THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

”覚える系”のお勉強をしている方は一読の価値あり 記憶術の達人によるやる気の出る暗記テクニック本『Unlimited Memory』(Kevin Horsley)

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『Unlimited Memory』表紙

 ドラえもんよ私に暗記パンを出してくれ! 
 誰か私に「睡眠学習」なるマシンを買ってくれ~! 
 楽して覚えたいんだよー! 

 こう心でため息をつきながらやみくもに丸暗記に励み、試験が終わったらあっという間に忘れていた虚しい学生時代。

 なんでどうしてこういう本を読まなかったんだ・・・。

 私のやるべきことは睡眠学習の広告を読むことではなかった! 虚しい努力を続ける前に、効率良く覚える方法や学習方法、集中力を高める方法などを先に少しでも模索するべきだったんじゃないか? ただただ時間をかけて頑張ったことに自己満足して勉強した気になってただけでは? 

 そんな後悔にギリギリと歯ぎしりしながら読みました。

 
 今では勉強しない怠惰な大人となり、覚えなくちゃいけないことは全部スマホ様頼り。「暗記しなくては」「覚えなくては」という場面も激減しました。そのせいなのかなんなのか、脳年齢は多分親よりも上です。

 本当に覚えられません。

 先日は、トランプの神経衰弱で小学生低学年にぼろ負け。憐みの視線といたわりの言葉で励まされました。屈辱です。

 あと私の英語力が十数年の米国生活を経ても日本で英語勉強している人よりもはるかに下回るのは、きっとこのひどい記憶力も原因のひとつでしょう。
 
 新しい単語、新しい表現、あと人の名前!! 人の名前なんて日本人でもキツイのに、英語の名前、特に名字とか無理。全部同じに思える。
 
「物覚え悪いんだよね。」
「もともと頭悪いんだよね。」
「もう、歳なんだよね。」

 そんなふうに思って「覚えること」を諦めている私のような人に、「その言い訳をやめて、私の記憶術をオープンな心で試したらどうだ?」と励ましているのが、『Unlimited Memory』の著者、ケヴィン・ホースリーさん。

 ケヴィン・ホースリーさんは、数々の国際的な記憶力コンテスト(円周率何百桁も言ったりするやつ)で優秀な戦歴を持つ方。いわば「記憶・暗記の専門家」。この本は、著者が2時間くらいのセミナーで教えるような内容が一冊になった短くわかりやすいレクチャー本になっています。

 著者の驚異的な記憶力は生まれつきの才能ではなく、なんと学生時代は学習障害に悩まされ、なんとか高校を卒業できたというレベルだったというから驚きです。そしてなんだかちょっと嬉しい。一気に親近感が。

When I was eight years old, a school psychologist said I might have a form of brain damage, and he wanted to send me to a special class.
(8歳の時、学校の心理学者は私には一種の脳障害があるかもしれないと言い、特殊学級に行かせたがった。)
I was a classic dyslexic: I wasn’t born with a good memory, I couldn’t concentrate, and reading and writing were always challenging for me.
(私は典型的な学習障害だったのだ。優れた記憶力に生まれついたのではなかった。集中できなかったし、読むのも書くのもいつだって困難だった。)
Throughout my school career, I learned by having my mother and friends read to me.
(学生生活の間中、母や友達に読んでもらって勉強した。)
(Snip) Even after 12 years of school, I couldn’t read much better than when I started out in first grade. To cut a long story short, I somehow managed to graduate from high school in 1989.
(中略)(12年間の学校生活の後ですら、1年生で読むことを始めた時よりそれほどよく読めるようにはなれなかった。手短に言うと、私はやっとのことで1989年に高校を卒業したのだ。)

 その遅れたスタートから、脳や記憶に関する本を読み漁り、現在の「記憶の達人」の地位までに至り、数多くの医学生、法学生、パイロット、ビジネスの管理職の人たちなどにありとあらゆる情報を記憶するのを助けて来たとのこと。

 まず著者が主張するのは、「集中しろ!」、当たり前です。

Multitasking is a myth!
(Snip) Multitasking is like putting your brain on drugs.
(マルチタスクなんて幻想だ!
—中略— マルチタスクは、脳をクスリ漬けにしているようなものだ。)

 すごい断定です。私、日々、マルチタスクだらけの生活を送っているんですが。

We are training our brains to have an attention deficit.
(我々は、自分の脳が注意欠陥障害になるように訓練しているんだ。)
Many people simply can no longer focus for an extended period of time.
(多くの人はもう長時間集中していることなんてできない。)
I have heard that the average person looks at their cell phone about 110 times a day.
(世間一般の人は一日平均で110回携帯電話を眺めていると聞いている。)

 ヒイィッ! 100回も見てるかなあ? でも無意識に常に頭のどこかに携帯電話があるように感じます。脳の一部が今やっている作業に集中していない、まさに著者の指摘通りです。

 一度に一つ、今やっていることだけ。

 これができた上で、では具体的にどのようなテクニックで覚えるか。

Unfortunately, photographic memory is a myth.
(残念だが、映像記憶は作り話だ。)

 映像記憶(フォトグラフィック・メモリー)を全否定されています。フィクションなどで出てくる、見た場面を一瞬にして記憶し長期間写真のように脳内に記憶しておける能力のことですね。
映像記憶 - Wikipedia
 よく、「あなたには映像記憶の能力があるんでしょう」と言われるそうですが、そんなものあるわけないだろと一蹴です。歴史上、その能力が無いと説明がつかない事例もあるので、人類のわずかな割合の人には存在する能力なのかもしれませんが、我々一般人には習得が不可能な能力なのでしょう。
 
 が、しかし、この方は完全なVisual Learnerで、前述の通り見たものをそのまま映像として覚える映像記憶は否定しながらも、この方の記憶術が基本的に「文字で読んだ抽象的な情報を映像として記憶するという方法のバリエーションになっているのが面白い。

Auditory memories are never as solid as visual memories.
(聴覚記憶は決して視覚記憶ほどには頼りにはならない。)

 つまり、記憶する映像を自分で創り出さなくてはいけないのです。

 一番簡単な具体例として、外国語の単語を習得時を例に挙げています。例えば、彼ら英語ネイティブスピーカーが日本語の単語「胸」と「戸」を覚えなくてはいけないとすると・・・

Some Japanese words: Chest is mune (moo-NEH).
(日本語をいくつか例に挙げよう。Chestは「むね」だ。)
Imagine money growing out of your chest.
(マネーがあなたの胸から生えてくるのを想像するんだ。)
Door is toa (doh-AH). Imagine you are kicking the door with your big toe.
(ドアは「戸」。ドアをトウでキックするのを想像するんだ。)

 ドアの音の表記は、「doh-AH」じゃなくて「toh」だろ、というつっこみは置いといて、「むね→マネー」「と→トウ」・・・・・・なんか・・・おやじギャグレベルっていうか・・・実にくだらないと思いませんか? この「バカですねー」「くだらね~」が大切らしく、絵としてバカバカしく奇抜なほどいいそうです。

 思えば私の学生時代、語呂合わせを考えるのがやたらうまい男に私の電話番号を「さよちゃんふたりいごなかま(34-2157)」という語呂合わせにしてもらったのですが、それがいつの間にか「さよちゃんふたりいごクラブ(34-2159)」に変わってクラス中に広まってしまって混乱を招いた、あれは聴覚記憶のみに頼っていたのが悪かったからだったのです。(※デジタルネイティブな若い読者のために念のため言っておきますが、私の学生時代の初期は携帯電話はお金持ち学生しか持てませんでした。そして私も含め友人皆むちゃくちゃ貧乏でした・・・)
 語呂合わせにしたのは悪くない、でももっとこう、インパクトのあるビジュアルが浮かぶ語呂合わせにして絵とともに頭に焼き付けないとダメだったわけです。「さよちゃんられていちごなげる」で、さよちゃんが自分をフッた男の顔面にいちご投げてるとか・・・? でも、さよちゃんって誰なんだよ一体。

 くだらない! しかし、元素の周期表の縦の二列目(Be/Mg/Ca/Sr/Ba/Ra)の覚え方でくだらないイラストとともに「Bedにもぐってのじょとスルのはばら色~」と書いてあった参考書が何十年経ってもそのエロさ・くだらなさゆえに忘れられないことからしても、私のような低俗な人間の脳にはぴったりの方法なのかもしれません。

 もちろん本ではこの後、この基本テクニックをどう発展させて、短期記憶を長期記憶(家の部屋の位置や、車のハンドルやブレーキの位置など絶対忘れない記憶)に関連付けるかや、一つ一つは簡単でもそれを関連させてすべて覚える方法(例:スーパーフード14種、コヴィーの「7つの習慣」など)、人の名前の覚え方、数字の覚え方のテクニックなど、もうちょっと高度なことを教えてくれています。

 こんなもんいちいちやってらんない、とも思えますが、続けていれば短時間でパッといい絵が浮かぶようになるとのこと。トレーニング無しには身に着かない方法ですね。やはり勉強に近道無し。それに、

Using these memory methods improves your creativity and enhances your memory—and it’ll boost your humor too.
(これらの方法を使うと創造性も向上するし記憶力も高まるし、そしてユーモアだって後押しされるだろう。)

 私は、ここ↑が気に入りました。なんか一応クリエイティブだし、なんとなく楽しいよなって。

 Kindleの書籍情報によると、ネイティブの平均読了時間は2時間を切るほど。(もちろん私はその何倍もかかりましたが。) 2時間の投資で勉強の仕方が変わるかもしれない、安い投資です。

 暗記術、記憶術系の本を何冊も研究した方にはある種「古典的」なテクニックが多い、とのレビューも見かけましたが、私のようにこの手の本をあまり読まずに来た方、覚える系の勉強に行き詰まっている方は、ご一読あれ。

 なんとなく私も、また勉強する気が湧いてきました!