THE X-CHAPTERS / Xチャプター

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2020年大ヒット海外ドラマの原作本・・・ドラマのノベライズ本みたい『The Queen’s Gambit』(by Walter Tevis)

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『The Queen's Gambit』表紙

2020年の海外ドラマといえば「これ!」

 とにかく有名人から一般人まで気持ち悪いくらい大絶賛の、チェスの天才少女の成長を描いたNetflixのミニシリーズドラマ、
『The Queen's Gambit(邦題:クイーンズ・ギャンビット)』

 予告編はこちら。
youtu.be

この呪われた一年、たくさんテレビを観てきた。みんなそうだろ。その中でも最高なのがNetflixの『The Queen's Gambit』。もう完全にわくわくしたね。『The Trial of the Chicago 7(邦題:シカゴ7裁判)』に勝るものは無いと思ってたけど、こっちが勝ったよ。
(スティーヴン・キング、1010年10月28日のツイートより)

 キング先生まで手放しで絶賛。一人くらい「いや~それほどでもなかったな~」という人がいないものかとひねくれた私は思ってしまうほど、とにかく「つまらなかった」という人を見たことがない。

 このドラマのせいで、アメリカではチェスセットが大売れ。年末のギフトシーズンには品薄の報道がされていた。

 ・・・・・・そんなにいいドラマなんですか? 私、観てないんですけど。こんなヒットを生み出したのは一体どんな物語なのか? それとも女優がかわいかったとか?

 調べてみたら、どうやらこれはオリジナルの脚本ではなく、原作の小説が存在するではありませんか。

原作を超える映像化作品は存在するのか?

 ところで、小説を映像化(映画やドラマなど)した作品って、必ずと言っていいほどがっかりしませんか。小説より映像のほうがよかった、っていう作品、ありますか?
 私の中では、ほぼゼロです。
 やはり活字を読みつつ、脳内で知らず知らずにイメージを思い描いているのか、映像化された作品を観るとまた豊田真由子元議員の「チガウダロ!」が響き渡ります。あとは、キャストがイメージ通りでも、ストーリーの肝だと思っていたエピソードがあっさり抜けていたりとか。
 まあ、とにかく先に原作を読んで映像を観ると、納得いかなくてモヤモヤすること多数。
 じゃあ、先に映像を観ればいいのかというと、そうでもなくて、原作本を後で読むと映像作品で釈然としなかったところが補完され、なんだか好きだった映像作品がぼんやりと心で薄れ・・・結局原作が勝つ、というのが私のパターン。

 これは、私が本が好きだからなのか。映画好きでもあるんだけど。皆さんも同じでしょうか。

 とにかく、これだけ皆を感動させたドラマの原作なのだから、「原作vs映像化作品」で常に前者が勝つ私は感動必至の小説だろう、そう思って原作を手にとりました。

作品と作者

 原作『The Queen's Gambit』は、アメリカ人作家ウォルター・テヴィスによる1983年発表の小説。意外と古い小説です。日本語版は残念ながら未訳。

The Queen's Gambit: Now a Major Netflix Drama (English Edition)

The Queen's Gambit: Now a Major Netflix Drama (English Edition)

 作者のテヴィスは、代表作に、ビリヤード賭博の世界を描いてポール・ニューマン主演で映画化された『The Hustler(邦題:ハスラー)』や、デヴィッド・ボウイ主演で映画化されたSF『The Man Who Fell To Earth(邦題:地球に落ちて来た男)』など。長く兼業作家であったため作品数は少ないながらも映像化率は高い。『The Queen's Gambit』は今回のドラマが初の映像化。残念ながら作者はドラマの大成功を観ることなく、1984年に既に他界している。

淡々と進むので英語学習、チェス愛好家にはいいかも

 小説は、架空の女性天才チェス・プレイヤーのベス・ハーマンが主人公。まだ女性のチェス・チャンピオンが希少だった東西冷戦の時代を舞台に、彼女が8歳で両親を失い、孤児院に入り、チェスに出会って成功の階段を上って成長していく姿が19歳まで描かれている。女性としてその時代のチェスの世界で生きる難しさ、薬物やアルコールへの依存なども重要なテーマ。
 幼少時に病気の療養のために入所していた施設で投与された精神安定剤への依存に苦しみ、後にそれがアルコールへの依存に置き換わった、自身もチェスのプレイヤーだった、など作者の体験が色濃く反映された小説になっている。
 印象として、とにかく「淡々としている」。
 淡々と孤児になり、淡々とそれを受け入れ・・・。淡々と男と付き合い、別れ・・・。ある意味、現実的なストーリーで小説っぽいところが無い。涙を誘うような孤児の苦難も無く、養母にいじめられる、あるいは養母と素晴らしい血のつながりを超えた絆を築くとかそういう小説チックな出来事も無く・・・。
 なんだかすべて淡々と、どんどん出来事だけが起こっていくような小説。
 主人公が大きく執着するのは、薬とアルコールとチェスだけ。私が読むに、彼女にとってのチェスは薬物となんら変わりない。依存している。チェスのためなら養母に嘘をつき裏切り、なんの関係も無い人から盗みを働いてもかまわない。恩人にすがって、恩を返さなくてもかまわない。そう生きるしかないと思っている。典型的な依存症思考、そんな感じ。
 残念ながら、こういう小説に不可欠な、やきもきしながら「がんばれ!ああ、もうそれじゃ負けちゃう!」と応援したい気持ちになるような感じが主人公に対して湧かない。私もどう考えても依存体質なので、主人公が依存症なのを軽蔑しているわけではない。なんでだろう、主人公があまりに淡々としているせいか、「容姿端麗なチェスの天才」という以外にあまり人間味を感じないというか・・・。
 主人公ベスの人生に関わるほかの人物たちのほうが魅力的。誰も養子にしたがらない黒人少女ジョリーン、ベスにチェスを教える用務員、孤独な中年女性であるベスの養母、確実にベスのほうが才能があることを受け入れなけれなならないベスの男たち。
 つまらない小説ではないけれど、すべて中途半端であっさりな小説。
 しかし、そこが持ち味いえば持ち味? さくさくさくさく読める。まるでココナッツサブレのように(まだ売ってますか?)。余計な内省など無く、出来事を追うのが中心なので、ドラマのノベライズ本かと思った。こっちが原作なのに。
 あと、チェスの試合のシーンがもうちんぷんかんぷん・・・お経です。素晴らしい睡眠薬でした! チェスを知らないので、どうしてもそのシーンは斜め読みになって試合結果のところだけよく読む、という感じになってしまう。これって、ドラマだと理解できるんですか? この駒をどこそこに動かしたら、なんとびっくり相手はあの駒をとった!とか言われても、さっぱり・・・。この小説、チェスをやる人なら面白さ50%増しなのかもしれません。

 それほど長さも無い小説なので、とにかく英語の小説を通読したい、チェスが分かる、という方は楽しめると思います。

 というわけで、
「もしかして、原作vs映像化で後者が勝っている作品なのでは」
という珍しいケースを予感した小説でした。

 ドラマ観てからはっきり上記に関する結論書けるといいんだけど、今、連続ドラマをのんびり観るという時間的余裕が全く無く・・・。ドラマを完走する機会があったらまた追記します。

参考記事:
Walter Tevis Was a Novelist. You Might Know His Books (Much) Better as Movies. - The New York Times