THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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スティーヴン・キング、近づく大統領選挙への思いを新聞の論説文で発表

 スティーヴン・キング大先生。
 トランプ大統領と現政権の批判を、来る日も来る日もTwitterで吠えていらっしゃいます。
 前回2016年の選挙の際も、当時ヒラリー・クリントンさんと大統領の座を争う候補だったトランプをそれはそれは激しくこき下ろしていらっしゃいました。トランプが大統領選に勝利した後は、その現実を受け入れられなかったのか、「もうしばらく黙るよ」とつぶやきをやめてしまったことも。ちょこっと心配になりましたが、黙っていられない性格なのか、ちゃんと復活して懲りずにその後も一貫してトランプ批判を連投していらっしゃいます。

 その批判つぶやきというのが、もはやなんというか本当に胸の内のむかつきを思うまま書きなぐっていて、キング先生だからたくさん「いいね」がつくものの、多分私がやっても誰も読まないレベル、はっきり言って「お前のかあちゃんでべそ」レベルというか・・・(すみません古くて)

(「トランプ大統領、コロナ検査の結果は陰性」のニュースを引用して)
でも、馬鹿のテストは陽性だろ。

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キング先生、今年の春頃のツイート

 こんなレベルです・・・。
 これに「いいね」するドン・ウィンズロウ。なんか元気なおじさんたちで・・・まあ、これからもその調子で頑張って下さい。
 キング先生のトランプ関連のツイートからは、「バカ」「あほ」「間抜け」「Ass-hole」、その他もろもろ罵りとこき下ろしの英語がたくさん学べますが、学んでどこで使うんだよっていう・・・。本当に子供の喧嘩レベルです。

 そんなキング先生、ちょくちょく全国紙にOp-Ed(opposite editorial、論説文)を寄稿されます。自分のウェブサイトとかではなくて、新聞に発表するんですよね、なぜか。そのほうが読まれるんでしょうね。(ここらへんにも昨今のウェブサイトの限界を感じます。) 少し前には、「アカデミー賞はやってる側も受賞する側も白人だらけじゃないか!」という問題提起の論説文を発表されていました。

 そして、大統領選挙まで一週間を切った10月30日、キング先生から「ワシントン・ポストにOp-Edを書いたから読んでね」というつぶやきが。またどうせすごい調子でトランプ批判でしょ、と思ったのですが・・・
 「2106年にトランプ支持者が欲したものがわかるようになった」
という、すごく気になるタイトルです。

 しかし、残念ながらこれ、ワシントン・ポストを購読しないと読めない。こういうのを「Paywall」って言うんですね。皆さん、「Paywallで読めないよ、 残念!!」と書いていらっしゃいました。

 そこで、そんなあなたのために、内容をかいつまんでご紹介。(私は購読者ではないのですが、地元図書館が購読料払っていて利用者は図書館のサイトで読めるのです)

 それほど長くはないので、本当にコピペして訳して載せたいところですが、今、新聞社大変ですからね。ワシントン・ポストにも頑張って欲しいから、ここは私のへたくそな要約で我慢して下さい。

 まずキング先生、前述した通りバリバリのアンチ・トランプで、前回の2016年の大統領選前に、地元メイン州のコンビニ店員の女性と、「あんた誰に投票すんの?(女性だし当然ヒラリーだよな?)」と世間話をした時のことを振り返っています。トランプに投票する、とその女性に返されショックを受けるキング先生。
 「なんであんな間抜けに? それにヤツは経験も何もないじゃないか」とびっくりして尋ねると、その女性の答えは・・・

“I like him, he’s not like the other ones. He says what’s on his mind, and if you don’t like it, you can stick it.”
(snip) “I like that. He’s a business guy. He’ll shake things up, kick over a few apple carts.


「私はトランプが好きだよ、トランプはほかの奴らと違う。思っていることを言うし、それがイヤならあんたは嫌ってれば」
(中略)
「経験が無いところがいいんだよ。トランプはビジネスマンでしょ。トランプは現状を変えてくれる。リンゴのカートをいくつか蹴り倒すよ。

 リンゴの積まれたカートを蹴り倒してあとは知らねーとどっかに行ってしまいたい。もしくは誰かがそれをやるのを見たい。

 トランプは、そういうアメリカ人の「イド(id)」としっかり結びつくことに成功した男だ、とキング先生は書きます。イドとエゴとスーパーエゴ。「中学生のための深層心理学」というサイトにわかりやすく書いてあります

 そういう誰にでもある「イド」はよくわかる、でももう2016年じゃないんだよ、もういいだろ? というのがキング先生の言い分。

「バイデンに投票することはスーパーエゴに投票するということではない。それはバイデンのせいじゃないけど。でも少なくともエゴへの投票ではあるだろう。つまり我々の中の、道理をわきまえ嫌々ながらも責任ある行動をとろうとする部分に投票するということだ。」

 科学者の言うことを聞いて感染予防に努めたりするのは退屈で面倒なことで、そりゃ誰だって「イド」のレベルでは、そんなことやりたくない。「イド」は憎しみと恐怖に満ちているから、陰謀論や差別は癖になる。トランプは、「イド」を利用するのが本当にうまかった。

 キング先生は、そんなトランプの魅力と支持者の「イド」に深い理解を示し、「リンゴのカートを蹴り倒したいイド」はよくわかるんだ、でも同時にそろそろ「イド」が嫌がる方向へ進むことが必要なこともわかるだろう、とおっしゃいます。

トランプはカードを蹴り倒した。
何百人ものアメリカ人がそんな彼に投票して手伝った。
バイデンはそれを元に戻すと約束している・・・
でも、我々全員がそのリンゴを拾わなくてはならないんだ。


Trump kicked over the cart. Millions of American voters helped him.
Biden is promising to right it again … but we’ll all have to pick up the apples.

 という、トランプ批判や支持者批判は抑え目で、どちらかというと支持者を理解しようと努めた上で、バイデン支持を訴える穏やかな内容でした。

 もはや拾うべきリンゴも潰れて腐って、拾ってカートに戻すチャンスも無くなっているのではないかというようなアメリカですが、キング先生の声は果たして届くのでしょうか。

 ところで、キング先生はトランプ大統領のことを小説にしているんですよ。なんと40年以上も前の1979年に!!

 『The Dead Zone (デッド・ゾーン)』のグレッグ・スティルソンって、はっきり言ってトランプですよね? 読んだ人なら全員「これってトランプが大統領になった流れじゃないか!」と思ってぞーっとするはず。 
 トランプ支持者のトランプ支持の理由がやっとわかるようになった、とキング先生はおっしゃっておられますが、既に40年以上前にアメリカ人がああいう人物を求める「イド」を本能的に感じ取っていらっしゃったということだと思います。やはり天才です。

The Dead Zone (English Edition)

The Dead Zone (English Edition)

 『The Dead Zone (デッド・ゾーン)』は、ある特殊な能力を手に入れた青年ジョン・スミスの孤独を切々と綴った傑作。私はこれほど孤独な主人公をほかにあまり知りません。誰にも理解されないであろう使命のためにその能力を使うことを決意するジョン・スミス。これまた悲し過ぎて泣きながら読んだ記憶があります。
 事前にプロットは練らずに思うままに書くスタイルのキング先生が、珍しくプロットをきちんと考えて書いたというこの小説。それがうまくはまって、ダメな時のキング先生にありがちな最後グダグダでわけわからん・・・にならず、びしっと締まって伏線も回収されている、彼の傑作のひとつになっていると思います。

 映画版では、孤独な青年ジョン・スミスをクリストファー・ウォーケン(イメージぴったり)が、トランプ・・・じゃなかったグレッグ・スティルソンをマーティン・シーンが演じています。小説のほうが気に入っているので、がっかりするのが怖くて映画は観られないのですが・・・。
youtu.be

 現実には、ジョン・スミスが持つような特殊能力の無いキング先生は、今日も言葉で戦っておられます。

 11月3日の投票日が、いろんな意味でとりあえずものすごく怖い私です。

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