THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

禁書週間に全米図書館で過去10年間一番もめた本を読んでみた『The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian(はみだしインディアンのホントにホントの物語)』(by Sherman Alexie)

 アメリカは、9月27日~10月3日まで禁書週間(Banned Books Week)でした。
 全米各地の公共図書館や学校図書館で抗議殺到でBanされてしまったり、目立たない棚に移動させられてしまった本たちに脚光をあて、本の検閲に関して考える全米図書館協会主催のキャンペーンです。

 この週にちなんで、全米図書館協会が過去10年(2010年~2019年)に抗議が多かった本トップ100を集計して発表しました。
Top 100 Most Banned and Challenged Books: 2010-2019 | Advocacy, Legislation & Issues

 トップの方にランクインしている作品群はだいたいどれも抗議が来るのもわからんでもないなーと納得できるのですが、第一位にびっくりしました。
 これなの? この本、そんなにもめる内容なの?

The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian

The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian

  • 作者:Alexie, Sherman
  • 発売日: 2009/04/01
  • メディア: ペーパーバック

『スーパーヒーロー・パンツマン』より、
『13の理由』より、
『アラスカを追いかけて』より、
『ジョージとメリッサの秘密』よりすごいの!?

 どんなすごい性描写やら暴力描写やら汚ない言葉やら差別描写が出てくるのかしら・・・と読む前から期待が高まります!!

 ・・・・・・・・・読みました。

いやあ、素晴らしい本っすね!

 いい小説読んだなあ・・・としか・・・。
 
 簡単に言うと、インディアン居留地(Reservation, Rez)で育った14歳-15歳のネイティブアメリカンの少年の成長の物語です。彼が高校一年生*1となり、居留地の高校ではなく白人の学生が通う高校を選び、二つのコミュニティの中でたくさんの出会いや別れを経験していく一年を、詩人でコメディアンでもある著者が面白おかしくそして悲しく綴っています。

 この短さ。
 この簡潔さ。
 このスピード感。

 私でも辞書なしで読み通せる程度の英語で、少年の深い深い悲しみや怒り、喜びがユーモアと共に表現されています。
 人の心を動かす物語に、難しい言葉など要らないのだと実感しました。

 今年、この本より長い本を何冊も読みましたが、これほど心をがっしりと掴まれた本が何冊あったか?? 全米図書賞受賞も納得です。好きな表現がたくさんあり、線引きまくりでした。

 体のあちこちが健康ではない状態で生まれ、言語障害もあり、惨めの中の惨めを極めていた彼が、いきなりバスケットボールの優秀な選手になっていたくだりだけちょっと「あれ?」でしたが・・・。

『The Absolute True Diary Of A Part-time Indian』イラストのひとつ
時折入る楽しいイラストやマンガもいい味出してる

 それにしても、白人の世界に飛び込んだ異人種の高校生の一年・・・どっかで読んだことあるなあと思ったら、今年ニューベリー*2をとった『New Kid』とまるかぶりじゃないですか。ヤングアダルトの定番テーマの’ひとつなのかな。
 『New Kid』も明るくてよかったけど、こっちのほうが心から血が流れるような葛藤があると思いました。この本のPTA公認バージョンが『New Kid』って感じ。

 そうです、うるさいお父さんお母さんがちょーっと眉をひそめそうな下ネタやジョークがこの本には少しだけ入っているのです。

 でも、これがどうして過去10年間の抗議殺到第一位になるのか釈然としない私はやはり日本人?

 一応、抗議理由を調査してみたのですが、抗議理由は下記が多かったです。

alcohol(アルコール),
bullying(いじめ),
violence(暴力),
sexual references(性表現),
profanity(汚い言葉、Fワードとか),
slurs(罵りの言葉、Nワードとか)

 居留地のアルコールやいじめや暴力の問題を描いた物語なのに、それが抗議理由になる意味がわからない。Nワードも黒人を罵るために使ったわけではないし。Fワードは・・・この前に読んだロバート・ガルブレイスの大人の小説で出て来過ぎて麻痺している。なんてったって、男性が女性に心から真剣に謝る時の謝罪が、

I'm fu‗king sorry.

ですから。そっちでは2-3ページに一回は「Fu○k」が出てきたせいか、この小説なんてどこに出て来たのかもわからんかったくらい。

 性表現は・・・もしかして皆さんあの最初のほうのいきなり「僕はマスターベーションしてます」といきなり告白しだすところを怒っていらっしゃる・・・?

I spent hours in the bathroom with a magazine that has one thousand pictures of naked movie stars:
(映画スターのヌード写真が千枚載ってる雑誌があったらトイレで何時間だって過ごせるよ。)

Naked woman + right hand = happy happy joy joy
(ヌードの女性 + 右手 = ハッピーハッピージョイジョイ)

(snip) If there were a Professional Masturbators League, I’d get drafted number one and make millions of dollars.
(ー中略ー プロのマスターベータ―・リーグがあったら、僕はドラフト一位で何億円も稼げるね。)

 アマゾンのレビューでもここに怒っている人がいましたね~。

 実際に本人がコトに及んでしまう『アラスカを追いかけて』とか『トワイライト』シリーズとかに比べたら、いいんじゃないのと思うんですけどね。
  白人さんたちよ、「僕は優秀なマスターベーター、誇りを持ってる」って言って喜んでるんだから、それくらいガタガタ言わず許してやれ!!今までネイティブアメリカンにひどいことしてきたんだから!!
 それにここは、主人公がエンジェル君ではない感じを出すためにも、終盤の素晴らしい心の独白とつなげるためにもあったほうがいい。

 抗議が殺到した理由の中に、ネイティブ・アメリカンの当人たちからの
「おいおい、ネイティブ・アメリカンはこんなに悲惨な生活してないだろ? 下げすぎだろ? 俺らもっとまともな生活してるけど??」
っていうのがあったらまだ少し救われたんですけどね。調べた限り、寄せられた抗議にそういうのはありませんでした。うーん。

 あくまで白人さんたちの「お下品ざますわっ!教育的に良くないざますわっ!」という抗議ってことですよね・・・。ちゃんと、読んでいるのかな・・・抗議した人たち・・・。

 私が思うに、この小説がここまで問題視されている理由は、ずばり

「小説として優れているので国語の教材に使われてしまう」

ここにあるのではないかと思います。

 アメリカって日本でいうところの「国語の教科書」が無いんですよね。
 先生が「この小説を教材に使う」と決めて生徒に読ませて、それを基に授業をやる。その際に、これが選ばれやすいのだと思います。子供が喜んで読んでくれて、しかも教育したいことが書いてある、そういう本がなかなか少ないそうで。
 しかもこの作品、英語が結構簡単なので、学校によっては6年生とか7年生(中一)のお薦め図書に入っていたり、教材に使われたり・・・。 それで親の知るところとなり、親が「学校図書館から撤去しろ」と抗議する。
 一件でも抗議が来たら、学区の理事会が学校図書館から撤去するかしないかを話し合って決めないといけないらしく・・・。

 この本が抗議件数第一位になって『トワイライト』がならないのは、『トワイライト』を教材に使う教師がいないというだけなんだと思います。青少年向けの小説として評価が高いというのも考えものですね。どうしてもクリーンであることを求められてしまうので。

 私は、アメリカの学生には問題部分も含めて是非是非この小説を読んでもらいたいです。でも、高校生からでいいと思います。高校生くらいになったら、小説に出てくる言葉のうちどれが実際に使ってよいものか、ダメなものかちゃんと分かると思うから。

 大人ももちろん読むべき。
 ネイティブ・アメリカン自身がネイティブ・アメリカンの悲しみと葛藤を軽妙な語り口で綴った傑作です。

 最後は、主人公ジュニア君の語りで締めたいと思います。

I cried because so many of my fellow tribal members were slowly killing themselves and I wanted them to live.
(僕は泣いた。たくさんの僕の部族の仲間たちがゆっくり自死しつつあり、僕は彼らに生きてほしかったから。)

I wanted them to get strong and get sober and get the hell off the rez.
(彼らに強くなって、しらふになって、居留地の地獄から出て欲しかったから。)

It’s a weird thing. Reservations were meant to be prisons, you know? Indians were supposed to move onto reservations and die. We were supposed to disappear.
(おかしなことだ。居留地は監獄ってことなんだよな。インディアンたちは、居留地に越してきてそこで死ぬことになってる。僕たちは消えて無くなることになってるんだ。)

But somehow or another, Indians have forgotten that reservations were meant to be death camps.
(でもどういうわけか、インディアンたちは居留地が強制収容所とおんなじだってことを忘れてしまっている。)

I wept because I was the only one who was brave and crazy enough to leave the rez. I was the only one with enough arrogance.
(僕は泣いた。僕だけが一人、そこを出て行けるくらいの思いきりがあるおかしいやつだったから。そうできるほど傲慢なやつだったから。)

blog.the-x-chapters.info
blog.the-x-chapters.info
blog.the-x-chapters.info


英語メモ:
lopsided 一方に傾いた、バランスの取れていない、偏った、〔戦いなどが〕一方的な

参考記事:
BANNED: The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian | American Experience | Official Site | PBS
Banned Spotlight: The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian | Banned Books Week

*1:アメリカはだいたい15歳で高1

*2:ニューベリー賞。児童文学のアカデミー賞