THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

お子さんに「S〇Xって何?」って聞かれたらあなたはどう答えますか? 21世紀の性教育本感が満載『Sex is a Funny Word』(Written by Cory Silverberg, Illustrated by Fiona Smyth)

 私の人生においてエポック・メイキングな瞬間があるとすれば、そのひとつは間違いなく、

「ほとんどの大人はみんなS〇Xというものをしている!!
親も、まじめそーな先生も、えらそうなおじさんも、コワいおばさんも!! どんな高貴な人も!! そーりだいじんも!!」

というのを知った時です!! それかい!とあきれられそうですが、私のように、「それ以来自分を取り巻く世界の見方ががらりと変わった」という人は多いはず。
 私の場合は、小6の時、そういうことを説明したがる友達に目からウロコをはがされた感じでした。もやもやとすっきりしなかった疑問が消え、そうだったのかと様々なことが腑に落ち、本や映画の理解のしかたが変わり、同時に大人は嘘つきでいろいろ隠してるんだなとますます大人に不信感が募ったものです。

 でも皆さん、真面目な話、性教育ってどう受けましたか? あるいはご自分のお子さんにどうやってるんですか?

 私は、周囲の大人に、私の体はかなりしばらく子供の体のままで変わらず、S〇Xというものは存在せず、「赤んぼうは結婚した男女が仲良くしていればだいたいできる」と教えられて育ちました。

 今思うとすごい問題あるような・・・。

 まず自分の体に急激な変化が起こった時は「血が止まらない、恐ろしい病気に違いない、私は死ぬんだ」と真剣に恐怖のどん底に落ちました。笑い話ごとじゃありません、本当に怖かった。血まみれの服でどうしていいのかわからず死に怯えていた時には、「学校の保健体育で習わなかったのか!!」と当時の保護者(親ではない人です)にまた怒られましたが、それもなんか違うような・・・? 料理なんかも「学校の家庭科でやれ」という感じだったので、私の保護者は教えるのに労力が要ることは学校にお任せという考えだったと思われます。大変ですもんね。

 それに、「赤ん坊のでき方」の部分も問題大ありですよ。「結婚」の部分は抜いて「男女が仲良くしていれば赤ん坊ができることがある」くらいだったら、まだいいと思うんですが。私は、お隣のお子さんがいらっしゃらないご夫婦を見るたび、「あの人たち仲良さそうにしているけれど違うんだ。だって赤ちゃんいないもん」と本当に真剣に思ったりしていました。「結婚さえしていなければ赤ちゃんはできない」と思ってどっかの男と「仲良く」してしまう可能性だってあったわけだし・・・。

 でも、不思議なことに保健体育でそのテの話を聞いた記憶はありません。集中力が無くて学校の授業ほとんど聞いていなかったのか? いきなり先生が慎重に言葉を選んでオブラートにくるんだように保健体育で教えてくれても、一体なにごとかときょとーんで、理解不能だったのか? まともな保健体育の授業が無かったのか? 今となっては疑問だらけです。

 こんな感じで私はちょっと特殊な子だったのでよくわからないんですけど、性に関する知識を保健体育の授業で主に学んだ、なんていう子はいるんでしょうか? みんなどこでどう学んでいるんだろう??

 私には、アメリカの公立校に通う子供がいますが(いつも話に出している発達障碍児ではないです)、小5の時に「間もなく保健体育の授業が行われます。その授業を受けさせますか?」という保護者の同意を求める紙が学校から来ました。同意書が必要なくらい凄い内容の授業なのかと心配になって、先生に毎年何割くらいの生徒がこの授業を受けるものなのかを聞いたところ、「ほぼ全員受ける。受けさせない親はほとんどいない」とのことでした。しかし、いろんなバックグラウンドを持つ子供が集まるアメリカの公立校では、性教育はそうやって家庭の同意無しに進めてはいけない、注意深く扱わなくちゃいけないものなのか、と妙に納得。

 しかし、そこでもどれほどのことを教えてくれているのかは不透明で、帰宅した我が子にどんな授業だったかを聞いたところ、「なんかおもしろくなかった~」だって・・・。私の子供の頃と同じでちゃんと聞いてない・・・? 生理用品が無料で配布されたとなぜか嬉しそうな我が子。モノがもらえればそれだけでハッピー。本質とずれてる。さずが私の子。

 そこで、「あなたの体にはこれからこんなことやあんなことが起きる!!」という思春期の体の変化に関する話を、日本語でちゃんと言っときたかったのでよーーーく話しました。彼女の反応は、以下でした。

「えええええーーー! 女は何十年も、毎月毎月そんな大変なことがまんしなくちゃいけないの!? なのにどうして料理とか掃除とか女がしなくちゃいけないのーーーーー!?」

 ↑↑↑かなりいろいろ問題ある回答ですよね? あんたは本当に21世紀のアメリカの小学生かと茫然としました。安心して下さい、料理と掃除のところは「間違っている」とちゃんと言ってきかせましたから。

 それに先日はまさに、今回紹介する本『Sex is a funny word』に載っていた漫画と同じようなことがありましたよ。

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「お父さんFu〇kって何?」「Who the Fu〇k taught her that!!」

 そうなんです、ずばり「Fu*kってなあに?」と我が子に聞かれました。私はさすがに「Who the Fu*k taught you that!」とは言いませんでしたが。私に訊くということは、知らないということか、とちょっと衝撃でした。もう中一なんですけど。
 いつも聞かれたことにはかなりの言葉を使って丁寧に答えるか、「私もわからないからGoogleで調べよう」と言う私が、ぐっと詰まって「・・・その言葉にはいろんな意味がある、前後の文脈がわからないと意味は説明できない」と歯切れの悪い返事をしたので、その後の追及がすごかったです。でも、なんて言ったらいいのか、準備ができておらずうまく答えられませんでした。

 親として「なんとなく学校やお友達から自分で学んでくれるだろう」と性に関する教育を人任せにするのはよくないと感じた出来事でした。びっくりするくらい、わかってないんです。

 とは言え、親子が性に関する話をする・・・・・・awkward(気まずい)、sensitive(微妙)という単語がこれ以上ぴったりくるトピックも無いですよね。スマートにやりきる自信の無い私は、きちんと説明がうまい人が教えてくれている本を渡すというのはどうだろうか、と思い、先日の当ブログ記事にもした「全米図書館で文句つけられた本ランキング」で知ったこの本を読んでみました。

 著者は性教育の専門家、コンサルタントのような肩書の方で、子供や親向けに「性に関する知識をどう教えるか」の講演会などをやっていらっしゃる方です。

 本の本体は、何もこんなにごっつくしなくてもいいじゃないというようなでかいハードカバー。もう少し気軽にぱらぱらめくれる大きさ・軽さにしたほうが、内容に合っている感じがします。本棚に置くにも目立ちすぎるし・・・。子供にさらっと渡したいのに。

 内容は、マンガと絵本と教科書が融合したような作りです。表紙からわかる通り、現実には存在しないような髪や肌の色をした8歳~10歳の4人の小学生が登場します。プロットらしいプロットは無く、この4人が日常生活で出会う様々な出来事や疑問が短いコミックで紹介され、それに対して著者が説明する文章がカラフルな絵とともに続いていきます。

 登場人物の四人の小学生たちは、肌の色や性別が読者によくわからないようにわざと設定されていますね。名前や好きなことや興味があること、年齢だけが紹介されています。そこに既に著者のメッセージを感じます。今どきだなあと。

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肌の色はいっそありえない色にしてしてしまったほうが色々と微妙な問題が避けられてラクなのかも

 ターゲットは、登場人物の年齢からわかる通り8歳~10歳。思ったより低かった。もうちょっと中学生くらいの子がS〇Xについて学べる本かなと思ったんですけどね。なんと驚くことにS〇Xの行為自体の話は全く出て来ません。
 それよりもなんというかこう、もっと思想的な部分を真剣に教えています。S〇xって不思議な言葉だよね、いろんな意味があるんだ・・・から始まって、性別とは何かという話があり、あなたの身体はあなたのもの、誰かの身体を尊重するとはどういうことかを真剣に考え、そして「Touch(触る)」ということに関して。
 自分でも自分のその部分はそんな近くで大きく観た事ないなあ・・・という部分の絵がかなり詳細に書かれ、解剖学の授業のように各構成パーツの名称が紹介されている箇所もありますが、「行為」に関しては「マスターベーションというものがあるんだよ」くらいにとどめられています。10歳くらいならここまででいい、それよりも自分や相手を大切にするという基本的な考え方が出来ているほうが大切、ということでしょうか。 とてもとてもまじめな本です。

 以下、印象深かったところをいくつか。


- ”あの部分”をなんと呼ぶか?

 男女ともにパンツ(下着の方です)の中の部分は、医者や人との会話では婉曲表現で「Private Parts」とよく呼ばれ、我が家の小学校中学年の子でもこの言葉を知っているくらいなのですが、この本では「その言い方は使わない」と宣言しています。

Some people use the term private parts to describe parts of the body that have to do with sex.
(性に関係する体の部位のことを「Private Parts」という言葉で述べる人もいます。)
Because any part of your body can be private, in this book we don't call them your private parts.
(あなたの体は、どの部分だってprivate=あなただけのものなのですから、この本では性に関する部位のことをprivate partsとは呼びません。)

We call them your middle parts, because they are in the middle part of your body.
(まんなか部分と呼びますね、だって体の真ん中の部分にあるんだから。)

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「Private Parts」ではなく「Middle Parts」と呼ぶよ!というページ
 そして、「そのまんなか部分はいつも隠して見せないようにするものだけど、だからって何か悪いものってわけじゃない、美しいものだし、つまるところ体の一部分というだけに過ぎないんだよ」という文章が続きます。
 自分の体は自分のものという認識を持とう、そして性に関する体の部分に関して話すことは恥ずかしいことじゃないんだ、という作者のメッセージが伝わります。

- 「男の子/女の子」区分はそんなに重要か?

「Do you know what you are having?」

↑↑これ、妊娠中によく聞かれた質問ですが、私まったく意味がわからず、「何を持っているのか知ってる?」って・・・今、手に何も持っていないし・・・と狼狽しつつ無言になり、「英語がわからないかわいそうなおバカさんなのね」という憐みの笑みと共に「Boy or girl?」と続けて言われていたものです。

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なんで男の子?女の子?って聞くの?

 赤ちゃん出産予定の人にする定番質問。しかし、そもそも赤ちゃんが男の子か女の子かがどうしてそんなに大事なのか?  どうして性別があるのか? 
 それは人体がその外見の特徴から大きく分けると二つのグループに分けられるから。でも、「内面の性別」というものはまた別の問題なんだ・・・と、いくつもの「性別」をとても丁寧に説明してくれています。結構なページが割かれているので、著者がここを知っておいてほしいポイントだと思っていることが伝わります。外見の「性別」に伴う役割や期待される行動に関しても、それよりも「自分がどうしたいか」をよく知ることだよ、と懇切丁寧に教えてくれます。
 この辺は、保守的な性教育だったらすっとばされる部分でしょう。図書館に抗議が寄せられた部分でもあります。保守州の図書館だったら禁書になりそうな内容。でも、この部分を読んで救われる子は少なくはないのではないでしょうか。

- 「秘密のタッチ(Secret Touch)」

 この本には、明確な章立ては無いとは言え、「Touch(触るということ)」には軽く一章が割かれている感じです。
 まずは、「他者を触る/他者に触られるということ」(握手やハグやキッスについて)、「自分自身を触るということ」(マスターベーションについて)、そして「秘密のタッチ」と続きます。

There is another kind of touching that is important to talk about. (話しておかなくてはいけない大事なタッチがもうひとつあります。)

It is different from all the other kinds of touching in this book. Some people call it secret touching.(この本のほかのどのタッチとも違うものです。秘密のタッチと呼ぶ人もいますね。)

It's called secret touching because no matter where someone touches you or where you touch them, they make you keep it a secret.(誰かが君に触ったのがどこであっても、あるいは触らせたのがどこであっても、その人が君にそのことを秘密にさせるから秘密のタッチと呼ぶのです。)

They want to keep it a secret because they know that what they are doing is wrong, and they don't want other people to find out. (その人が君にそのことを秘密にしておいてほしいのは、自分が悪いことをしていると分かっているからです。ほかの人に悪いことをしているのがばれてほしくないからなのです。)

 6ページに渡って、この「タッチ」に関して、子供を怖がらせたり罪悪感を抱かせたりすることなく説明しています。
 秘密のタッチをしたりさせたりする人は、君が信頼している人かもしれない。家族かもしれない。君は怖いかもしれないし、もしかしたら気持ちが良いと感じるかもしれない。でも、どんな場合でもその人がそのことを隠そうとしていたら、それは間違っていることなんだ。君は信頼できる大人を見つけてそのことを言わなくちゃいけないよ。・・・というような内容を何度も言葉を替えながら懸命に教えています。
 ここにこんなにページが割かれていることが結構衝撃でした。
 無抵抗な子供へのいわゆる「いたずら(Molesting)」の被害者は、私が認識しているきっとずっと多いのでしょう。まさか私の子が、と思ってこういうことを教えたこともなかったです。でも被害に遭われたお子さんの親御さんだってそう思っていたかもしれない。まさか私が、まさかうちの子が、うちはだいじょうぶ、って。
 悲しいことですが、子供がこの知識を持っておくべき世の中なのだと思います。


 以上、全般的に私が想像していた内容とまったく違う性教育本でしたが、大人の一方的な押し付け感が少なく、大多数の子供とは少し違う少数派の子の困惑をすくい上げようとしている誠実な本と感じました。
 しかし、そのものずばりが書かれていないので、お子さんからさらなる質問攻めにあう可能性大です。本自体のメッセージが「性の話題をするのはいいことだよ!みんなもっともっと疑問や自分の考えを家族と話そう!」なので、当然の結果ですね。
 お子さんと、性に関する話題をオープンにする準備が出来ている保護者や先生にはおすすめです。私はそういうことを話せる大人だよ、ということを子供にさりげなく伝えたい場合はこういう本は最適でしょう。
 しかし、この本、図書館に寄せられた抗議にも含まれていたそうですが、性に関してポジティブ過ぎて、ちょっと確かに「試してみたいな」という気にさせてしまう雰囲気もあるといえばあります。そこだけちょっと気になったと言えばなりました。

 そして、赤ちゃんはどうやってできるのかに関しては、これまたそのものずばりの「行為」の部分はうまいこと触れずに、同じ著者・イラストレーターのコンビが素晴らしい絵本を出していますよ。なんと、対象年齢4歳から。

What Makes a Baby (English Edition)

What Makes a Baby (English Edition)

 著者のコリー・シルヴァ―バーグさんが、Youtubeに登場して大サービスで全編大公開して朗読してくれています。(余談ですが、壁一面の本棚が気になります)
www.youtube.com
 目の不自由な方向けのナレーション入り。常に少数派を忘れない姿勢がここにも。この絵本中でも、精子や卵子はすべての体にあるわけではないということや、養子縁組についてなどにも触れられています。いろんな体があり、いろんな心からあり、いろんな家族がいる、それを知って欲しいという一貫した姿勢に尊敬の念を覚えました。

 『Sex is a Funny Word』も『What Makes a Baby』も両方、是非日本語に翻訳されて日本語も読めるようになってほしいです!!

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