THE X-CHAPTERS

米国から本の話題をお届け

インスタ発ベストセラー! 全米がやさしさに包まれた一冊で涙・・・のはずが私には判読すらできない『The Boy, the Mole, the Fox and the Horse(邦題:ぼく、モグラ、キツネ、馬)』(by Charlie Mackesy)

 2019年秋に刊行されて以来、売れまくっている本。

The Boy, The Mole, The Fox and The Horse

The Boy, The Mole, The Fox and The Horse

 アメリカの大手書店チェーン、バーンズ・アンド・ノーブル(B&N)のBook of the Yearにも選出され、年をまたいだ2020年6月現在もニューヨーク・タイムズの「アドバイス、ハウ・ツー等」のジャンルで第二位、米国アマゾンの「Literary Graphic Novel」なるジャンルで第一位。

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Amazon.com『The Boy, the Mole, the Fox and the Horse』のページより

 日本でも8月下旬に飛鳥新社さんから邦訳が出版予定のようです。

ぼく モグラ キツネ 馬

ぼく モグラ キツネ 馬

 作者は英国のイラストレーター。二年前、インスタグラムでこの本に出てくる少年ともぐらのイラストを掲載したところ、それがうけ、エリザベス・ギルバート(『Eat, Pray and Love(邦題:食べて、祈って、恋をして)』の作者)やジュリア・ロバーツといったセレブリティにフォローされるようになって大人気に。

 そして、「これはいける」と編集者から目をつけられ、本の体裁になるようプロットも加えて書籍化。2019年の秋に当初1万部の売り上げを目指して出版したそうですが、クリスマスのギフトシーズンにうまいことギフト本として売れ、年をまたいだ2020年6月現在で25万部突破のサプライズヒットになっています。

 一見すると児童書なのに、平積みしてあるのは一般書のコーナーという不思議な本。著者もイントロダクションで「8歳から80歳まで誰でも読める」と書いてある通り、確かに年齢を問わない内容にはなっています。そこは素晴らしい。

 あまりに騒がれているので図書館(やっと限定的に業務再開されました)で借りて読んでみましたが、うーん・・・・・・端的に言うと、「相田みつをからご教訓っぽいムードを薄めてポエムっぽくし、熊のプーさんのイラストレーターの下書きみたいな絵をつけた」、そんな本です。
 プロットらしいプロットも無く、どこからでも読めます。Facebookとかでたまに回ってくる格言が書いてある画像を集めたパンフレットみたい。ちょっと英語ができる人なら10-15分で立ち読みできる内容。私も立ち読みで済まそうかなと思ったんですけど、断念しました。

 だって、字が読めないんですよぉおおお!!

 まず表紙の著者名からして、

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『The Boy, The Mole, The Fox and The Horse』表紙より
「・・・Chalic Mackery・・・かな?」と思ったら「Charlie Mackesy」。中身も全篇に渡ってこの筆記体と通常の書き方がミックスされたレタリングが美しいカリグラフィーで綴られていて、はっきり言って文字の判読に労力が要ります。 読むというより「解読」です。

 いつも洋書が読めない読めない言っている私ですが、それは単語の意味がわからなかったり、表現や文章が理解できないという意味でした。文字そのものが読み取れないことがあるとは・・・!! 珍しいストレスをこの本で経験しました。

 これ、まじめな話、なんて書いてあるんですか?

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『The Boy, The Mole, The Fox and The Horse』前書きより
 The truth is I need ・・・ 何? このもやもやいらいら感!!

 この次のやつとか本当にわからない。誰か教えて下さい。

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『The Boy, The Mole, The Fox and The Horse』より。本当にわからない
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『The Boy, The Mole, The Fox and The Horse』より。Snare?

 一見すると雰囲気があって美しいんですけど、読者がこの本の世界に入るのを邪魔しているとも言えると思います。 前後の文脈やイラストから内容を推測しつつ読まなくてはならず、本が教えて下さる格言やなにやら深い教訓があまり心に浸みこみません。我ながら頭悪い感想だと思いますが。

 愛、友情、やさしさ・・・作者が送ってくるメッセージもあまりに直球過ぎて、「いやー、あのピッチャーほんとに直球しか投げないんだなあ」と半ば茫然と見送り三振してしまう感じです。
 
 でも、こういう本って批判的なこと書くのに勇気が要りますよね。
 だって、

"Nothing beats kindness", said the horse. "It sits quietly beyond all things."
(「どんなものも思いやりにはかなわない」、馬は言った。
「いつだってすべてのかなたで静かに動かずにいるんだ。」)

 こんなことばっかり書いてあるんですもの。意地の悪いこと書いたら、「お前この本のどこ読んでたんだよ」「お前のKindnessどこ行った」って総ツッコミ入りますよね。

 私だってこの本を好きになりたかった。自分がこの本を好きになれるやさしい人だったらなって思います。

 周りに助けを求める大切さを説いているところだけ心に響きました。
 ここは、PTSDに苦しむ帰還兵の回復のサポートをしている軍の関係者や、多方面のセラピストから「ポスターやパンフレットに使わせてほしい」という要望が多かったところのようです。

”Asking for help isn't giving up,” said he horse.
"It's refusing to give up."
(「助けを求めるってことは諦めることじゃない」、馬は言った。
「諦めるのを拒むことなんだ。」)

 やはりこういう言葉や絵は、商品としてパッケージ化されて売られて大うけしている状態では無く、ネットの海で時折偶然出会うような状況でこそ、はっと心を動かされるものなのかもしれません。

 本になって、ページをめくるごとにそういう言葉を連投されるとなんだか押しつけがましさが出てしまうような・・・。
 
 総じて、感動直球本のヒットにまたもや乗り切れなかった、自分のひねくれ具合を再確認した本でした。

参考記事:
How a surprise bestseller about kindness and vulnerability is bringing people together - Washington Post -
A boy, a mole, a fox and a horse: the recipe for a Christmas bestseller - The Guardian -

blog.the-x-chapters.info
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