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究極の「ご想像にお任せします」小説? 幽霊屋敷モノの古典にして傑作『The Hauting Of Hill House(丘の屋敷)』(by Shirley Jackson)

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 この間まとめた、米国の人気作家が自分を怖がらせた本を語る特集記事で、多くの作家に言及されていたシャーリイ・ジャクスン作の『The Hauting Of Hill House(丘の屋敷)』を読んだ。

The Haunting of Hill House (Penguin Modern Classics)

The Haunting of Hill House (Penguin Modern Classics)

 1959年刊行。約60年前の小説か・・・。1959年、昭和34年。
 ディアトロフ峠事件が起こり、南極でタロとジロが生存し、キューバ革命があって、第一回レコード大賞があって、天皇陛下が皇后さまとご成婚された年。ベビースターラーメンとプラレールもこの年発売だってさ。

 この小説の著者にしてアメリカ怪奇小説のクイーン、シャーリィ・ジャクスンは、この小説の刊行の6年後の1965年に48歳で亡くなっている。この小説も、精神的・肉体的に非常に病んでいる苦しい状態から生み出されたもののようで、それを知るとより一層作品の「病んでいる感じ」に悲しみが増す。確かに精神的にあまり健康な人が書いたものとは思えない。なので、今、自分もそういう状態だなと思う方はくれぐれも読まないように。

 英語は多少古めかしい表現が多かったように思うけれど、何よりもお屋敷の構造や様子を文章から想像するのが私の英語力では難しく、気軽にさっさと読み飛ばせないもどかしさがあった。タイトルに「House」ってあるけれど、「家」ではなくて、実際はこの記事の冒頭の画像にあるような「豪邸」もしくは「城」のような場所が舞台であり、心からこう思いました。「間取り図を載せておくれよ」と。

 あと、セリフのほぼ全部がこの作者のスタイルなんでしょうけど、セリフぶった切りスタイルで書かれていて、「またか」となります。つまり、

スカリー捜査官は言った。
「今日はそうね、かつ丼・・・それとコロッケ、プリン、スパゲッティ・ナポリタンを全部お昼に食べてみたいわ。ビールも飲みたい。」

という感じではなく、

「今日はそうねえ」、スカリー捜査官は振り返りながら、「かつ丼・・・それとコロッケ、プリン、スパゲッティ・ナポリタンを全部お昼に食べてみたいわ。」と言った後、慌てて付け加えた。
「ビールも飲みたい。」

とブツブツ切ってあってなんか疲れるというか・・・でも全篇そういうスタイルです。

 多くを語ることをはばかられる小説だけど、残り四分の一くらいがすごい
 スティーブン・キングやニール・ゲイマンが絶賛するのもわかる。作家としてこういう小説を書きたいと思わせるものがあると思う。それが何かを言うと、やはり「人間が書けている」ということに尽きるのでは、と思うのです。私は、最後のほうを読んでいて泣いてしまった。いつの時代にも変わることのない、居場所の無い人間の孤独や悲しみが本当に目の前で繰り広げられているようで・・・。思い出すとまた泣いてしまいそうになるので、一刻も早く忘れたい。

 ↑↑↑ こういうふうに私のように感情移入しやすい人は、「丘の屋敷」みたいなとこには絶対行かないほうがいいですね。

 多分、___のように___になって___、という結末になるでしょう・・・。

 さて、普遍的な人間の内面が書かれているのも素晴らしいけれど、この小説の素晴らしさは、文章だけで、世界に実際に存在する奇妙な「建築の傑作」を読者が本当に訪れた後のような気持ち悪い感覚を喚起するのに成功しているところ。

 小説内の最初のほうで、こんな会話があります。

”he was a strange man. Every angle”—and the doctor gestured toward the doorway—“every angle is slightly wrong. Hugh Crain must have detested other people and their sensible squared-away houses, because he made his house to suit his mind.

「ヒュー・クラインは奇妙な男だった。すべての角度が」、そう言いながら博士は入り口のほうに身振りした。
「すべての角度がほんの少しずれているんだ。彼は他人のきちんとした家を嫌っていたに違いない。自分の家を自分好みにしたわけだから。」

"Angles which you assume are the right angles you are accustomed to, and have every right to expect are true, are actually a fraction of a degree off in one direction or another.”

「君たちが当然直角と思っている角度は、実は何分の1度かいずれかの側にずれている。」

(snip) “What happens when you go back to a real house?” Eleanor asked. “I mean—a—well—a real house?”

「(中略)ほんとの家に帰ったらどうなるんですか?」エレノアが聞いた。「あの・・・ええと、現実の我が家にってことですけど」

“It must be like coming off shipboard,” Luke said. “After being here for a while your sense of balance could be so distorted that it would take you a while to lose your sea legs, or your Hill House legs. Could it be,” he asked the doctor, “that what people have been assuming were supernatural manifestations were really only the result of a slight loss of balance in the people who live here? The inner ear,” he told Theodora wisely.

「船から降りた時のようになるだろうね」、ルークが言った。
「ここにしばらくいた後は、バランス感覚がゆがんで船内歩行の感覚が無くなるまでしばらくかかるだろう。ヒル・ハウス内歩行感覚って言ったほういいかな。もしかすると・・・」、ルークは博士にたずねた。
「ここに住んだ人たちが超常現象と思ったのは、本当はちょっとバランス感覚を失っただけのことだったんでしょうか? 三半規管ってことさ」、ルークはテオドアに知ったように話した。

 
 この「船から降りたあとの気持ち悪さ」みたいなものを文章で読者の脳内に感じさせる、これが作者の狙ったところの一つだと思います。そしてその狙いは少なくとも私にははまりました。

 世界にはこの「ヒル・ハウス(丘の屋敷)」みたいな建築物が実際結構あるようで、小説内でも登場人物がそれらに言及しています。
 猛烈に興味を感じたので、言及された城や邸宅を以下にまとめました。作者がこういった建築物に精通し、イマジネーションをかきたてられて「ヒル・ハウス(丘の屋敷)」を創造したのがよくわかりますので、是非皆さんも、画像や動画で観てみて、小説をよりはっきりと感じるのに役立てて下さいね。

シャンボール城の二重らせん階段(The double stairway at Chambord、フランス)

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シャンボール城の二重らせん階段、Wikipediaより

 上記は写真が良くないですが、本当に美しい、ダ・ヴィンチがデザインしたという説もある古い階段。DNAみたいにらせん階段が二重になっていて、上る人と降りる人が合わずにすむ設計のようです。
 こちらの動画で城全体も階段も出てきます。階段は確かにすごいですが、お城自体も・・・・・・出そう・・・。
youtu.be

ウィンチェスター・ハウス(Winchester House、カリフォルニア)

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Image by Viktoriia Bondar from Pixabay
 こんなすごいところがあったとは。
 銃のビジネスでウハウハだった実業家ウィンチェスターさんの未亡人が、「次々と不幸に見舞われるのはウィンチェスター銃で死んだ人たちの霊に呪われているから」と霊媒師に言われたのを信じ、夫の死により相続した莫大な遺産をつぎ込んで38年もの間死ぬまで建築・工事し続けた、呪いから逃れるための巨大な邸宅。建築を止めたら自分は死ぬと信じていたらしく、24時間工事が行われていた模様。隠し扉や隠し通路、エレベータなど、仕掛けだらけ。
ウィンチェスター・ミステリー・ハウス - Wikipedia
現在は観光地と化しているとか。映画にもなったみたいですね。
映画『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』予告編
こちらは内部の美しさに焦点をあてて、明るくガイドしている動画。youtu.be


ボーリー牧師館(Borley Rectory、イングランド)

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ボーリー牧師館、Wikepediaより

 1862年に建てられたボーリー村の牧師館。超常現象研究家ハリー・プライスの研究と報告で「イングランドで最も出る家」として有名に。1939年にの火事による損傷が大きく1944年に解体撤去済み。残念。
ボーリー牧師館 - Wikipedia

Ballechin House、スコットランド

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Ballachin House、Wikipedia英語版より

 1806年に建てられた。1834年に相続した持ち主スチュアート氏が、生まれ変わりや転生を信じた方で、独身だったものの多くの犬を飼い、死後は犬になって戻ると宣言。スチュアート氏の死後、彼の甥が館を受け継いだものの、スチュアート氏が犬に転生して戻るのを恐れ犬をすべて射殺。行き場の無いスチュアート氏の霊は館にとりつくしかなかったのだった・・・そして・・・出る・・・・・・!!
 と、いうのが巷に知られているバックストーリー。数々の超常現象の検証などが行われている。

グラームズ城(Glamis Castle)、スコットランド

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グラームズ城、Wikipediaより。出そう・・・

 『グラームスの怪物』という異形の子の伝説で有名。その子が異形だったために生涯城に有名され、死後は城のどこかの壁に埋められ、今も・・・どこかに・・・!? とか、城内に壁の中に秘密の部屋があることが確認されているが、壁が無いためどこからも入れないとか、とにかくすごーーーーーく、出そう・・・。
 小説内に登場した「Drawing room」や「Billiard room」は以下の観光ツアー動画に出てくるような感じと思われます。光景がイメージしやすくなった。
Glamis Castle
明るめのガイドをご希望の方はこちらをどうぞ。
www.youtube.com
ウェブサイトによると泊まれるみたいですよ。
Glamis Castle | Scotland's Most Beautiful Castle | Angus | Scotland

 いつか、こんなところに実際に行ってみたいなあ、と夢だけがふくらみました。

 あとこの小説が気に入った方・・・
『アザーズ(The Others)』という2002年の映画をご存知でしょうか。幽霊屋敷モノの傑作で、こちらも好きになると思いますので是非。とても美しい映画でした。忘れられない一作です。この映画のライターは『The Haunting of Hill House』もきっと読んでいるはず。
youtu.be

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