THE X-CHAPTERS

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800万部突破! ミレニアル世代のお兄さんからゆるふわ世代にお説教『The Subtle Art of Not Giving a F*ck(その「決断」がすべてを解決する)』(by Mark Manson)

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『その「決断」が全てを解決する』洋書版表紙

 長い目で見れば、マラソンを完走するほうがチョコレートケーキを食べるより幸福だし、子供を育てる方がビデオゲームやってるより幸福だし、やりくりが大変でも友達と小さなビジネスを始めるほうが新しいコンピューターを買うよりも幸福だ。
In the long run, completing a marathon makes us happier than eating a chocolate cake. Raising a child makes us happier than beating a video game. Starting a small business with friends while struggling to make ends meet makes us happier than buying a new computer.

こういう活動は、ストレスいっぱいで辛く不愉快なことも多い。次から次へと起こる問題に耐える必要だってある。
These activities are stressful, arduous, and often unpleasant. They also require withstanding problem after problem.

それでも、これまでで一番意義ある時間であり楽しいことなんだ。苦しみや葛藤や怒りや絶望もともなうけど、やり遂げたら、振り返って涙目で孫に語るもんだよ。
Yet they are some of the most meaningful moments and joyous things we’ll ever do. They involve pain, struggle, even anger and despair—yet once they’re accomplished, we look back and get all misty-eyed telling our grandkids about them.

(From: The Subtle Art of Not Giving a F*ck by Mark Manson)


 これまたむかつくくらい売れた本。一応ジャンルは自己啓発本です。
 刊行は2016年秋、2019年の時点で800万部突破。ニューヨーク・タイムズ紙ナンバー1ベストセラー。昨年には続編っぽいのも出ています。

 和書のタイトルは、以下のようになっていますが・・・

『その「決断」がすべてを解決する
貴重な人生を浪費しない5つのロードマップ』

でもあんまり決断力とか意思決定に関する本じゃない。

原題は訳すのが難しいけど乱暴に訳すとこんな感じ??

『クソどうでもいいぜ人生術:
いい人生送れる今までの自己啓発本に無いやり方』

 著者マーク・マンソンは、書籍刊行時30代になったかならないかくらいの人気ブロガー。この本も、著者の人生指南の人気ブログが元になっている。そのせいなのか、そういう本特有の読みづらさがあるように思います。基本、著者が自分の人生や読んだ本を通じて悟ったことをつらつら書いているブログをまとめた本なので、ブログで1ポストずつ読む分には素晴らしい文章・内容の羅列なのかもしれないけれど、ちゃんと章分けされている一冊の本の体裁にまとめると無理矢理感が出る。構成が悪く、あっち行ったりこっち行ったり同じことを繰り返しているように感じてしまう。

 それなのに日本での読者レビューが好意的なものが多いことにびっくり。皆さん、心が素直なんでしょうか。私はなぜかとてもムカつきました。まあ、いいところもあったので、そこだけ記憶にとどめればいいのかな。
 何が腹立つって、なんかよく理解できなくて二回も読んじゃったんですよ。洋書読むの遅いのに。
 具体的なアドバイスというより、ものの考え方や見方を変えようという本なので、哲学的な何かを語っているところもあり、それがなんかピンと来ないっていうか・・・多分、私の頭が悪いんですね。これ、どこが特別なの? 何がオリジナルなの? まあまあ痛快で面白いのは前半だけで、後半はそのへんの本に書いてあるのと大して変わらないことで内容を水増ししている感じがしました。矛盾も多く、無い知性振り絞ってきちんと理解しながら読もうとしているうちに意識が遠のき、幾晩もキンドルの直撃を顔に受けて目が覚めて悪態つきながらまた眠るという入眠儀式を繰り返す羽目になりました。

「まあ、メディアやネットがいろんな情報流してくるよな。
もっと買わなくちゃ、もっと幸せにならなくちゃ、もっともっと・・・ってなるよな。
でも人生の真実は、”もっと少なく”にあるんだぜ。
人生で本当に大切なものを選択しろ。
他人の目とか評判とか自分がコントロールできないことには価値を置くな。
たくさん行動してたくさん失敗して、その責任は全部自分で取れよ、お前の人生だから。
人生は苦しいのが当然。ポジティブ思考とか嘘だから。
ポジティブ追及するのはネガティブ。完全な自由は不自由。
お前なんか全然特別な人間じゃないし、せいぜい仕事とか家庭とかなんか責任負って地道に生きて、黙って死んで行け。
俺は、マーク・マンソン。
裕福な白人家庭に生まれた恵まれた男で、女の子にモテモテで恋愛術のブログと情報商材で儲けて25歳で世界何十か国も回った特別な男だけど。
大学出た時は大不況で職見つかんなかったし、彼女を寝取られたり、挫折だって経験してるんだぜ。
一応、一人の女と結婚したから、人生で”責任”だって負ってるしな!」

 要約すると上記のような感じで、一番言いたいのは太字の部分?
 
 他人の評価とかどう見られるかに価値観を置くな、って繰り返し書いているけれど、だからって畑耕して羊飼って静かに暮らしているとか誰にもちやほやされなくても黙々と介護の仕事を続けていてそれで幸せ、とかいう生き方をしているわけでもなく、自分が成り上がったのはデート術指南ブログ(どうやったらもてるか教えてくれるヤツ)だし、毎日SNSでポストしまくっているのに・・・。いいねしてもらったりフォロワー増やしたり購読してもらったりすることがすべての世界にどっぷり浸かって生きてるよね、マーク・マンソンさん?

 とか思ってしまう私はひねくれものでしょうか。

 これ、ターゲットがアメリカのいわゆる「スノーフレイク」たちで、そこに入っていない人が読むと、こいつなんでこんなに偉そうなの?で終わる本だと思います。
 スノーフレイク。町山智浩さんは「ゆるふわ世代」って訳していましたね。
 今のアメリカの20代以下の人達を主に指していて、ミレニアル世代(20~30代)でも若い層、学生さんたちとか大卒ほやほやの人たちのことです。親に「あなたは世界でたった一人の特別なあなた」と大切に大切に育てられ、世間の醜悪な部分や厳しい部分から徹底して守られてきたせいで、ものすごく敏感で繊細なのが特徴。まるで雪のようにちょっとのことで壊れてしまう。日本語だと「ガラスのハート」みたいな感じ? スマホが世界のすべてで、ナルシストみたいにSNSに自分の画像とか動画を投稿してばかりいる。自分大好き。
 そんな年代が読むと、「マーク・マンソンさんすごい!素敵!」「兄貴、俺も頑張ってみます!」となるのかも。

「お菓子ばっかり食べてちゃだめよ。この野菜はすこーし苦いけど、こういうものが体をよくするんですからね。お野菜食べましょうね。」
「ハーイ、ママー」
「○○ちゃんったら、お野菜全然食べないんだから。お野菜の中でもこれなら食べてもいいかなって思えるものあるでしょ? そういう野菜が無いかよく考えて選んで食べていきなさい。野菜を食べないで生きていくことなんてできないわよ。」
「えー、そうなのー?ママー」

例えると、上記みたいな内容。ママが著者、子供が読者。既に人生でいろんな「野菜」を食べている人には「何を今更」「あたりまえでしょ」となる。しかし、今のスノーフレーク世代にはその「あたり前」を親しみやすい口調でガンガン言ってくれるこういう本が画期的に感じ、売れたのかもしれない。

 前半に出てきたメタリカをクビになったギタリストとビートルズをクビになったドラマーを比較する話とかは逸話的に面白かったです。あとは・・・

病気や障害を負って生まれたり、
事故で大切な人を失ったり、
それに関してはあなたはまったく悪くない。
あなたのせいじゃない。
あなたが責められるべきことは何も無い。
それでも俺はこう言う。
「あなたの人生はあなたの責任だ。
その最悪の中で何を選択して生きていくか、その責任はあなたにある。」

 上記のようなことを言っている箇所だけ、スノーフレーク世代ではない私でもぐさっときました。私には、今うまく行かないことを家族とか生い立ちのせいにしているところがあるから。

 ほりえもんさんとかゆろゆきさんとかが好きな人が読むと、ちょっと正攻法の「夢をかなえよう」な自己啓発本と違うところとかがはまるかも。あとは、「自分も”ゆるふわ”かな?」と思う人は是非。まだいろいろな選択肢があって人生これから、という若い方に読んで欲しい本です。

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