THE X-CHAPTERS

米国から本の話題をお届け

【エドガー賞徹底捜査】エドガー賞、誰がどうやって選んでる?

f:id:AgentScully:20210213045128j:plain
賞の名前に使われているエドガー・アラン・ポー先生。機嫌悪そう。

 著名な米国の文学賞のひとつ、エドガー賞。

 先日、2020年のエドガー賞長編部門大賞作品をすごく楽しみつつ読んだものの、ちょっと「・・・これが大賞?」という感じで、エドガー賞の権威自体に疑問が湧いた。
 よって、今回は、エドガー賞を徹底捜査してみました。

どんな賞

 正式名称「エドガー・アラン・ポー賞」、1946年から続く由緒ある文学賞。
 約68人のジャッジが、前年にアメリカで発表された約2000のミステリー関連の本、短編小説、テレビ番組や映画を「長編小説」「デビュー小説」「YA小説」「犯罪実録」「TVエピソード」「映画脚本」などの部門に分け、優れた作品を選ぶ。アメリカで出版/製作されたものなら、別にどこの国の人の作品でも選考の対象になる。
 賞の主催団体曰く、
「ミステリ界でもっとも著名な賞(the most prestigious award in the mystery business)」。
自画自賛です。ここは「アメリカのミステリ界で」と、「アメリカの」をつけるべきだろう。世界にアメリカしかないと思っているようなこの無邪気さ。どこかよその国の君らのわからない言語で、すごいミステリ小説業界が繁栄発展しているかもしれないんだよ、世界は広いんだよ、アメリカさん。アメリカのプロ野球リーグの頂上決戦をずうずうしく「ワールド・シリーズ」と呼ぶのと似ている。アメリカで1番なら世界で1番ってか。そんな態度だから世界のジャイアンと呼ばれる。

 話がそれた。
 「女は話が長い」と言われるのは、私のような女のせいである。すべての簡潔な話ができる女性に申し訳無い。

選んでいる人たち

 賞の主催、選考は「Mystery Writers of America (MWA) 」というグループがやっている。日本では「アメリカ探偵作家クラブ」「アメリカ推理作家クラブ」と訳されているけれど、ちょっと違うんじゃないのか。どこから「クラブ」が出て来た?どこから「探偵」が出てきた? せいぜい「米国ミステリー作家団体」「アメリカ推理作家団体」という感じだと思うんだけど。
 まあ、日本語訳は置いておいて、エドガー賞の審査員は全員、この団体のメンバーでなくてはならない。この団体のメンバー自体には年会費115ドル(約1,1500円)払って申し込めば誰でもなれるんだけど、メンバーシップに種類があって、エドガー賞の選考に関われるのは「Active Member」と呼ばれるメンバ―のみ

 Active Member、つまり賞の審査員になる条件は以下の通り。

・米国内在住
・犯罪/ミステリ/サスペンスの分野の作家(脚本、劇作家、ノンフィクションなども含む)
・米国内で出版経験(テレビやラジオの場合は作品が製作された経験)がある
・自費出版の作家も条件付きで許可されるが、原則として団体が承認している出版社・制作会社からの出版・制作経験が必要
・それらの仕事を通して報酬を得ているという給与証明の提出が求められる。

 つまり、「自称作家」はダメ。「作家が選ぶ同業者の優れた作品」という賞を実現しようとしている感じ。 
 すべての作品に公平平等な評価をするため、性別や人種に偏りの無いように注意深く審査員を選出しているとのこと。
 審査員には、賞の選考の審議の内容を口外しないという守秘義務が課されている。賞の選考が終わるまで自分が審査員であるという事すら口外してはいけない。よって、日本の文学賞のように受賞作発表後の選評の発表などは無い。
 これは、「同業者同士が互いに尊敬しあって仕事するため」というのが理由。「○○は××を推さなかった」「○○の審査がよくなかった」等の遺恨が残るのは誰の利益にもならない、という判断のようです。

「お前が・・・お前が俺に投票していたら・・・俺は今頃エドガー賞とって売れっ子だったんだッ!妻だってあんな男とできていなかった!!電気だって水道だって止められてなかったんだっ!!」
「待ってくれ、違う、話を聞いてくれ!!俺はあんたに入れた、あいつが・・・あっ何をする! (グサッ)」

『エドガー賞殺人事件』

・・・・・・とかなったら、しゃれになんないもんね。

 あとは、
「○○先生~、今回エドガー賞の審査するんでしょ?どうかうちが出した新人作家の××の作品をひとつ・・・ね、お願いしますよ~? あっ、この菓子折りはご家族でひとつ・・・。箱の底がね、そのちょっと盛り上がっているように見えると思うんですけどね、それはまあお察しということで~ヒヒヒヒヒヒ、もう~先生ってば、おぬしもワルよのう」
みたいな、出版社と審査員の間の癒着を防いで公平な選考をするために審査員と選考過程を極秘にする、というのもあるのかな。

選考過程

 大賞選考までのプロセスは以下のような感じ。

1)まず、その年の総合委員長を選出

2)その総合委員長が各9部門+メアリー・ヒギンズ・クラーク賞のそれぞれの審査委員長10名を選出。

3)その10人の委員長がそれぞれ自分の担当する部門の審査員団を4人以上選出。唯一の例外は、長編小説部門。500冊以上の長編小説本を審査する、その仕事量のために他のジャンルの倍にあたる8人の審査員が必要とされている。長編小説部門の審査員たちには、年間を通してその500冊の長編小説本がガンガン送られてくる。それをすべて審査しなくてはならない。このプロセスの間、審査員たちはメールやチャットなどで頻繁に連絡を取り合い、読んだ本の感想や評価などを自由に交換している。

4)一年の終わりに、それぞれの審査員がトップ10作品を決定。

5)年末に第一回目の審議。審査員全員のトップ10リストを採点集計して、その部門の最終候補10作品を決定。

6)そして、それぞれの審査員がその最終10候補を再度熟考、評価。

7)二回目の審議。審査員全員が5)で決まったその部門の最終候補10作品に対して投票。この時点で、その部門の大賞を含むトップ5が決定する。1月の初めに審査終了。

8)毎年1月19日(エドガー・アラン・ポーの誕生日)に、各部門のトップ5作品のみを「エドガー賞最終候補作」として発表

9)それらの中から大賞を受賞した作品は、エドガー賞晩餐会で発表(この時点で次の年の選考プロセスが開始している)

過去のジャッジたちの経験談

 エドガー賞の審査員を過去に努めた作家のブログをいくつか読んだ。
 まずは、マーク・スティーヴンズさんという2017年の長編小説部門の審査委員長だった方のブログ
 週に3回も4回も、FedexやUPS(佐川、クロネコみたいな会社)が来てガンガン本を置いていく。郵便でも来る。スティーヴンズさんのブログにコメントをつけていた審査員経験ありのほかの女性作家も、「その通り! 近所の人はきっと私が配達の人と浮気していると思ってたはずよ!」。本の置き場所が無く、家の階段や踊り場に積み上げていたそう。
 最終的には年間535冊の本を読んで審査したとのこと。最初9人いた審査員のうちの一人は、あまりの本の量に圧倒されたのか途中でやめてしまった。535冊も来る日も来る日もミステリ小説を読むって・・・。毎日一冊読んでも追いつかない。そのため最初の50ページでダメだと思ったら残りは読まない審査員もいるとか。
 最終候補に選んだ5作とスティーヴンズさんにとって心に刺さった忘れられない作品というのは微妙に違い、「それがグループの選考プロセスというもんだ」、つまり「幅広くアピールするものがやはり選ばれてしまう」、という賞のもやもやも書かれていた。「選んだ最終候補作や大賞よりも売れる本はほかにたくさんあるだろう」という言葉も印象的。「売れる本」と「作家が読んで優れていると感じる本」は違うということか。道理であんまり聞いたことがない本が選ばれているわけだ。
 そして、ロマンス・ミステリ作家テリー・オデルさんという方のブログ
 この方も同じく「審査員になった途端、やたら配送会社が来てどんどん本を置いていく。配達員好きな飼い犬はハッピーだったが、とにかくその量はすごい」とのこと。置き場所に困るというのも同様。そして、
「だんだんどの本も表紙が同じに見えてくる」、
「数百冊の本を寝ても覚めても読まなくてはならず、自分の作品を書く時間がとれなかった」、
自分も作家なわけだから、これは辛い。
 しかも、それだけ大変な仕事はすべてボランティアで「送られてくる本以外、何も報酬は無い」。これにびっくり。
 常日頃からアメリカ人のボランティア精神には感嘆すべきものを感じていたけれど、本職の時間が無くなるほど奉仕するのは本末転倒というか、おまんまの食い上げというか、まるで日本のブラック企業みたいではないか。審査員やる人いなくなっちゃうんじゃないのか?
 それと、テリー・オデルさんの「ジャンル分けが無く、選考が難しかった」という指摘はエドガー賞の問題点のように感じた。この方は、ロマンス小説の文学賞も何度もやっているそうで、少なくともそっちでは「現代ロマンス」「歴史ロマンス」「エロティック・ロマンス」等々、細かくジャンル分けされているそう。「少なくとも、リンゴとリンゴを比較していると言えた」。
 エドガー賞は、コージー・ミステリからハードボイルドから警察小説から探偵ものから心理サスペンスからスリラーまでいっしょくたになっていて、「リンゴとブロッコリーを比較しているようなもの」だそうで、確かに選考する側は苦しそう。
 部門で「ペーパーバック・オリジナル部門」と「長編部門」が分かれているのも疑問。本がペーパーバックかハードカバーかは中身には関係ないのでは?という指摘をしている審査員経験者もいた。「Don't judge a book by its cover(表紙で本を判断するな=人や物を外見で決めつけるな)」という有名な英語イディオムもあるではないか。ペーパーバックとハードカバーを一緒に審査しないのは、まさに本の中身を体裁で差別している例のような感じがする。
 
 以上のように、選考のプロセスに関わる人は、時間と労力を要し、多少すっきりしない感じの報われない仕事を無償で引き受けている。
 それはなぜなのか?
 その答えを書いていたのが、この方も審査員経験者のBryon Quertermousさん
 長編小説部門に送られてくる本の量は「本のTsunamiだ」と表現。
 「良い小説が出版されるのはさほど難しいことではないが、それが世間に気付かれ見出されるのは簡単なことではない。そのために文学賞で選んだり、人に良いと思った本をプレゼントしたり、ブログや口コミで広げたり、地方の支部会で宣伝したり、良い本が少しでも良い条件で売れるように米国ミステリ作家団体は懸命に献身している」。
 エドガー賞は、作家たちの同業者応援とミステリという分野への愛で成り立っているのだとわかるコメントです。

まとめ

 エドガー賞は、ミステリ分野の作家たちが大衆に推したい、読んで欲しい作品が選ばれている。必ずしも大衆の好みとは一致しない。風変わりな作品は受賞しづらく、幅広い層にアピールする作品が選ばれる傾向がある。しかし、だからと言って少々「とがった」感じの個性的な作品が受賞作に劣るというわけでもない。
 選ばれた作品たちは、選考を担当した作家たちの無償の愛と目の疲れの結晶である。決して、コイントスや審査員が並んで本を投げて遠くまで飛んだ本が大賞・・・というような選考ではない。
 大賞だけでなく、最終候補作全部を読むと、一冊くらいはものすごく自分好みのミステリに出会えそうな、そんな賞と感じた。

 そして、皆さん。

 エドガー賞の名前になっているエドガー・アラン・ポーもたまに再読しましょう。エドガー・アラン・ポー、あんまり自分は関係無いのに現世でエドガーエドガー言われて墓の中で何を想う・・・。名前だけ使われるなんてかわいそう。読んであげましょう。
 思うに私がミステリやスリラーやホラーといったダークなものに生理的に惹かれてしまうのは、小学生の時うっかりエドガー・アラン・ポーを読んでしまったからのような気がします。細かい内容は覚えていませんが、ものすごく面白くて「あれもこれも全部同じひとが書いているのか!全部短いお話なのにすごい!」と子供心に興奮した覚えがあります。

 エドガー賞受賞作と併せて、本家(?)も是非。

 それではみなさん、Have a happy mystery time!!!

2020年エドガー賞長編部門大賞作
blog.the-x-chapters.info
先日発表の2021年の長編部門最終候補作には一冊だけ読んだ本が入っていた↓
blog.the-x-chapters.info

参考記事:
https://mysterywriters.org/wp-content/uploads/2013/12/Edgar-Overview-Judging-Overview.pdf
How to Become a Member of MWA – Mystery Writers of America
One Judge’s Tale – Rocky Mountain Fiction Writers
I Was an Edgar Awards Judge, Now I’m an MWA Commercial – Bryon Quertermous