THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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なぜか抗議活動のシンボルに祭り上げられた『Diary of Wimpy Kid (グレッグのダメ日記)』のマニー君。作者はちょっと可哀想

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『グレッグのダメ日記(Diary Of A Wimpy Kid)』の弟、マニー君

 昨日の夜、Wimpy Kidシリーズの作者ジェフ・キニーさんがTwitterで以下のようにつぶやいているのを見ました。

 Lots of people are asking me right now how I feel about my character being used as an anti-police symbol. Honestly, I don't like it. The Black Lives Matter movement needs to be taken seriously.
 最近、私の本のキャラクターが反警察のシンボルにされていることをどのように感じているか多くの人にたずねられる。正直言うと、良く思っていない。ブラック・ライブズ・マターのムーブメントは真剣にとらえられるべきだ。
(Twitterより、現在は削除)

 宣伝のツイートか、どちらかというと脱力した感じの面白いツイートしかしない作品の雰囲気を裏切らないいつものジェフ・キニーらしからぬつぶやき。大丈夫かなとふと心配になりましたが、返信欄が荒れて上記コメントは削除されましたね。

 このTwitterを見ても一体彼が何を不快に思っているかすらわからなかった私はやはりおばさん世代・・・。 

 調べてみたら、これは、アメリカのいわゆるZoomers(Generation Z、90年代後半から2000年代初期生まれの現在ティーンネイジャーや20代前半の世代のこと)の間で今、流行ってることだそうで。

 ジェフ・キニーの代名詞にしてアメリカの子供なら皆知っているシリーズ『Diary Of A Wimpy Kid』。その主人公グレッグakaウィンピー・キッドの弟マニーが、Zoomersの間で現在の抗議活動、特に警察への抗議活動のシンボルにされているらしいのです。

 なんでまたマニー? マニーがらみでなんか抗議活動のムーブメントに関係するエピソードなんて作品内にあったっけ? と、誰もが不思議に思うと思うのですが、どうしてこうなったのかに関する記事をいくつ読んでも釈然としません。

 誰かがTiktokでマニーの絵を街のどこかにスプレーペイントしている動画を投稿したのが始まりで、それが転じて「マニーを街で見かけたら、反警察の陳情書に署名しよう!」となり、今ではマニーはすっかり反警察のシンボルに。
 あちこちにスプレーで落書きされるマニー君の絵には「ACAB(All Cops Are Bastardsの意)」「BLM(Black Lives Matter)」の文字、あるいはこの流行りと同時発生した「The Manny wont be televised」という文句が書かれるようになったとのこと。

 SNSであっという間に盛り上がってこうなったそうですが・・・。

 このすさまじい内輪感・・・!!!

 「SNSやりまくってる俺たち/私たちにしかわからないでしょ感」とでもいいましょうか。
 主人公のグレッグじゃなくてあえてマニーを持ってきたところにあざとさを感じます。グレッグなら親世代とか自分たち以外の世代も一目でわかるけど、マニーは知ってる人だけ知ってる、みたいな感じ。マニーは落書きしやすいから選ばれたんだろう、と分析している記事もあったけど違うと思う。あえて、それほど知名度無くてムーブメントにまったく関係無いキャラを持ってきて、「The Manny wont be televised」という符丁のようなスローガンで盛り上がる。
※一応解説すると、「The Revolution Will Not Be Televised(革命はテレビではやってない)」という過去の真面目な有名曲/詩を文字っています。Manny=Revolustionみたいな感じでしょうか。

 私のような大人たちやSNSで自分たちの輪の外にいる人たちが、きょとんとなるのを面白がって内輪で盛り上がってる感を感じます。半分、面白がっていますよね。
 ジェフ・キニーはそういうのがイヤだったんじゃないかなあと。この記事の冒頭で紹介したツイートの後には、「マニーの絵を見たら警察への抗議に参加しようっていう良い意図で使ってるんだからいいじゃないの、何が気に入らないの?」というコメントがつき、彼は丁寧に

「あなたの考えをきちんと書いてくれてありがとう。私は抗議行動のムーブメントに反対しているのではありません。マンガのキャラを使うことで問題を小さく見せてしまっている(trivialize)ことを危惧しているのです」

と回答していましたが、そのコメント以外はスパムのように「The Manny wont be televised」が連投されているだけ。お前の言うことなんて知らねーよ、という冷たく乱暴な反応に思えました。

 ウィンピーキッドシリーズの日本での知名度がいかほどのものかは私にはよくわからないのですが、2007年に第一作目が出てから、とにかくアメリカでは確かにZoomers世代以下で知らない人はいないというくらい人気があります。

 ウィンピーキッドに関しては、それだけで記事をいくつも書けるくらい、私も全巻揃えていて大好き。好みは分かれるとは思いますが、偉大なシリーズでトム・ソーヤ―みたいにこれからも残ると思うのです。ウィンピーキッドはある種児童文学のゲームチェンジャーと言ってもいい。ジェフ・キニーの才能も大尊敬しています。

 なので、今回のことは正直ちょっと残念に思います。

 作品の内容からしても作者の普段の言動からしても、やはりウィンピー・キッドのシリーズは、政治的なムーブメントとは離れていてほしかったと思うのです。 ムーブメントが悪いんじゃない、Zoomersたちが本当に一生懸命そのムーブメントを盛り上げようとしているならそれも素晴らしい、でもウィンピー・キッドを使うのは違うだろ、と思うんです。完全に作者・作品無視でキャラが独り歩きしちゃっているのが、やはりファンとしてはさみしい。

 今盛り上がっているムーブメントの正当性は間違いない。でも・・・ウィンピー・キッドシリーズにはこれまでの作品の世界そのまま、ダメダメ少年のくだらない日常をだらだらやってるだけのものであってほしい。反警察とか反人種間不平等とかの対極にあるようなやる気の無い彼の日々がつらつらどこまでも続く、それだけでいい。

 シリーズの一読者でもこんなふうに思うんだから、作者の歯がゆさはすごいだろうなと思います。 ジェフ・キニーにはこれからも頑張って欲しいので、今回の彼の意思表示を勝手に盛り上がってる若い人たちにも汲んでもらえることを願っています。


グレッグのダメ日記

グレッグのダメ日記

 
 ↑日本語版。私が英語版から感じるノリとはちょこっと違う感じもします。こんなかわいい感じじゃない。一人称は「ボク」じゃない。もっと乾いてて毒がある感じ。こう感じるのは私だけ?
 英語版は、内容にしては英語がそれほど簡単じゃないです。
Diary Of A Wimpy Kid (Book 1)

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  • 作者:Kinney, Jeff
  • 発売日: 2008/07/03
  • メディア: ペーパーバック
 映画にもなっていますが、映画は・・・うーん。ただし、私はいつも映画より本のほうがいいと感じる人間です・・・。
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