなくなるんだから)

But They’ll still be in your life. It’s just that there probably won’t be any new conversations.
(でも、その人たちはまだあなたの人生にいるのです。おそらく新しい会話はもう無いだろう、というだけ。)

If there are some new conversations and you’re awake while you’re having them, you’re not alone on the planet either. It’s fairly normal for people to turn up who aren’t alive in the usual sense anymore.
(彼らと新しい会話があった、しかもちゃんと目を覚ましている時だった・・・それもありうることですよ。普通の意味で言うところの「もう生きていない人々」がひょっこり現れるのは、まったく正常なことです。)

 おいおい、だいじょうぶか、アトウッドさんよ!! 
 と言いたくなりますが、この後で「亡くなった人が作家であれば作品を通していつも語りかけてくれる」というような会話もあるので、何か比喩的な意味なんでしょうかね。それとも、死人との会話も通常営業のうちというところからしてやはり魔女なのか?

 そして対談の最後に、アトウッドさんはなぜか聖書のヨブ記に関する旧友の詩を唐突に朗読。聞いててさっぱり意味がわかりませんでした・・・・・・。
 が、朗読中、途中から声が震え泣くのを堪えながら読んでいるように聴こえ、聴いているこっちがかなり狼狽しました。やはり人間老い先短くなると涙もろくなると言うし、魔女も感極まったか・・・泣かないでアトウッドさん、だいじょうぶ!?とハラハラしていたら、詩の朗読が終わった途端、けろっと朗読前の声と口調に戻りずっこけました。単に、朗読がうまかっただけという・・・。
 なんでまたその詩をホストやリスナーとシェアしたかったのか、その辺がよくわからなかったのですが、どうやらヨブ記というのが「何も悪いことをしていない良い人ヨブさんに想像を絶する悪い事(財産没収、娘殺害、拷問などなど)が悪魔によってもたらされ、それでも神を信じる心を捨てずにいられるか」というような内容らしく、なんの罪も無いのに突然のコロナ危機に苦しむ人たちを想ってのチョイスだったようです。詩の解釈は・・・またあとでもう一回聴いて考えてみます・・・わかるかな・・・聞き取れるかな・・・。

 って、ここまで一生懸命、ポッドキャストを繰り返し再生してひどいリスニング力で聞き取りしてきたのに・・・・・・なんだこれはー!!「Transcript」っていう文字起こし原稿のページへのボタンが元記事にあるじゃないかーーーーー!! 私のX時間を返せ! なんかもう何もかもイヤになった。・・・いや、ヨブさんよりマシだ。怒っちゃいけない。

 最後に、魔女アトウッドの隔離中のブックリストをどうぞ。


マーガレット・アトウッドのムード別隔離生活読書リスト

  • 「もっとひどかったかもしれない」と自分に言い聞かせるための一冊:

『A Woman in Berlin(邦題:ベルリン終戦日記―ある女性の記録)』(著者匿名)
 1945年の陥落前後のベルリンの実態をある女性の目から見た記録。飢餓、空襲、略奪、ロシア軍によるレイプ・・・確かに「これよりマシ」と現状が良く思えてきそうな内容。

A Woman in Berlin

A Woman in Berlin

ベルリン終戦日記―ある女性の記録

ベルリン終戦日記―ある女性の記録

  • 発売日: 2008/05/27
  • メディア: 単行本
 映画にもなっているようです。パッケージは戦争映画風なのに中身は違うじゃないか、と知らずに観た皆さんが怒っておられます。
ベルリン陥落1945 [DVD]

ベルリン陥落1945 [DVD]

  • 発売日: 2010/11/26
  • メディア: DVD


  • 現在体験中のことを感じる一冊

『Love in the Time of Cholera Gabriel(邦題:コレラの時代の愛)』(ガブリエル ガルシア=マルケス)
 南米文学の代表作家、巨匠ガルシア・マルケスによる1985年発表の作品。晩年に差し掛かった男女の長きに渡るラブストーリー。この本、コロナ禍でおすすめの本に挙げる人が本当に多いですね。あちこちで見かけます。

Love in the Time of Cholera (Vintage International)

Love in the Time of Cholera (Vintage International)

コレラの時代の愛

コレラの時代の愛

  • 「こうしたらもっと良くなるかも」と考える一冊

『The Story of More - How we got to climate change and where to go from here』(by Hope Jahren)
資源やスペースに限りがあるこの地球でどう生きるか。地球生物学者によるノンフィクション。日本語未訳。

The Story of More

The Story of More

  • 作者:Jahren, Hope
  • 発売日: 2020/03/05
  • メディア: ペーパーバック


  • 現実逃避のために

『The Obsidian Murders』(Thomas King)
 アメリカ先住民にルーツを持つカナダ系アメリカ人作家トーマス・キングによる、探偵DreadfulWaterシリーズ三作目。2020年1月刊行の新しい本。日本語未訳。

Obsidian: A DreadfulWater Mystery

Obsidian: A DreadfulWater Mystery

  • 作者:King, Thomas
  • 発売日: 2020/01/28
  • メディア: ハードカバー
 
『Bunny』(Mona Awad)
 2019年6月刊行。タイム誌、Vogue誌、Electric Literature誌、ニューヨーク公共図書館の2019年ベスト本にノミネート。ジャンルや中身が説明しづらい小説。大学院版『ミーン・ガールズ』?
BUNNY (MR EXP)

BUNNY (MR EXP)

  • 作者:AWAD, MONA
  • 発売日: 2019/06/11
  • メディア: ペーパーバック

  • 思い出をたどるために

『The Equivalents: A Story of Art, Female Friendship, and Liberation in the 1960s 』(by Maggie Doherty)
 2020年5月発売予定。まだ売られてもいない。多分、マスコミ関係者とか著名作家だけに先行して配られたんでしょうね。ハーヴァード大学の女子校(ハーヴァードは昔共学じゃなかった)のラドクリフ校の教授による、ラドクリフ校に実在した作家や画家などクリエイティブな女性たちのグループの友情や恋、夢を追った歴史フィクション。