THE X-CHAPTERS / Xチャプター

米国から本の話題をお届け

10月は怖い本月間! NYタイムズ紙が人気作家に聞く「あなたの一番怖かった本、教えて!!」

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 10月です。
 日本だと怖い本や怪談話は真夏の風物詩ですが、アメリカでは10月がホラーシーズン。やっぱりハロウィンがあるから?? 怖い本、怖い映画特集をあちこちで見かけます。

 中でも、ニューヨーク・タイムズの2018年の特集、人気作家たちに彼らを一番怖がらせた本を聞いた記事が面白かったのでまとめました。

The Book That Terrified Neil Gaiman. And Carmen Maria Machado. And Dan Simmons. - The New York Times

 シャーリィ・ジャクソンの『The Haunting of Hill House(丘の屋敷、たたり)』があちこちで言及されていて気になります。私は未読です。

 私も自分をもっとも怖がらせた本を考えてみたのですが、結構これ難しい質問ですよね。

 それでは、どうぞ。

カルメン・マリア・マチャド(Carmen Maria Machado)

 カルメン・マリア・マチャドさんの「最も怖かった本」は、シャーリー・ジャクソン作『The Haunting of Hill House(日本語題:丘の屋敷、たたり)』

The Haunting of Hill House (Movie Tie-In): A Novel

The Haunting of Hill House (Movie Tie-In): A Novel

 1999年の映画『ホーンティング』の原作でもあり、ネットフリックスのドラマ化でも最近また話題に。もはや古典として生き残ることは間違いなしの有名作です。

I read it one night next to my sleeping wife and found myself unable to move, unable to go to bed, unable to do anything except keep reading and praying the shadows around me didn’t move.

ある晩眠っている妻の傍らで読み、そして自分がこんなふうになっていることに気がついた。
動くこともできない。
ベッドに入ることもできない。
ただ自分の周りの影が動かぬことを祈りながら、読み続ける以外何もできなくなっていた。

 この本を紹介して下さったマチャドさんご自身の本はこちら↓
『Her Body and Other Parties(彼女の体とその他の断片)』

彼女の体とその他の断片

彼女の体とその他の断片

Her Body And Other Parties

Her Body And Other Parties

ジョー・ヒル(Joe Hill)

 キング家長男のホラー・怪奇幻想系作家ジョー・ヒル。彼はジョン・ファウルズ作『コレクター』を挙げています。ウィリアム・ワイラー監督が映画化したクラシック映画のほうも有名ですよね。

The Collector (English Edition)

The Collector (English Edition)

  • 作者:Fowles, John
  • 発売日: 2012/12/01
  • メディア: Kindle版

I never really recovered from “The Collector,” by John Fowles, a work of shattering brilliance and unbearable suspense — as well as the clear inspiration for “The Silence of the Lambs.”

ジョン・ファウルズの『コレクター』の衝撃からちゃんと立ち直ることなんてないよ。打ちのめされるような素晴らしさと耐えがたいサスペンスがある作品だ。そして、明らかに『羊たちの沈黙』のインスピレーションでもある。

 FBIがプロファイリング班を作るよりも前、「連続殺人犯」という言葉すら世に浸透する前にこの作品を出したジョン・ファウルズを絶賛しておられます。
 そんなジョー・ヒルさんの作品も結構怖いですが。

怪奇日和 (ハーパーBOOKS)

怪奇日和 (ハーパーBOOKS)

Strange Weather (English Edition)

Strange Weather (English Edition)

  • 作者:Hill, Joe
  • 発売日: 2017/10/24
  • メディア: Kindle版

マーロン・ジェイムズ(Marlon James)

 13歳の時に読んだディケンズの『オリバー・ツイスト』が怖かったそうです。少し変わっていますよね。それまで疑問を持つことが無かった平和な子供時代、「もし一人ぼっちになったら?」という恐怖、人間の底知れない悪意に対する恐怖、そういうものを感じた本という意味で「一番怖かった」ようです。確かに、悪霊より連続殺人犯より子供には身近に感じられる恐怖かもしれません。

オリバー・ツイスト (光文社古典新訳文庫)

オリバー・ツイスト (光文社古典新訳文庫)

ISBN:979-8695529470:detail

Sikes scared me right down to the bone and still haunts my dreams. I got goose bumps just typing this.

(登場人物の)サイクスは骨の髄まで僕を怖がらせ、いまだに夢にまでとりついている。この文章を打っているだけで鳥肌が立つんだ。

 そんなマーロン・ジェイムズさんは、こちら『A Brief History of Seven Killings(七つの殺人に関する簡潔な記録 )』でジャマイカ出身作家で初のブッカー賞を受賞されています。

七つの殺人に関する簡潔な記録

七つの殺人に関する簡潔な記録

A Brief History of Seven Killings

A Brief History of Seven Killings

  • 作者:James, Marlon
  • 発売日: 2015/05/01
  • メディア: ペーパーバック

ニール・ゲイマン(Neil Gaiman)

 またまたシャーリー・ジャクソンの『The Haunting of Hill House(日本語題:丘の屋敷、たたり)』!! ニール・ゲイマン、お前もか!! 
 ヘンリー・ジェイムズ『The Turn of the Screw(ねじの回転)』、ピーター・ストラウブ『Ghost Story(ゴースト・ストーリー)』、スティーブン・キングの『It』『Salem’s Lot(呪われた町)』『The Shining(シャイニング)』も挙げてはいますが・・・

“The Haunting of Hill House” beats them all: a maleficent house, real human protagonists, everything half-seen or happening in the dark. It scared me as a teenager and it haunts me still, as does Eleanor, the girl who comes to stay.

『The Haunting of Hill House(丘の屋敷、たたり)』はそれらすべてを上回る。悪さをする屋敷、現実味のある主人公たち、闇の中で見え隠れし起こるすべて・・・。ティーンネイジャーとして恐ろしかったし、いまだにとりつかれているようだ。まるで屋敷にやってきてそこで過ごした女性エレ―ナのように。

 ニール・ゲイマン、代表作はこれではないと思うんですけど元記事の中では以下の作品が紹介されていました。ちょうど記事が出た頃発表した本だったのかな。

物語北欧神話 上

物語北欧神話 上

Norse Mythology (English Edition)

Norse Mythology (English Edition)

  • 作者:Gaiman, Neil
  • 発売日: 2017/02/07
  • メディア: Kindle版

マリアーナ・エンリケス(Mariana Enriquez)

 やっと出ました、スティーブン・キング先生の作品! マリア―ナ・エンリケスさんが11歳、12歳くらいの時にプレゼントされた『Pet Sematary』。初めて本で肉体的な恐怖感覚を感じたとのこと。

I remember being so scared reading it that I threw the book away from me as if it were a poisonous insect.

ものすごく怖くて、まるで毒のある昆虫みたいに本を放り投げたことを覚えている。

 ご本人も「アルゼンチンのホラー・プリンセス」なるキャッチフレーズをつけられ、大活躍されています。

Things We Lost in the Fire

Things We Lost in the Fire

サラ・ワインマン(Sarah Weinman)

 本屋で店番のバイトをしている時、暇つぶしに本屋のオーナーおすすめのホラー小説サラ・グラン作「Come Closer(※日本語訳見つけられず)を手にとって一気読みしてしまったとのこと。

Come Closer (English Edition)

Come Closer (English Edition)

  • 作者:Gran, Sara
  • 発売日: 2018/07/01
  • メディア: Kindle版

A common wish transformed into monstrous deed made me shiver in fear, a feeling that persisted until the end of my store shift, and in the years thereafter.

ありふれた願いがおぞましい行いに変わっていくことに恐怖で震えた。その感じは店番のシフトの終わりまで続いた。そしてその何年も後までも。

 ワインマンさんは、2018年にナボコフの『ロリータ』に影響を与えた(かもしれない)実際の事件を調査したノンフィクション『The Real Lorita(多分、日本未訳)』の著者です。

トミ・アデイェミ (Tomi Adeyemi)

 サバア・タヒア作の「An Ember In The Ashes」というYA四部作の第3巻『A Reaper at the Gates(仮面の帝国守護者)』を挙げていらっしゃいます。

仮面の帝国守護者(上) (ハヤカワ文庫FT)

仮面の帝国守護者(上) (ハヤカワ文庫FT)

The scariest part of this book for me comes in a hauntingly visceral portrayal of domestic abuse. Some scenes were so terrifying and hard to read I became physically nauseated!

私にとってこの本の一番怖いところは、長い間ひきずりそうな生々しい家庭内虐待の描写。あまりに恐ろしくて読むのが辛くて、本当に吐きそうになったところもあった。

 この本を紹介したトミ・アデイェミさんはナイジェリア系アメリカ人作家、壮大なファンタジー『Children of Blood and Bone(オリシャ戦記 血と骨の子)』の作者です。

オリシャ戦記 血と骨の子

オリシャ戦記 血と骨の子

Children of Blood and Bone (Legacy of Orisha)

Children of Blood and Bone (Legacy of Orisha)

  • 作者:Adeyemi, Tomi
  • 発売日: 2018/03/08
  • メディア: ペーパーバック

ダン・シモンズ(Dan Simmons)

 ダン・シモンズが挙げたのは、リチャード・プレストン作のエボラ出血熱に関するノンフィクション・スリラー『The Hot Zone(ホット・ゾーン)』

The Hot Zone: The Terrifying True Story of the Origins of the Ebola Virus

The Hot Zone: The Terrifying True Story of the Origins of the Ebola Virus

 シャーリィ・ジャクソンの『The Haunting of Hill House(日本語題:丘の屋敷、たたり)』(また出た!!)が僅差で二位だけど、『ホット・ゾーン』のほうがやっぱり怖かったとのこと。

There are times when the simple listing of factual events can be more frightening than even the best works of imagination a novelist can concoct.

 小説家が作り上げることができる最高の出来の想像の産物よりも、実際にあった出来事のシンプルな列挙のほうが恐ろしい時がある。

 ダン・シモンズさん元記事では『Omega Canyon』が発売予定、と紹介されていますがなんらかの理由で発売が延期になって未だ出ていないようなので、代表作のひとつであるこちらを載せておきます。29世紀を舞台にした壮大なSF・・・すごそうです。

ハイペリオン(上)

ハイペリオン(上)

Hyperion (Hyperion Cantos Book 1) (English Edition)

Hyperion (Hyperion Cantos Book 1) (English Edition)

  • 作者:Simmons, Dan
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: Kindle版

ヴィクター・ラヴァル (Victor LaValle)

 ヴィクター・ラヴァルは、ジャメイカ・キンケイド作『The Autobiography of My Mother(日本語訳見つけられず)』を選びました。

It’s categorized as literary fiction, but it’s a horror novel, too. It’s narrated by a woman whose mother dies giving birth to her and death is the book’s obsession.

文学作品にカテゴライズされているけれど、ホラー小説でもある。自分を産んだことで死んだ母親を持つ女性が語り手で、死はこの本にとりついている。

 ヴィクター・ラヴァルはホラー、幻想文学作品を多数発表しているアフリカ系アメリカ人作家。『The Changeling(日本語訳見つけられず)』で世界幻想文学大賞を受賞。

The Changeling (English Edition)

The Changeling (English Edition)

タナナリヴ・デュー(Tananarive Due)

 タナナリヴ・デューさんは、ご自身と同じくアフリカ系アメリカ人女性作家であるオクティヴィア・E・バトラー作のディストピア小説『Parable of the Sower(日本語未訳)』を選びました。

Parable of the Sower: A Graphic Novel Adaptation

Parable of the Sower: A Graphic Novel Adaptation

This book’s dystopia of walled-off communities, useless government, unchecked violence and corporate slavery feels like the waiting headlines of tomorrow — and too many of our headlines today.

城壁で囲まれたコミュニティ、役立たずの政府、歯止めの無い暴力、そして社畜・・・この本のディストピアは、印刷を待つ明日の新聞の見出しに感じる。そして今日の見出しの中にも多過ぎるくらいあるようにも感じる。

 紹介してくれたタナナリヴ・デューさんは、UCLAで「ブラック・ホラー」なるジャンルを教えている黒人女性作家/教育者。日本では『The Between(死の扉は二度ひらく)』しか邦訳が出ていないようですが、 他にもホラー作品多数。NYタイムズの元記事では『My Soul to Keep(日本語未訳)』が紹介されていました。

My Soul to Keep (African Immortals series, 1)

My Soul to Keep (African Immortals series, 1)

  • 作者:Due, Tananarive
  • 発売日: 1998/04/01
  • メディア: ペーパーバック

ダンジ―・セナ(Danzy Senna)

 14歳で読んだチャールズ・マンソン率いるカルト集団に迫った実録本、ヴィンセント・T. バグリオーシ著『Helter Skelter(日本語訳見つけられず)』が強烈で、殺人カルト集団への強迫観念ができてしまったとのこと。

Helter Skelter: The True Story of the Manson Murders

Helter Skelter: The True Story of the Manson Murders

I developed terrible insomnia and lay awake with visions of Manson and his girls lurking behind the trees outside my window, waiting to get me — or maybe for me to join them.

ひどい不眠症になってしまった。マンソンとマンソンの女の子たちが窓の外の木の陰に潜んで私を捕まえるために待ち構えている、もしくは私が彼らの仲間になるのを待っている・・・という想像で眠れなかった。

 ダンジ―・セナさんの作品は、邦訳が出ていないようです。NYタイムズの元記事では『New People』が紹介されていました。

New People (English Edition)

New People (English Edition)

  • 作者:Senna, Danzy
  • 発売日: 2017/08/01
  • メディア: Kindle版

マリナ・ブドーズ(Marina Budhos)

 マリナ・ブドーズさんが選んだのはスザンナ・ムーア作『イン・ザ・カット』。2003年に映画化され清純派(?)で売っていたメグ・ライアンが主演したことでも話題になった官能サスペンス。

イン・ザ・カット (ハヤカワ文庫NV)

イン・ザ・カット (ハヤカワ文庫NV)

In the Cut (Vintage Contemporaries) (English Edition)

In the Cut (Vintage Contemporaries) (English Edition)

 普段は刑事ものや殺人が絡むミステリはあまり読まないというブドーズさん。しかし・・・

This is such a deft and smart book.
I gulped it down in my dorm room after teaching in Vermont during the day and could not sleep for the rest of the night.

この本は、うまいし賢く書かれた本。
ヴァ―モント州で授業をした後、寮の部屋でその日のうちに一気読みした。で、その夜は眠れなくなった。

 マリナ・ブドーズの本は、元記事ではアメリカの監視社会の中で育つ若者を描いたYA小説『Watched(多分未訳)』が紹介されていました。

Watched (English Edition)

Watched (English Edition)

ヴィ・キィ・ナオ(Vi Khi Nao)

 ナオさんが挙げたのは、カタルーニャ文学の希少な女性作家マルセー・ルドゥレダの作品『Death in Spring(多分、日本語未訳)』。隔絶された社会で成長する少年の物語がポエティックに描かれた文学作品のようです。

“Death in Spring,” by Mercè Rodoreda, is a terrifying book for me both psychologically and metaphorically speaking, making any dystopian or scary novels written today seem like a quiet, tranquil stroll through America’s most festive beachfronts.

マルセー・ルドゥレダの『Death in Spring』は、心理的にも比喩的な意味でも恐ろしい本で、今日書かれているどんなディストピア小説だって怖い小説だってアメリカの一番賑わっている海辺を静かに平穏にぷらぷら散歩しているだけに思わせてしまう。

 ヴィ・キィ・ナオさんは、ヴェトナム系アメリカ人作家/詩人。元記事では『Sheep Machine(日本語未訳)』という本が紹介されていましたが、何度本の紹介やレビューを読んでもどういう本かわからない不思議な本。

Sheep Machine

Sheep Machine

  • 作者:Nao, VI Khi
  • 発売日: 2018/06/27
  • メディア: ペーパーバック

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 以上、13人の作家たちの怖い本の紹介でした。

 ちなみに私の一番怖かった本は(誰も尋ねてくれませんが)上記のどれでもありません。

 本が怖いと感じる、それはやはり年齢が大きく関係していると思うのです。子供の頃や多感なティーンネイジャーの頃にうっかり恐ろしい本を手にとると、もうそれはそれは恐怖を引きずることになります。
 
 私は、ホラー小説家がその優れた才能と技をもってして私をいくら怖がらせようとも「おー、怖っ!でもこれはフィクションだもん」と楽しく読めるキャラなのですが、「本当にあったこと」、これが一番ダメです。

 なので、私の一番怖かった本は、書名・作者ともに覚えていませんが、以下。

・学研かどこかの学習マンガ「フランス革命」
 小学生高学年で読んだ。その本でギロチンの存在を知り、本の中のほかの内容など吹っ飛ぶ。「断頭台の露と消えた」とか美しい言い方してるけど、人間が人間の首をちょんぎるあんな装置を開発して実際使って、しかもその首を広場にディスプレイして皆が見て喜んだ、その事実に震えあがって眠れなくなった。

・シリアで捕まったモサドのスパイのことが書かれた本
 これは、成人してから読んだはずですが・・・
 「すさまじい拷問を受けても口を割らず、最後は肛門から大腸がはみ出た状態で広場に引きずり出され、大勢のシリア人の前で一般公開処刑された」というイスラエルの英雄の最期に具合が悪くなりました。しかも結構最近の出来事というところがもうダメです・・・。ギロチンは「中世のことだから」と無理やり自分の恐怖を時間の経過で薄めることもできましたが…。
 ほかにも捕まったスパイの話がいくつか出てきて、どれも私には具合の悪くなる内容で、一刻も早く記憶から消し去るため、速攻で本を捨てました。

・森村誠一『悪魔の飽食』
 これは書名をちゃんと覚えていました。日本軍の731部隊の鬼畜行為をまとめた本ですが・・・

 高校生の時に、仲の良かった男子が「これ面白いから絶対読んで」とにやにやしながら渡しやがった本です。あいつは絶対私がこういうのを怖がることをわかって貸した! くそう、狙った通り震えあがり食欲が失せました。

 あとは・・・フィクションだとやっぱ『侍女の物語』、ですかね?? 怖いというか怖・気持ち悪いです。女なら、特にアメリカに暮らす女ならおえ~となると思います。

 皆さんの「一番怖かった本」は、何ですか?

blog.the-x-chapters.info

参考記事:
The Book That Terrified Neil Gaiman. And Carmen Maria Machado. And Dan Simmons. - The New York Times