THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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想像するしかない超絶恐ろしい状況で人体には何が起こるのか? 虫関係がもうダメ・・・『And Then You're Dead』(by Cody Cassidy, Paul Doherty)

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『And Then You're Dead』より

 突然ですが、皆さんは、以下のどれかのような状況を経験したことがあるでしょうか?

飛行機搭乗中に上空で飛行機の窓が外れる。
ブラックホールに飛び込む
生きたまま墓に埋められる。
くじらに飲み込まれる。
サメに食いちぎられる。
大砲の先につっこまれてぶっぱなされる。
樽に入ってナイアガラの滝を落下。
バナナの皮に本気で滑る。
プリングルスの工場のポテトのプロセス機の中に転落。
百万の弾倉がある銃でロシアン・ルーレット。
粒子加速器に手を突っ込む。

 私はひとつも無いんですよ~どうなるか知りたいので明日やってみます!

 ・・・というわけにはいかないじゃないですか。

 この本、『And Then You're Dead』は、想像するしかないこういったケース45例が実際のところどんな感じなのかを、生還者の証言や医学・科学の知識を基に考察した本。

著者曰く、

Stephen King meets Stephen Hawking.

スティーヴン・キングとスティーブン・ホーキングを合わせたような感じだ。

 はっきり言って、

「だから何?それを知ってどうすんの」

というツッコミが大声で入りそうなことばかりが、かなりのブラック・ユーモアとともに書かれています。

 私はどうしてこんな本ばかり読んでしまうのでしょうか。

 財テクとか、なんか役立つ資格とか英語とか勉強しなくていいのか。今日こそパート先を探して、履歴書を出すと昨日決心したはずではなかったか。

 しかし、大変おもしろく興味深く大喜びで読んでしまった。

 ただ、私にとって大変残念なのが、この本のハイライト「蜂の大群に襲われたらどうなる?」という章が、本の冒頭近く、5例目のケースで早々と出て来てしまったこと。
 この章が一番強烈で、その後も面白いものはあったけれど、これを越えるものが無かったように思う。科学的、医学的な考察も読みごたえがあるけれど、やっぱり実際に恐怖を経験した「変な人」が出てくるケースが最高。

 まずこの「What would happen if you were attacked by a swarm of bees (蜂の大群に襲われたらどうなる?)」という章、冒険好きな蜂に短パンの中に入られ睾丸を刺されたマイケル・スミスさんという方の登場で幕を開ける。

「痛っ!もうだぼった短パンなど二度とはくものか!!」

ではなく、なぜか、以下のような流れに。

Surprisingly, it did not hurt as much as he had feared—which sparked a question: If that is not the worst place to be stung, what is?

驚いたことに、恐れていたほどは痛くなかった。
そこでひとつの疑問がひらめく。
もし、ここが蜂に刺される最悪の場所じゃないなら、どこなんだよ?

(snip) Michael Smith had found a new calling and a new daily routine.
Five times every morning—always between the hours of nine and ten—he would carefully hold a bee with forceps and press it against his skin until it stung him.
 (中略)そして、マイケル・スミスは自分の新たな天職と日課を見出した。
毎朝5回、9時から10時の間に、鉗子で注意深く蜂を持ち、蜂が刺すまで自分の皮膚に押し付けるのだ。


どうしてそうなる、マイケル・スミス。何が君をそうさせた、マイケル・スミス。

 毎日5回刺されるうちの1回目と5回目は、必ず腕の肘から手首までの間にしてそこの痛みを「5」とし、その他の体の実験部分の痛みを1~10で表したとのこと。

 余談だけど、この「痛みを10段階で表現して」っていうの、アメリカの病院で聞かれる最も困った質問のひとつ。「0が痛みが無い状態、10が痛くて死ぬ状態と考えると今どこ?」って、今にも赤ん坊が生まれそうで痛い時とか、やけどでひいひい言いながら救急で悶絶している時に言われてもね。

「えー、えーと・・・よくわかんないから・・・5? いや、6か7になった気もする・・・でも我慢できるから4? あいたたたた、アイ・ドン・ノウ~!!」

となり、ナースや医師の冷ややかな視線を毎回浴びる。もしかして、その質問に集中させることで痛みから意識をそらそうとしているのか。

 それは置いておいて、本書のマイケル・スミスは腕の半分から下部分を刺された時を5として、とにかくあちこちの痛みを真剣に測った。まず、最も痛くなかった場所:

It turns out that the least painful places to be stung are the skull, middle toe, and upper arm—they all registered a paltry 2.3 on Smith’s pain scale, followed closely by the buttocks, which scored a slightly higher 3.7.

もっとも痛みが無かった場所は、頭蓋骨、足の中指、上腕であり、スミスの痛みの尺度でたったの2.3、続いて尻でやや高めの3.7を記録した。


 なぜ小数点第一位まで出せるんだよ、マイケル・スミス。10段階で考えるだけでも大変なのに。

 そして、これら大したことのない箇所の対極に来る激痛箇所は、

顔、陰茎(7.3)、鼻の穴の中(9.0)

 特に、唇(8.7)や口の中、そしてどこよりも鼻の穴を刺された時の苦しみはすさまじいとのこと。

Although if he were forced to choose, Smith reports he would rather attend his bees without drawers than without a mask.

パンツ一丁かマスクのみかどちらかで蜂の中に出て行けと強制されたら、スミス曰くマスクを選ぶとのこと。

 
 パン一よりマスク。このパンデミックの中、なんて役立つ情報なのだろう。何をどうやったらその二択が必要な状況になるのかわからないけれど。

 まあ、皆さんも風呂に入っている時に突然蜂の大群が襲ってきたら、下半身はもろ出しでも脱衣所に脱ぎ捨てたマスクをして逃げてみて下さい。刺されたら最悪の箇所も守れ、ピンチの時も感染防止を忘れないあなたに周囲の評価も急上昇。

 このマイケル・スミスの自己犠牲に大いに拍手を送ってこの章を終わってもいいところなんだけど、著者は「マイケル・スミスは蜂に関しては頑張った、しかしほかの虫まで含めるとまだまだ」などと記し、ジャスティン・O・シュミットなる「痛みの詩人」を登場させる。

 このジャスティン・O・シュミット、150種以上の昆虫に自らを噛ませ、世界初昆虫の痛みの大家、痛みのソムリエのような存在に上りつめたという。

 狂ってる。

 シュミットによると、普通の蜂に刺された時の痛みは4段階中たったの2くらい。つまり虫刺されの中じゃ大したことがないということ。そんなこと言ったら頑張ったマイケル・スミスがかわいそうじゃないか。

 以下、痛みの詩人シュミットによる虫刺されのフルコースを痛みが少ないほうからどうぞ。


・コハナバチ(4段階中1)

“light, ephemeral, almost fruity. A tiny spark has singed a single hair on your arm.”

「軽く、儚く、甘美と言ってもよいくらいだ。腕の毛が一本ちりっと焦げたかのよう」


・Bold-faced Hornet、北米スズメバチの一種(4段階中2)

“rich, hearty, slightly crunchy. Similar to getting your hand mashed in a revolving door.”

「豊潤で、ちょっとさくっとした感じ。回転ドアに手を挟んだ感じに近い」


・スズメバチ(Yellow Jacket、4段階中2)

“hot and smoky, almost irreverent. Imagine W. C. Fields extinguishing a cigar on your tongue.”

「熱くてスモーキー、無礼と言ってもいい。W・C・フィールズ *1が舌の上で葉巻を消すのを想像してほしい。」


・赤アリ(red harvester ant、4段階中3)

“bold and unrelenting. Somebody is using a drill to excavate your ingrown toenail.”

「力強く無慈悲。足の指の爪の内側にドリルを突っ込まれているようだ。」


・オオベッコウバチ(tarantula hawk)

“blinding, fierce, shockingly electric. A running hair dryer has been dropped into your bubble bath.”

「激烈でショッキングな電気刺激、バスタブの中にスイッチが入った状態のドライヤーを突っ込まれたかのよう」


・サシハリアリ(bullet ant)
シュミットによるとこれが世界最悪の虫刺されに称された様子。

“pure, intense, brilliant pain. Like fire-walking over flaming charcoal with a 3-inch rusty nail in your heel.”

「ピュアで激烈、卓越した痛み。燃える炭の上を10センチの錆びた釘をかかとに刺したまま歩くようだ。」

 利き酒とかワインの試飲じゃないんだから。シュミットさんは真剣なんだろうけど。

 しかしまあ、これらの「痛い虫」は大群で襲ってくることは少なく、人間を刺すこともすごくまれ。
 痛みでは大したことないものの、やはり数で恐ろしいのはミツバチ・・・ということで蜂に話が戻る。もちろんアレルギーがある人はたとえ、一刺しでも致命傷になるけれど、アレルギーが無い人は「体重1ポンド(約453.6g)につき8~10刺しが致命傷」とのこと。つまり体重180ポンド(80㎏)の人で1500刺しが理論上の蜂の神経毒の致死量。

 そして、本書の「蜂の大群に襲われたらどうなる?」の章は、ミツバチの2200以上の毒針が体内から検出されたものの生き延びたびっくり人間の実話で幕を閉じる。

 すさまじく素晴らしいので、そのまま引用する。是非、小説に使ってみたい場面である。

He was swarmed so aggressively that he dived under water.
彼は、あまりにも攻撃的に大群に群がられたため、水の中に飛び込んだ。


Unfortunately, the cloud of bees continued hovering over him and was so dense that he was forced to swallow bees in order to get a breath when he surfaced.
不運なことに、蜂の大群は雲となって彼の上につきまとい続けた。あまりにぎっしりとした分厚いその群れのせいで、呼吸のために水面に顔を出した時、彼は蜂を飲み込むことを余儀なくされた。


He survived, probably because the stings were spread out over some minutes, but by the time the bees decided he was sufficiently punished, his face was black with stingers.
彼は生還した。おそらく、刺されるのが(一気にではなく)何分かに渡ったためだろう。しかし、蜂たちが彼を充分に懲らしめたと決断した頃には、彼の顔は蜂の毒針で黒くなっていた。


No word on where that ranks on the Smith index.
マイケル・スミスの痛みの尺度でどれくらいの痛みだったかのコメントは、無い。

 ちなみに、本書の著者の一人Cody Cassidyさんの今年出版された新著は、

『Who Ate the First Oyster? (最初に牡蠣食べたのって誰?)』

 牡蠣、ナマコ、ウニを最初に食べた人はいかなる状況でそれを決断したのか、それは私の人生においてずっと持ち続けている疑問である。その答えが書いてあるんだろうか。

 しかし、それを知ってどうするというのか。
 
 履歴書出すのはどうなったんだ。

 明日こそやろう。

*1:W. C. Fields、アメリカのコメディアン