THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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2020年ピューリッツァー賞受賞! "Black Lives DON'T matter"時代のフロリダの少年院で、自由を夢見た黒人少年たちの物語『The Nickel Boys』(by Colson Whitehead)

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 2019年7月刊行のコルソン・ホワイトヘッドの9作目の本。


 2016年の『Underground Railroad(日本語題:地下鉄道)』で、ピューリッツァー賞や全米図書賞など著名な文学賞をとりまくったコルソン・ホワイトヘッドですが、今作でなんと人生二度目のピューリッツァー賞フィクション部門を受賞。100年を越える賞の歴史の中で、フィクション部門の複数回の受賞は彼が四人目(ほかの3人はフォークナー、アップダイク、ブース・ターキントン)、黒人作家としては初。まだ50歳になったばかりの方なので、頑張ればもう1,2回とれちゃうかも?

 『Underground Railroad(日本語題:地下鉄道)』のほうは邦訳が出ていますが、この『The Nickel Boys』のほうは日本語版出版情報が見つけられませんでした。今回の受賞で、日本語版も出版される方向に向かうといいのですが。

地下鉄道

地下鉄道

 作品は、史実を基にしたフィクション、ヒストリカル・フィクションのジャンルに入ると思います。

 現在のフロリダで、かつての少年更生施設の跡地から大量の死体が埋められているのが発見される。これらは誰の死体なのか? ここは問題を起こした少年たちの更生と社会復帰の訓練を行う「学校」だったはずでは?
 
 こんなつかみから、物語は一気に1960年代のフロリダへとさかのぼります。

 奴隷制は廃止されたものの、まだ有色人種が白人が利用する施設や学校などから完全に分けられていた時代。なんにでも「有色人種はここ」とか「有色人種はダメ」とかそういう決まりがあった、それがたった60年前のアメリカ南部・・・。 

 つまり、現在60代~70代以上の方々は、「黒人が同じ水飲み場を使うなんて! あの人たちが同じトイレ使うなんて! ありえないわー」、そんな感覚を当たり前のように生きていた頃が人生の最初のほうにあったということで・・・。現在のアメリカで差別が根強いのも仕方ないという気持ちになります。むしろ、60年も経たないうち黒人大統領を誕生させたアメリカのダイナミズムはすごいとすら感じる。そんな変化が急激すぎたのが、現在揺り戻しが起こって不思議な政権が生まれていますが・・・。

 小説のタイトルになっている「The Nickel」は、フロリダの少年更生施設のような学校のことで、「Dozier School」という100年以上もフロリダで実際に運営されていた実在した悪名高い少年更生学校の歴史とスキャンダル(冒頭の死体ゴロゴロ・・・も実話)に基づいているそう。

 悪いタイミングで運悪く盗難車に乗ったしまったことで、そんな施設に送られてしまった高校卒業間近の黒人少年エルウッド。そこでも白人と黒人はもちろん分けられます。最悪の中の最悪、監獄の中の監獄。
 エルウッド君は、祖母に女手ひとつで大切に育てられ、まじめで勤勉で頭も良く、地元でも皆に愛されていた少年なのですが、キング牧師の演説が録音されたレコードを繰り返し聴いて心酔したり、ちょっと純粋でまっすぐ過ぎて劣悪な環境で生き抜いていく狡猾さやたくましさが足りない。そんな彼の足りないところを補うかのような盟友になるのが、ターナーという少年なわけです。

 小説の序盤から死と暴力の匂いがぷんぷん漂い、期待を裏切られないおぞましい世界が繰り広げられます。エルウッドとターナーが友情をはぐくむあたりから、読者は「あー、この友情は死で終わって涙、涙なわけね、ターナーは死んじゃうのね~はいはい」と、主人公たちが「どうなるのか」に関してはだいたい先が読める展開になっている・・・・・・と思っていたのに!
 
 コルソン・ホワイトヘッドさんよ! あんた、そんな物知り顔で読んでいる私のような読者の心をもてあそんだね!!

 くっそー!覚えてろ! 必ず・・・必ず・・・もう一冊あんたのほかの本も読んでやるー!!!

 アメリカの歴史の暗部を扱った陰鬱な内容でありながら、先へ先へと読ませる力のある小説で、少年たちの悲しみがエンターテイメントや芸術の域に高められていると感じました。
 全体的にコンパクト(ネイティブリーダーの平均読了時間は3時間半)なのに、「黒人は昔はすごく大変だったんですよー」「ふーんそうなんだー」で終わらない、忘れがたい余韻が強く残ります。クライマックス~エピローグ~完の流れで一気にぐっと掴む締め方はさすが。小さな頃のエルウッドの姿がよみがえってくるようなラストシーンも好きです。

 構成と省略の妙にもうなりました。ダラダラした長文ブログしか書けない誰かさんのために、作者は爪の垢をとっておいてほしい! 売って!煎じて飲んでみるよ・・・

 他の読者によるレビューをチェックしてみましたが、「いい小説だけど『地下鉄道』には劣るね」というレビューを結構見かけました。『地下鉄道』・・・そんなにいいのか。読まないと。こうして読みたい本が増えていく・・・。
 
英語メモ:

kick the bucket〈俗〉死ぬ ※首つり自殺をするときにバケツ(bucket)の上に乗り、首をロープにかけてからバケツを蹴っ飛ばすから。

on the lam〔脱獄囚などが〕逃走中で

sweatbox 〈俗〉〔汗をかくような狭い〕部屋、取調室、独房

spike someone'’s drink〔他人の飲み物など〕にこっそり別の物を混ぜる◆【用法】spike + 飲み物 + with + 薬物・毒物など

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