THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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「公共の図書館にこんな本置くなっ!」全米図書館協会発表、抗議が多かった本の最新ランキング

「なんでこんな本を図書館に!?
あんたのうちの本棚だけにしときな!!!」

 こんな声が寄せられるのは、各地の自治体図書館、学校図書館の常のようです。
 図書館に置いてある本や貸し出しが多かった本からその時代の人々の興味や関心が伝わってくるのは当たり前ですが、実は「図書館に置かれなかった本、置くことを反対された本」にも同じくらい時代の空気や人々の倫理観が見えるもの。

 今回は、全米図書館協会(American Library Association)が毎年発表している前年中に抗議が多かった本のランキングを紹介します。

 それでは、2019年の抗議本ベスト10をどうぞ!!

1) 『George(邦題:ジョージと秘密のメリッサ )』(by Alex Gino)

ジョージと秘密のメリッサ

ジョージと秘密のメリッサ

George

George

  • 作者:Gino, Alex
  • 発売日: 2015/08/25
  • メディア: ハードカバー
 自分の体の性別と内面の性別が一致しない、つまりトランスジェンダーの10歳の少年の思いを描いた小学校中学年以上向けの児童書。主な抗議理由は、「露骨な性的表現、LGBTQIA+*1の内容、宗教的な観点や伝統的な家族構成との矛盾」などなど。
 前年2018年に続き、堂々の二年連続第一位! おめでとう、やったね!!・・・・・・と言ってよいものか。

2) 『Beyond Magenta: Transgender Teens Speak Out (邦題:カラフルなぼくら) 』(by Susan Kuklin)

カラフルなぼくら

カラフルなぼくら

Beyond Magenta: Transgender Teens Speak Out (English Edition)

Beyond Magenta: Transgender Teens Speak Out (English Edition)

 写真家/作家のスーザン・クークリンによる6人のLGBTのティーンのインタビューや彼らのポートレイト写真からなる本。主な抗議理由「LGBTQIA+コンテンツ、若年層読者への影響、露骨で偏見のある性的表現」

3) 『A Day in the Life of Marlon Bundo (邦題:にじいろのしあわせ ~マーロン・ブンドのあるいちにち~) 』(by Jill Twiss, illustrated by EG Keller)

 現米国副大統領のマイク・ペンス一家がワシントンの公邸で飼っている実在するウサギ、マーロン・ブンド。コメディアンのジョン・オリバーがそのマーロン・ブンドのラブ・ストーリーを絵本にしました・・・ただし、雄ウサギと雄ウサギのラブ・ストーリーですが。「同性愛は薬やセラピーで治せ」という超保守的なペンス副大統領への強烈な皮肉と揶揄のメッセージが込められてはいるものの、子供向けの絵本として心温まる内容になっています。
 主な抗議理由は、「LGBTQIA+コンテンツ、政治的な観点、内容への警告(コンテンツ・ワーニング)無しに読者を道徳的に汚染することを意図している」など。
 思いっきり現職の副大統領をおちょくっているこんな本を出版できるアメリカ。怖いもの知らずです。

4) 『Sex is a Funny Word: A Book about Bodies, Feelings, and YOU』(by Cory Silverberg, illustrated by Fiona Smyth)

 作家兼性教育の専門家であるコリー・シルバーバーグさん作、フィオナ・スミスさん作画によるグラフィック・ノベル。子供向けに、身体、セクシュアリティ、性別の複雑さ、あらゆる家族構成(お父さんが二人とか)があることを教えてくれる本。主な抗議理由は、「LGBTQIA+コンテンツ、性別認識や性教育の議論があること、表紙と題名が不適切」など。
 読者レビューを読むと、親たちがかなり早くからこういう本を子供に与え、内容に関して話合っていることに驚かされます。

5) 『Prince & Knight(邦題:王子と騎士)』(by Daniel Haack, illustrated by Stevie Lewis)

王子と騎士

王子と騎士

Prince & Knight (Mini Bee Board Books)

Prince & Knight (Mini Bee Board Books)

  • 作者:Haack, Daniel
  • 発売日: 2018/05/01
  • メディア: ハードカバー
 様々な創作活動はしていたもののこの初の子供向けの作品で世界的な大ヒットを飛ばしたダニエル・ハークによるストーリー、スティーヴィー・ルイスの絵による絵本。
 結婚相手を探している王子様はどのお妃候補にもときめかない。運命の相手はどこにいる? ・・・というところまでは、『シンデレラ』をはじめとする数々のおとぎ話と一緒です。しかし、王子様がついに出会ったそのひとは・・・・・・凛々しくたくましい騎士だった!!というハッピーエンディング。
 主な抗議理由は、「ゲイ結婚をはじめとするLGBTQIA+コンテンツがある、幼い子供を意図的に洗脳する狙いがある、混乱や好奇心や性別違和感を呼ぶ可能性、宗教的な観点との矛盾」など。
 同じ作者による姉妹本(?)、『村娘と王女』も好評発売中! こちらでは、魅力的な村娘が運命の相手と出会います。それは・・・・・・タイトルからもうおわかりですね?
村娘と王女

村娘と王女

Maiden & Princess

Maiden & Princess

6) 『I Am Jazz』 (by Jessica Herthel and Jazz Jennings, illustrated by Shelagh McNicholas)

I Am Jazz (English Edition)

I Am Jazz (English Edition)

 著者のジャズ・ジェニングスさんは、アメリカで一番有名な若手トランスジェンダー活動家と言ってもいい方。Youtuberやモデルとしても成功し、確かテレビ番組もあったはず。
www.youtube.com
 二歳の頃から自分は男の子の体をした女の子だとわかっていたというジェニングスさん。そんな彼女の実体験をもとにした幼児~小学生低学年向けの絵本。トランスジェンダーの子の心がわかりやすく簡潔に描かれています。
 主な抗議理由は「 LGBTQIA+コンテンツ、トランスジェンダーの登場人物、議論が分かれる政治的に微妙な問題を扱っている」など。

7) 『The Handmaid’s Tale(邦題:侍女の物語)』(by Margaret Atwood)
 カナダの大御所作家マーガレット・アトウッドが1986年に発表したディストピア小説。このブログに実によく登場する本ですね・・・。内容や雰囲気は以下のHuluのドラマの予告編でどうぞ。(ただし「性奴隷」という表現は内容にあっておらず「生殖奴隷」のほうが適切だと思いますが)
www.youtube.com
 主な抗議理由は、「みだらな表現、俗悪かつ性的な含意」など。確かに超ダークな大人小説ですが、もっと過激な性表現の小説もあると思うんですけどね・・・。現代文学の名作として扱われているのが問題なんですかね。

8) 『Drama』(by Raina Telgemeier)
 小学生向けのグラフィック・ノベル作家の代表格レイナ・テルゲマイヤー。今の小学生なら一度は学校図書館や公立図書館で彼女の作品の特徴ある表紙を観た事があると思います。さらに女の子なら借りて読んでいる率が高いですね。
 ランクインしたのは、そのレイナ・テルゲマイヤーの2014年のグラフィック・ノベル。

Drama (English Edition)

Drama (English Edition)

 それまでの作品の大半が小学校低学年~中学年でも読める内容であったのに対し、この作品では主人公の女子中学生が知り合った二人の兄弟のちょっと複雑なセクシュアリティが重要なテーマになっていて、予備知識な無い子がそれまでの作者の作品の流れや雰囲気を期待して読んでしまい、物議をかもした一作です。
 主な抗議理由は「LGBTQIA+コンテンツ、家族観や道徳観に反している」など。

9) 『ハリー・ポッター』のシリーズ (by J. K. Rowling)
 言わずと知れたハリー・ポッターシリーズも抗議が多いことで知られています。今年も無事ランクイン! 抗議理由は「魔法や魔術への言及がある、呪いやその呪文を使っている、主人公が目的を達成するために不正な手段を用いている」など。オカルトや悪魔教的なものを連想される内容が、宗教的な観点から問題があるとされているようです。日本人にはピンときませんが、敬虔なクリスチャンやムスリムの方々には「これってどうなのよ」と思わせる内容があるということなのでしょう。

10) 『And Tango Makes Three(邦題:タンタンタンゴはパパふたり)』(by Peter Parnell and Justin Richardson illustrated by Henry Cole)

And Tango Makes Three

And Tango Makes Three

 ニューヨークの動物園の雄ペンギンカップルの実話がもとになった絵本。石の卵を温める二匹が切ない。初版の2005年以来、数々の絵本文学賞を受賞しもうすっかりこの分野の定番絵本になった印象です。主な抗議理由は「LGBTQIA+コンテンツ」。翻訳者さん、かわいいタイトルをつけましたね。



 以上、昨年2019年のベスト10でした。
 皆さん、ざっと見てお分かりと思いますが、LGBTQIA+関連の本ばかりです。
 LGBTQIA+・・・一応書いておくと、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、Queer(前述4つの総称)/Questioning(性的指向不明)、インターセックス(Intersex、両性具有)、アセクシュアル(Asexual、性的欲求無し)などなど性的少数者を短縮して表しています。
 この抗議本ランキングから、性的なあいまいさと伝統的な価値観、宗教的な価値観の葛藤が解決しがたい問題になっているのがよくわかります。アメリカって一部の人たちはものすごく進んでいて、大多数が依然として保守的なんですよね。
 私は今回このランキングを調べていて、ランクインした本が多数日本語に翻訳されていることにびっくりしました。これは日本が性的少数者に寛容で彼らの性的指向を尊重している国ということなのか、それともそういう書籍が少なくてアメリカから海外から輸入して翻訳するしかない国ということなのか・・・? 前者であってほしいです。
 
 私は世の中にはいろんな考えがあっていいと思うので、抗議する人の考えも性的少数者の方の考えも両方尊重する方法があるないいなと願っています。こういった本が図書館で禁書にならず、かつ読みたくも無いし子供に読ませたくもないという人の要望も通るようにするとなると、これはもう本の外に簡単に内容への注意を促すようにするしかないんじゃないかと思います。映画みたいにレイティングをつけるとか。映画は「PG」とか「PG13」とかレイティングされて、すべて理由が書かれていますよね。「卑語を含む」「喫煙シーン」「性的な表現」とか。なんとかそういう方法を編み出すしかないように思います。
 本でそういった方法をとるとなると、「検閲」になってしまうんでしょうか。本は自由であってほしいとはもちろん私も思うんですが、過去にレイナ・テルゲマイヤーのファンのお子さんのお誕生日プレゼントに出版されたばかりの『Drama』を内容を知らずにプレゼントしてしまったことがあり、後で実際に読んだ時「しまった、やらかした!」と青くなり、親御さんは怒っていなかっただろうか、お子さんはショックを受けていなかっただろうか、と心配になりました。
 家庭の数だけいろんな考え方や子供の育て方がありますから、やはりこの手の本は親が適切な時期に適切な形で我が子に与えたいですよね。「数々な性的な指向があり、様々な家族の形がある」、というのは段階を踏んで学ばないと誤った悪印象を子供に植え付けてしまう可能性もありますし。もし、本を買う時にコンテンツ・ワーニングみたいなものがあったら、私のような失敗も無くなるわけですし、多少抗議が多い本は分かるようにしておいてほしいなという気持ちもあります。

 大変難しい問題ですが、子供に正しくその辺のことを学ばせたい親御さんたちは、2)や10)あたりの美しい絵本を幼稚園くらいで与え、次にジャズさんの絵本や1)の『ジョージ』あたりを読ませ、そして中学生くらいで『Drama』のような漫画を自然と読むようになり、高校生で『カラフルなぼくら』・・・というような流れを作ることをおすすめします。 そして成人してからマーガレット・アトウッド?
 親が読んだことがあって内容を子供と話し合える状態にある、というのがとても大切なジャンルの本だと思うので、是非大人の皆さんもランクインした本を機会があったら手にとってみて下さい。どれも読む価値ありだと思います。 私の中学の美術の先生の言葉が頭をよぎります。「みんながみんな”良い”と評価する作品など大したことは無い、評価が分かれて議論を呼ぶ作品にこそ価値があるんだ」 どの本も、読後、様々な考えを引き起こされる本ばかりですよ!

追記(2020/5/17):本記事を読んで下さった方から、「日本でこういう本の翻訳が多い理由」に関して以下の情報をいただきました。リンクさせていただきます。
100pandanote.hatenablog.jp

参考記事:
Top 10 Most Challenged Books Lists | Advocacy, Legislation & Issues
Top 10 Most Challenged Books of 2019 - National Coalition Against Censorship

blog.the-x-chapters.info
blog.the-x-chapters.info

*1:性的少数者の総称