THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

Netflixのドラマで再評価、FBIの犯罪プロファイリングの先駆者による回顧録にして70-80年代の米国凶悪犯罪のクロニクル『Mindhunter(日本語題:マインドハンター FBI連続殺人プロファイリング班)』(by John E. Douglas, Mark Olshaker)

To understand the “artist,” you must study his “art.”
(「芸術家」を理解したいなら、その芸術家の「芸術」を理解しなくてはならない。)

(-snip-)There is no substitute for experience, and if you want to understand the criminal mind, you must go directly to the source and learn to decipher what he tells you.
(ー中略ー 経験に替わるものは無く、犯罪者の思考を理解したいなら、直接情報源にあたりそれが何を語るかを解読しなくてはならない。)

And, above all: Why + How = Who.
(そして、何よりもこれだ。「なぜ+どうやって=だれがやったか」)

 FBIのレジェンド捜査官ジョン・ダグラスによる、FBI入局までの人生と25年に渡るFBIでのキャリアを振り返った著作。主にプロファイリングを犯罪捜査の一手法として確立させた功績が綴られています。
 初版は20年近く前のはずですが、2017年にデヴィッド・フィンチャー製作総指揮でNetflixでドラマ化され(2019年にはシーズン2も公開)、一気に原作本である本書も再び大人気になり、図書館でも長い順番待ちに。

Mindhunter: Inside the FBI's Elite Serial Crime Unit

Mindhunter: Inside the FBI's Elite Serial Crime Unit

 日本語版も出ています。 ドラマの予告編はこちら。
www.youtube.com

  Netflixでドラマ化されたノンフィクションを読むのは『False Report』に続いて二冊目ですが、どちらも下手なミステリ小説を読むよりずっと面白いですね。事実は小説より奇なり、を実感しました。
 
 この本のタイトルやマーケティングのやり方がまずかったせいで、「犯罪プロファイリングに関する本」に分類されやすく、それもあながち間違いではないのですが、基本的に、著者ジョン・ダグラスに関する本です。 それをはっきり打ち出していないので、最初の3章くらいまでを読んで「ん?これ何の本だっけ?」と混乱し頭に来る人が多いんだと思います。あと全編に渡って、自分のキャリアがいかに素晴らしいか、偉大な功績を残したかを強調しているので、そこに辟易してしまう方も多いかもしれません。
 でも、仕方ないんですよ、これは著者の「退職記念本」なんだから! 退職したおじさんのそんな「私はすごかったんだぞ!フハハハハ!」というお話には、「はいはい」と寛大にうなずいて聞いてあげましょう。そうすると、世界で最も精神的に過酷な仕事を実際にやり続けた人だけが語ることができる話の重さ面白さに打たれ、途中から読むのがやめられなくなると思います。

しかし、これから読む方にこの点ははっきりさせておきましょう。

 繊細な方には読めない内容です・・・。

 私は、ホラー映画やスプラッタ映画などをおやつ食べながら、
「最初の犠牲者はコイツだな!首ちょんぱかな?ああ~これはちょっとさすがに血しぶき上がり過ぎ!!」
などと言いつつ観られる人間ですが、現実に起こった事件の記録となると途端に被害者の恐怖や被害者の家族の無念を想像して、具合が悪くなってしまいます。本書では猟奇描写はかなり控えめに書いてありますが、人によっては夜眠れなくなる内容だと思いました。少なくとも、お子さんを外で自分のいないところでぷらぷら遊ばせる気持ちが失せることは確か。

 一体どこの人間が人間にこんなむごいことをできるのか。

 そんなまだ見ぬ犯人の人種、年齢(これが一番難しいそうです)、乗っている車の車種、職業、知能レベル、軍隊経験、ルックス、住環境、犯行後の変化などを推測して捜査の方向を絞る助けをするのがプロファイリングです。これにより捜査する側は、あまたの容疑者の中から「コイツではないか?」と目星をつけやすくなります。

 日本では、ロバート・レスラーが元FBIのプロファイラーとしてこの著者のように著作を出版したり、テレビに出たり「元祖プロファイラー」として有名ですよね。本書の著者はレスラーと共に仕事をし、研究のために収監されている有名凶悪犯たちに共に面会したりした人です。レスラーもよく登場するのですが、もしかして彼とは少し対立気味だったのかなという感じの記述も見られました。

 著者のキャリアの最初の方では、犯罪プロファイリングは怪しげな超能力者や黒魔術といっしょくたにされ、軽視されていたようです。しかし、その的中率の高さから犯罪捜査の有効な手法として、捜査現場で必要とされるようになり浸透していく過程が、著者が関わった様々な事件を例に挙げながら説明されています。キャリアの後半は、全米各地の警察からプロファイリングの依頼を受け、100件以上の事件を抱えながら全国を飛び回るまでに。

 プロファイリングがいかにすごいか、犯人逮捕後いかにプロファイラーの予想通りだったか、米国の70-80年代の凶悪犯罪を振り返りつつ、プロファイリングの有効性を強調する内容が続きます。リアルタイムで知っている事件が少なく、Wikipediaなどで調べながら読んだせいで、かなりその時期の連続猟奇殺人事件に詳しくなったけど・・・詳しくなってどうするんだっていう・・・。

 それにしても、プロファイリングの成功例しか載っていないことが少し気になりました。的中したプロファイルの陰で、大きくはずれたケースがたくさんあったかもしれないですよね? そのケースから学べるものも多いのですはないかと思うので、そこも網羅してほしかった。
 的中はしたものの、犯人特定にはそれほど役立たなかったという例は多少掲載され、その場合は著者が言うところの「先回り戦術(proactive approach)」で犯人と心理戦を繰り広げたり、尋問の際に犯人に心理的なプレッシャーを与えたりするテクニックも紹介されています。ちょっと警察の手の内を明かし過ぎな気が。大丈夫かしら。

 とにかく、どの事例も著者がヒーロー。批判ではなく、私はここに非常に著者の人間くさい「何か」、犯罪者と正義の何か紙一重な感じを見て興味を惹かれました。

 著者のキャリアははっきり言って、ギャンブルとハンティングという男性がはまる要素を満たしたものなのです。プロファイリングは、ハイリスク・ハイリターンのギャンブルのようなものだし、犯人逮捕がハンティングの側面を持つのは言うまでもありません。両方ともやってる間はアドレナリンがドバドバ、終わってうまく行ったらドーパミンがドバドバ、って感じがします。
 そして、各地の警察から「あなたはすごい」と感謝され、被害者の無念をいくぶんか晴らすこともできる。
 来る日も来る日も凄惨な犯行現場や被害者の遺体の写真を精査し、現場捜査官からおぞましい犯罪の一部始終を聞き続けるという嫌な仕事ではあるものの、ある人にとっては一度はまったらやめられない要素があるのだと感じました。

To be a good profiler, you have to be able to evaluate a wide range of evidence and data. But you also have to be able to walk in the shoes of both the offender and the victim.
(良いプロファイラーであるためには、広範囲の証拠とデータを評価できなくてはならない。しかし、加害者と犠牲者の両方の立場を理解できることも必要だ。)

You have to be able to re-create the crime scene in your head.
You need to know as much as you can about the victim so that you can imagine how she might have reacted.
(犯行の場面を自分の頭の中で再現できなくてならない。犠牲者がどのように反応しえたのかを想像するため、できるだけ犠牲者のことを知らなくてはならない。)

You have to be able to put yourself in her place as the attacker threatens her with a gun or a knife, a rock, his fists, or whatever. You have to be able to feel her fear as he approaches her.
(攻撃者が銃やナイフや岩や自身のパンチか何かで犠牲者を脅した際の犠牲者の立場に自分を置かなくてはならない。彼が犠牲者に接近する際の彼女の恐怖を感じることができなければならない。)

You have to be able to feel her pain as he rapes her or beats her or cuts her.
You have to try to imagine what she was going through when he tortured her for his sexual gratification.
(犯人が犠牲者をレイプし痛めつけ切り裂いた時の犠牲者の苦しみを感じられなければいけない。犯人が犠牲者を性的満足のために拷問したときに犠牲者が体験したことを想像しようと努力しなくてならない。)

You have to understand what it’s like to scream in terror and agony, realizing that it won’t help, that it won’t get him to stop.
(恐怖と苦しみで悲鳴をあげるのがどのような感じか、それでもどうにもならず犯人を止めることなどできないと知るのがどんな感じか、それを理解しなくてはならない。)

You have to know what it was like. And that is a heavy burden to have to carry, especially when the victim is a child or elderly.
(すべてがどのようだったのかを知らないとならないのだ。それは背負わなくてはならない大きな重荷だ。特に、犠牲者が子供や老人の時がそうだ。)

 こんな仕事をハイペースで長期間続けていたらどうなるか。

 予想通り著者の結婚生活は破綻します。奥さんや子供が住んでいる世界、つまり普通の人がいる世界の出来事が次第に刺激の無い退屈なものに感じてくる。凄惨な犯罪を扱うことにある種の免疫ができてくる一方で、本書の冒頭のおぞましい場面に行きつきます。
 自分が過去に追いつめた犯罪者に拷問され、壮絶な苦しみから「私はまだ生きているのか、お願いだから早く殺してくれ」と犯罪者に懇願している・・・・・・という妄想にとりつかれてぶっ倒れて死にかける、つまりストレスで正常な精神状態じゃなくなってしまうまでに至ってしまったのです。

 『False Report』でも、証拠として押収された犯罪者のハードディスクの中身を見なくちゃいけない警察の技官の苦しみに言及している箇所がありました。子供たちがひどい目にあっている映像や画像を見たあとで帰宅し、自分の子供の顔を見る辛さ。つくづく犯罪捜査は真剣なストレスマネジメントが無かったら、身も心も破壊されうる職業というのがわかります。

 凶悪犯罪を犯した犯罪者の刑罰や更生に関する著者の意見がはっきりしているのも、大変興味深かったです。これもまた、長年身も心も凶悪犯罪者になりきって彼らの行動を理解するという仕事をしたせいでしょうか。猟奇的な連続殺人事件の犯人たちに対して著者は厳しくはっきりとこう言い切っています。

As far as I’m concerned, based on my research and experience, there is no possibility of rehabilitating this type of individual.
(私の研究と経験に基づく考えでは、こうした人間が更生する可能性は無い。)
If he is ever let out, he will kill again.
(外に出したら、また殺すだろう。)

 そして、法廷や刑務所で精神鑑定を担当する精神科医たちのことを「彼らは鑑定する対象者がどれだけ危険かわかっていない」と一刀両断。
 犯罪者は社会の犠牲者で適切な環境やセラピーで更生できるという、ある意味理想主義を大学で叩き込まれている精神科医が多く、情にもろい精神科医はいとも簡単に仮釈放を認めがちだそうです。アメリカ人特有のポジティブ思考も精神科医が犯罪者の更生を信じる要因のひとつと著者は考えているようです。

It’s an American attribute to think that things are always getting better, that they can always be improved upon, that we can accomplish anything we set out to do.
(いつだって物事は良くなる、良くできるし、目指したことは達成できる、そう考えるのはアメリカ人の特性だ。)

 刑務所で模範囚だったから、精神科医との面接で更生したように見えたから、と仮釈放された殺人犯たちがどうなったか。著者はその悲惨な顛末を本の中で明らかにしています。

 著者によると、凶悪犯罪の多くが「性欲による犯罪」のように見えて本質は「怒りの犯罪」であり、去勢などで犯罪者が更生させようとしても、それは結局もっと怒りを抱えた危険な人間を生み出すだけで解決にならないとのこと。
 そして、凶悪犯罪を犯した者の危険さは状況的なもの(situational)なので、更生施設や医療施設などのコントロールされた環境でいくら危険が無い人間にように見えても、それは状況がそうさせているだけで本質的な危険さは変わらないとも書いていました。つまり、外の世界でなんらかの状況になったら凶悪犯罪を再び犯してしまうというわけです。

 鑑定する側の精神科医が、犯罪者の犯した過去の犯罪を自分たちほど真剣に知ろうとしないことを嘆く一節もありました。彼らの犯したおぞましい犯罪から目をそらしたままで、なぜ彼らを理解できたと思うのか、と。一貫して彼らの犯罪の内容を熟知する重要さを主張しています。

But as I always tell my classes, if you want to understand Picasso, you have to study his art. If you want to understand the criminal personality, you have to study his crime.
(私が授業で常に話していることだが、ピカソを理解したいなら彼の芸術を研究しなくてはならない。犯罪者の人格を理解したいなら、その犯罪者の犯罪を研究しなくてはならない。)

 「精神的な病気だったからやむにやまれず犯罪に走った」というよくある弁護側の主張やそれをサポートする精神鑑定などに対しても、著者が捜査に関わった犯罪の多くは「制服を着た警官が目の前にいたら、彼らはやらなかったはずで、それは精神病質者の犯罪とは違う」と厳しく断罪しています。

 極刑に関しても、私はインターネットの匿名コメント以外で、これほどはっきりと実名で死刑に賛成している人を著者以外にあまり知りません。
 アメリカは州によって死刑があったりなかったりで一貫性が無く、死刑を残している州も人道的な理由で反対が多かったり、薬物注射による執行のための薬品を製薬会社が販売してくれなかったりと、死刑の執行がなかなか行われなくなってきている状況です。全体的に「やらない」という方向に向かっている中、こういうはっきりとした「賛成」に少し驚きました。

And for those who argue that such a long stay on death row constitutes cruel and unusual punishment, I might agree with them up to a point.
(死刑囚用の官房で長期間生かしておくなんて残虐で他では行われていない刑罰だ、と異議を唱える人たちに私はある意味賛成だ。)

Delaying imposition of the ultimate penalty is cruel and unusual—to the Smith and Helmick families, the many who knew and loved these two girls, and all the rest of us who want to see justice done.
(極刑の執行を遅らせることは残虐だし普通ではない—スミス家やヘルミック家(のような被害者家族)にとって。(被害者の)二人の少女を愛し知っていた多くの人々、そして正義が行われることを望んでいる我々のような人間にとっては。)

 「いつ死刑が執行されるかわからない恐怖の中で毎日毎日生かしておくなんて残酷だって? ほんとに残酷な思いをしているのは残された被害者家族だろ! さっさとやれ!!」
という主張です。賛否は置いといて、長期間加害者と被害者の両方を知ってきた捜査官の重い言葉です。
 ちなみに、上記のスミス家とヘルミック家のお嬢さんたちの事件は結構なページ数が割かれていて、かなり心がつぶれそうになる内容でした。特に、犠牲者の一人である17歳の女の子が死を覚悟して書いた家族への手紙が忘れられません。全文掲載されています。強くやさしく勇気のある女の子だったのだろうなあと思うと涙が出ます。彼女のあの手紙を思い出すと、著者の犯人への怒り、憎しみもよくわかります。

 このほかにも、いまだ意見が分かれる「犯罪者は生まれるのか、それとも作られるのか?(Born or made?)」という疑問に関しても、長年犯罪者とその生い立ちを研究してきた捜査官として、著者なりの考察が述べられています。

 とにかく、おじさんの自慢話部分に目をつぶると、かなり貴重な犯罪実録本、犯罪心理学本でした。類著にも手を出してしまいそう。

 それにしても、アメリカはどうしてこんなに凶悪連続殺人事件が多いんでしょうか。
 この手の事件って数でも残酷さでもアメリカがダントツな感じがします。犯人の人種が白人男性に偏っているのも気になります。国土の広さがそうさせるのか?人口の多さ? 銃社会(でも犯行にあまり銃は使われていない)のせい? それとも車社会のせい? ハンバーガーの食べ過ぎ? ドクターペッパーとか、ああいうやつのせいか? 宗教? 教育? 考えれば考えるほどわかりません。

英語メモ:

bleeding heart〈話・軽蔑的〉〔弱者に対して〕同情し過ぎる人、情に流され過ぎる人

stakeout〔警察の〕張り込み

basket case〈米俗〉無力な人[もの]、ノイローゼの人 The girl was turning into a basket case.(その子はノイローゼ気味になってしまった。)

blow hot and cold〈話〉〔人が考え・気持ち・意見・計画などを〕コロコロ変える Wayne’s personality blew hot and cold, and the temper she perceived just beneath the surface scared her.(ウェインの性格はころころと変わり、表面下では怒りがあるのがわかり彼女は怖かった。)

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