THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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NYタイムスマガジン掲載の小川洋子さんのエッセイ、原爆の記憶をつなぐ文学の紹介と美しい文章に涙・・・でも読者のコメントが・・・

 『博士の愛した数式』などで知られる作家小川洋子さんのエッセイが2020年8月6日付でニューヨークタイムズ・マガジンに掲載されました。

 「How We Retain the Memory of Japan’s Atomic Bombings: Books(日本の原爆の記憶をどうやってとどめておくか:本)」という、小川さんが日本語で書いたものを英訳したエッセイです。

 「たとえ原爆を実際に経験した人が一人もいなくなっても、優れた文学作品が言葉も残せず亡くなっていった名も無い人々の声を運んでくれる。それに耳を傾けよう」という内容。

 紹介されている本は、
『これが人間か』(プリーモ・レーヴィ)、
『ふたりのイーダ』(松谷みよ子)、
『黒い雨』(井伏鱒二)、
『ヒロシマ・ノート』(大江健三郎)、
『夏の花』(原民喜)、
写真集『Hiroshima Collection』(撮影土田ヒロミ)

など。

 英語でも原文の日本語でも読めます。

日本語はこちら↓
www.nytimes.com

英語版↓
How Japanese Literature Tells the Story of Hiroshima and Nagasaki - The New York Times

 レーヴィの『これが人間か』と原民喜の『コレガ人間ナノデス』という詩がつながっていき、大豆飯を楽しみに出かけていって帰らなかった少年の弁当箱の写真へと言及するエッセイの終盤に涙が出ました。
 
 不謹慎ですが・・・
 本を紹介する駄文をブログに書き続けている者として、一流の作家が本に関するエッセイを書くとこんなにも違うのね・・・という自分の文章力の乏しさへの嘆きの涙も流れました・・・。

 だが、しかし!
 
 そういった涙がすっこんだのがこの記事の掲載サイトに読者が寄せたコメントです。

 小川さんのエッセイを読んだ読者が、思い思いに自分の「おすすめの原爆投下に関する作品」を挙げて小川さんのエッセイを補っています。それは素晴らしいのですが・・・エッセイへの批判、日本への批判も書かれています・・・。

 英語でいうところの、まさに「thought-provoking(いろいろ考えさせられる、思考力を大いに刺激される)」な内容でした。

 上記でリンクしたエッセイの日本語版のほうでは、それらのコメントは表示すらされないので、英語版からざっくりと訳してご紹介します。

  • 1957年の『Nine Who Survived Hiroshima and Nagasaki』(by Robert Trumbull )も忘れがたい報告だ。彼の調査によると、広島・長崎の原爆を両方とも生き延びた人が18人いるそうで、その中の8人にインタビューしている。普通の人生を生きていた普通の人々の話の簡素さに、原爆投下が世界にもたらした途方も無い影響が垣間見える。
  • 高校生に戦争のせいでどうなったかに関する本を読むことを義務付けるべきだ。(中略) あなた(※小川洋子のこと)は、強さと耐え難い苦しみを繊細に描写することで、我々の魂に思いやりある傷みをもたらした。美しく、そしてつらい。ありがとう。
  • 『はだしのゲン』(中沢 啓治)シリーズを強く薦める。原爆を生き延びた子供たちの人生を描いたマンガだ。原爆投下のことだけではなく、原爆そのものより多くの面でもっとひどい何年も続く余波や後遺症をどう生きたかを主に描いたマンガだ。

Barefoot Gen vol.1: A Cartoon Story of Hiroshima (Barefoot Gen)

Barefoot Gen vol.1: A Cartoon Story of Hiroshima (Barefoot Gen)

  • 原爆投下に関するタイムリーでためになる記事だ。アメリカが最初の原爆を広島に投下した時、私は中国で中学二年生だった。街は盧溝橋事件の後、日本軍に占領されていた。 (中略)日本軍は、何百万もの無実の中国人を殺し、そのほとんどは女性や子供だった。中国にとっては、日本人は自由世界でもっとも厳しい罰に値する。19世紀に多くのヨーロッパの人々が植民地化を試みた後、中国は脆弱だった。唯一、アメリカだけが中国を占領しようという野望を持たなかった。中国の人々は、アメリカが自国を助けることを望んでいたんだ。原爆投下でアメリカは正しいことをしたのを証明した。アメリカのリーダーや民衆は、そのことでいかなるやましい気持ちも持つ必要は無い。私には日本軍に殺された親類や友がたくさんいる。アメリカは中国の人々にとってはヒーローだ。
  • この出来事は悲劇だし核戦争賛成を思いとどまらせるものではあるのだが、ジャーナリストや日本人が南京や上海の爆撃やレイプ、マニラにおける焦土作戦を思い返そうとしないのは残念だ。それらのすべてで、もっと多くの人がもっと残酷なやり方で殺されたり傷つけられたりしたいる。(中略)にもかかわらず、日本の現在の総理大臣は、祖父が戦犯だし、多くの戦争犯罪者が祀られている神社に毎年参拝して中国や韓国やフィリピンの人々の怒りを買っている。それに我々は、もっと多くの日本人が(原爆投下の)前年の大空襲で死んだのに、それでも帝国軍は降伏しなかったということを忘れている。
  • 小川さん・・・私の義理の家族(妻はフィリピン人です)は 1945年の二月、アメリカの解放軍が近づく中で日本軍によるマニラでおこなった残虐な凶行と虚無的な殺りく行為で殺されました。叔父(父の弟)は、沖縄戦で彼の戦艦にカミカゼが墜ちて死にました。広島と長崎の原爆投下は残忍で恐ろしいけど、歴史的なバランスの感覚では、それらの出来事は歴史上孤立して起こったことではないとも思えます。 中国人や韓国人の同僚の間でもこの主張への賛成が見られます。
  • 日本の映画や漫画も薦めていいですか? 第二次世界大戦の何十年も前に、日本軍は政府を支配し、反共産主義の名目の元に社会の反対派を乱暴に抑え込んでいた。戦後、日本のアーティストたちがこの歴史を伝えている。小津、市川、小林、溝口、そして黒沢。ネットフリックスにいいセレクションがあるよ。 (中略)原爆だけじゃない、東京大空襲はスタジオ・ジブリの『火垂るの墓』で観られる。マンガだと、水木しげるの『Onward Towards Our Noble Deaths(総員玉砕せよ!)』は、彼の生い立ちと太平洋での従軍経験が描かれている。市川崑の『ビルマの竪琴』とあわせると、異なる考え方が見える。

総員玉砕せよ! (講談社文庫)

総員玉砕せよ! (講談社文庫)

Onward Towards Our Noble Deaths

Onward Towards Our Noble Deaths

  • 作者:Mizuki, Shigeru
  • 発売日: 2011/04/26
  • メディア: ペーパーバック

  • 美しく書かれた一篇だ、ありがとう。数年前、広島を訪れた後、ジョン・ハーシーによる、彼が原爆投下一周年が近づく街を訪れた際の類まれなる報告を読んだ。元々は雑誌ニューヨーカーに掲載されたものだが、ニューヨーカーは彼の生存者への痛ましいインタビューの連作にそれを提供している。今まで読んだ本で、今もなおもっとも力のある本のひとつだ。

Hiroshima

Hiroshima

  • 作者:Hersey, John
  • 発売日: 2019/01/22
  • メディア: ペーパーバック

  • 素晴らしい記事だ。著者の広島と長崎のような恐怖の記憶の継続を求める主張に賛成する。1945年3月の東京・横浜の大空襲もそこに加えるべきだ。同時に、天皇の名の元にアジア中で日本軍が残虐な行為をした太平洋戦争の恐怖を忘れないように著者が日本人に促してくれたのなら 、気分がほっとしたのだか。
  • 『H: A Hiroshima Novel』(小田 実)。(中略)この本は、多くを物語る受難劇であり、深く心に触れる芸術作品だけがなし得る力強さがある。人、時間、場所を越えた苦しみ、家族や文化、果ては世界そのものさえも破壊される危険をわずかな贖罪を垣間見せるだけで描いている。


 「アジアで蛮行の限りを尽くしていた罰でしょ」

というようなコメントもありますよね。

 これが戦争の残した消えない憎しみなのだと実感しました。大豆飯を楽しみに出かけたしげる君とか犠牲になった広島の市民の皆さんとかは、太平洋で兵隊さんたちがしていたこととはまったく関係ないと思うのですが。それでも因果応報だと喜ばれてしまうのですね。

 でも、たしかに「日本軍が第二次世界大戦で他国に何をしたか」に関して、自分が勉強不足だということは認めます。私が学生時代の歴史の授業は鼻クソみたいなもんでした。現代史は、学年の最後のほうで時間が無くなり、「あとは皆さん教科書読んでおいてくださいね」という感じで、邪馬台国とか縄文式土器とかに時間が割かれていたように思います。
 ドイツのように強制的に「自国が過去にやった過ちを最低〇〇時間学校で勉強する」みたい義務も学校側に課せられていないので、自分から積極的に本を見つけて読んだりしない限りはなかなか自国の過ちを振り返る機会は無い、ということです。

 なぜ戦争に向かって行ったのか。
 なぜ止められなかったのか。

 そんなことを考察するには、卑弥呼とか土器の見分け方勉強しても役立ちません。もしかして、アメリカ人のほうが原爆投下に関しては学校でやってたりして。少なくとも投下を決断するに至った過程を再調査したり考察した書籍はこの時期になると、何度も出てくるし・・・。

 自国の戦争の歴史から学び、繰り返さないようにしようという姿勢が無いところがアジア諸国の反感を買っているのでしょう。自分たちの悲しみだけ美しい文章で書かれてもねえ・・・と思われてしまうのもわからないでもないです。

 でも、「それはそれ、これはこれでしょう!」と腹が立つ気持ちもあります。日本軍がアジア諸国で残虐行為や侵略行為を行っていたからと言って、二発も原爆落とされて亡くなった市民の不幸を喜ぶ気持ちはわかりません。戦争が終わり、日本が負けたことや日本軍が解体されたことを喜ぶ気持ちならわかりますが。中国や韓国やフィリピンの人たちが特に恨み深くて冷たいというわけではなく、きっと「日本人なら誰でも憎い」というくらいの気持ちを持たせることを、実際にしてしまったということなのでしょう。

 「だって学校で習わなかったし親も教えてくれなかったんだもの~」
とか言ってないで、現代史に関しては、自分で自分を教育していく=本を読むしかないですね。戦争物は本当に辛くて辛くて、何も手につかなくなってしまうのですが・・・頑張ります・・・。

英語メモ===================

scorched earth campaign 焦土作戦◆戦争において、現在の場所から撤退するときに、その場所を焼き尽くしておくことによって、侵攻してきた敵に食料や資材などを一切与えないようにすること。

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