THE X-CHAPTERS

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アメリカの図書館で最も文句つけられる問題本・禁止本、最新ベスト10

 毎年この時期の恒例、アメリカ図書館協会(American Library Association)による「最も異議・抗議が寄せられた本ベスト10(Most Challenged Books)」が発表になりました。

 昨年2020年の一年間で学校、大学、公共図書館に寄せられた、
「図書館から撤去すべきだ」
「青少年向けの棚に置くな」
「内容を変えろ」
と言った抗議や異議申し立てを追跡し集計した結果、以下の10冊が名誉のランクイン。
 今のご時勢でホットな問題が一目瞭然なベスト10であり、ご自分のお子さんに読ませるかどうかは置いといて、分別のある大人なら一度は目を通しておいて損は無い名作がずらりと並んでいます。
 
 では第十位からチェックしていきましょう!

第10位『The Hate U Give(ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ)』by Angie Thomas(アンジー・トーマス)

The Hate U Give

The Hate U Give

  • 作者:Thomas, Angie
  • 発売日: 2017/04/06
  • メディア: ペーパーバック
 元ラッパーのアンジー・トーマスによる大ヒットYA小説。もう紹介の必要もないですかね。当ブログでは、アマンダ・ゴーマンちゃんの本棚探偵をした時にご紹介しました。幼なじみを警察の過剰暴力により失った女子高生の人種不平等との闘いが描かれた小説。
 テキサス州の学校図書館で、「学区のポリシーに反する言語が作中で使われている」として撤去され、生徒たちがその措置に抗議する署名運動を繰り広げた結果、結局は図書館に継続しておかれることになったという騒動があったようです。現在、その図書館では、この小説は親の許可があれば貸し出し可能という扱い。
主な抗議理由: 不適切な言語や表現*1、反・警察のメッセージをばらまいている、など

第9位『The Bluest Eye(青い眼がほしい)』by Toni Morrison(トニ・モリスン)

The Bluest Eye

The Bluest Eye

  • 作者:Morrison, Toni
  • 発売日: 1999/03/04
  • メディア: ペーパーバック
青い眼がほしい (ハヤカワepi文庫)

青い眼がほしい (ハヤカワepi文庫)

 ノーベル賞受賞作家、黒人文学の母、トニ・モリスンのデビュー作にして不朽の名作であるこの小説も、抗議や禁書の魔の手からは逃れられなかった・・・。1970年刊行以来、抗議本ランキングの常連。性的虐待により父親の子を身ごもるというストーリーはやはり検閲の対象になってしまうのか。
抗議理由:露骨な性表現、幼児の性的虐待を描いている、など

第8位『Of Mice and Men(ハツカネズミと人間)』by John Steinbeck(ジョン・スタインベック)

 これまたノーベル文学賞作家による名作がランクイン。この名作もまた素晴らしい作品であるだけに高校の授業などで取り上げられことが多く、そのために抗議や検閲の対象になってしまうことが多いというパターンに陥っている。この二十年くらい、常に抗議本ランキングの常連だそうです。
 内容というより、その時代は許されていた差別用語が現代になって受け入れられなくなったのが問題。
抗議理由:不敬な言葉(”God damm”、”Jesus Christ!”を罵りに使っているなど)、人種差別用語(Nワード*2、Jap等)、内容的に有色人種や女性や知的障碍者を見下している、など

第七位『To Kill a Mockingbird(アラバマ物語)』by Harper Lee(ハーパー・リー)

To Kill a Mockingbird (Harperperennial Modern Classics)

To Kill a Mockingbird (Harperperennial Modern Classics)

  • 作者:Lee, Harper
  • 発売日: 2002/03/01
  • メディア: ペーパーバック
アラバマ物語

アラバマ物語

 1960年、大恐慌時代のアメリカ南部で、レイプの罪に問われた無実の黒人のために正義を貫こうとする白人弁護士一家の物語が一家の子供の目を通して綴られている。ピューリッツァー賞受賞、映画版はアカデミー賞も授業。アメリカの高校生が一度は(いやいや)読まされるクラシック。やはり学校の授業で取り上げられる作品には、子供への影響を鑑みて厳しい追及がある様子。
 主な抗議理由は、人種差別用語(Nワード)、不敬な言葉、性犯罪を扱った内容が学校にふさわしくない、救世主のような白人キャラクターはどうなのか、などなど。
 アメリカ南部の人種差別の問題を扱った正義の小説なのに何がダメなの?と不思議ですが、これまた昔の小説にありがちな差別的な言葉使いや、現代から見ると微妙にズレてる「白人が見た黒人」、しょせん当事者ではない人が解釈した黒人の苦しみしか描かれていないことが問題視されている。「優れた小説の姿を借りた体制的な人種差別の推進本」という厳しい声も。
 人種間不平等を教育で扱いたいんだったら、そろそろ白人が書いた黒人の小説じゃなくて、黒人による黒人の小説を使ったらどうなのよ、という声は確かに最近よく目にします。

第6位『Something Happened in Our Town』 by Marianne Celano, Marietta Collins, and Ann Hazzard, illustrated by Jennifer Zivoin(マリアンヌ・セラノ、マリエッタ・コリンズ、アン・ハザード)

 アトランタの大学の医学部で児童や家庭問題を専門に研究・診療に従事する三人の心理学者によるストーリーにジェニファー・ジィヴィオンの美しい絵がつけられた絵本。幼稚園から小学校中学年くらいまでの子供向けに、アメリカで相次いでいる警官による黒人への過剰暴力の背景をやさしく解説している。
 教育や啓蒙を目的にした絵本だからか、こちらの動画ですべてのページをみせてくれて、朗読もしてくれています。

youtu.be

 主な抗議理由は、こうした絵本を早くから読ませることで何も知らない子供にかえって対立や分断を教えている、反警察の考えを促進している、など。
 最後のほうで登場する、英語があまり話せないオマー君がなんだか自分の子供に思えてしまって辛い。これが自分の子供たちが生きている世界かと思うとため息が出る。こんな絵本が必要の無い日本はいいなあ。
 もし、日々のニュースに触れて「なぜ?」という質問が小さなお子さんから出た場合は是非この本を。そして、この本に過剰反応している警察支持の皆さんのために、「いい警官だってもちろんいる」と書いてある部分は大きな声で読んであげて下さい。「いい警官だっているんだ、でも全員がそうであるという考えはあてにできない」、これは反警察でもなんでもなく、子供も知っておいたほうがいい事実だと思うんですけどね。

第5位『The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian(はみだしインディアンのホントにホントの物語)』by Sherman Alexie(シャーマン・アレクシー)

The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian

The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian

  • 作者:Alexie, Sherman
  • 発売日: 2009/04/01
  • メディア: ペーパーバック
ISBN:4092905149:detail
 出ました! 過去10年を通してもっとも抗議が多かった本ナンバー1のこの小説。今回も安定のランクイン。
 絶望と諦念が漂うネイティブ・アメリカン居留地を飛び出して、裕福な白人ばかりの高校に通うことにした少年を主人公に、二つのコミュニティで引き裂かれつつも強く成長していく少年の姿を、コメディアンの著者が軽妙な感じで描いている傑作YA小説。
 詳しくはこちらで↓
blog.the-x-chapters.info
 私の大好きな小説がたくさん文句をつけられていて・・・嬉しい! 文句をつけられている限り作品として生き残ると思うので。
 主な抗議理由は、不敬語の使用、性的な描写、著者のセクハラ疑惑など。
 抗議理由の最後が残念ですね。なにやってんだよ、シャーマン・アレクシー。あなたみたいな人は、ネイティブ・アメリカン・コミュニティの希望の星なんだからしっかりしないと。

第4位『Speak(スピーク)』by Laurie Halse Anderson(ローリー・ハルツ アンダーソン)

Speak

Speak

スピーク

スピーク

 まるで声を奪われたかのように言葉を発しなくなった孤独な女子高生メリンダ。彼女には誰にも言えない秘密があった。高校生になる直前にレイプされていたのだった・・・。
 自身も性的暴行の被害者であるローリ―・ハルツ・アンダーソンが綴った半自伝的なYA小説『スピーク』。1999年、もう20年以上前の小説なのに、刊行以来こちらも抗議本の常連。2004年にはクリステン・スチュワート主演で映画化されている。
 少女の苦しみと再生を描いた小説、まずびっくりなのが、こういう本が国語の授業のカリキュラムに入っている学校があるという事です!! 日本だったらあり得ない。こういう本とか『青い眼がほしい』とか、思いっきり性描写がある本を堂々と授業で使うアメリカ。そして当然・・・もめる!
 主な抗議理由は、政治的な観点が含まれている、男性学生に対する偏見、レイプや不敬語が含まれている、など。
 反MeToo運動の方々、青少年の性行為に伝統的な価値観を重んじている方々にとっては、学校で扱ってほしくない小説ということか。

第3位『All American Boys(オール・アメリカン・ボーイズ )』by Jason Reynolds and Brendan Kiely(ジェイソン・レノルズ 、 ブレンダン・カイリー)

All American Boys

All American Boys

 2015年刊行、多数の文学賞を受賞した児童文学。
 警官による黒人少年暴行の動画が拡散しその地域を揺るがす中、当事者の黒人少年と目撃者の白人少年は、それぞれの立場で葛藤する。黒人少年のパートは黒人作家のジェイソン・レイノルズが、白人少年のパートは白人作家のブレンダン・カイリーが、ユニークな共著のスタイルで綴っている。こういう共作、いいですね。
 主な抗議理由は、不敬語の使用、ドラッグ使用や飲酒の描写が含まれている、反警察の考えの促進、敵対を煽る主題を含んでいる、現在慎重に扱うべき問題であり過ぎる、など。
 黒人少年のパートを担当した作家ジェイソン・レノルズは、第3位に輝いたこの小説のほかにこの後もう一作でもランキングに登場します。絶好調ですね。YA、児童書分野で文学賞とりまくっていて、出版界の宝。青少年向け本バージョンのコルソン・ホワイトヘッドだな。
 第10位の『ヘイト・ユー・ギヴ』のアンジー・トーマスとこの第3位の『オール・アメリカン・ボーイズ』の著者二人は、両作品がそろって抗議によりとある高校の夏のおすすめ読書リストから外されたことを受け、連名でコメントを発表しているので、ここに引用します。

「私たちの本は、反・警察ではありません。反・警察暴力の本なのです。国中の多くの若者たちの人生を熟考した文学作品を扱おうとした高校の教師たちを誇りに思っています。そうした本を読書リストから否定することは、あまりに多くの若者たちが知り経験している現実を彼らが自ら内省することを否定することになるでしょう。」

  • ジェイソン・レノルズ、ブレンダン・カイリー、アンジー・トーマス

“Our books are not anti-police, they are anti-police brutality. We’re proud of the teachers at Wando HS who are using literature that reflects the lives of so many young people across this country. To deny these books from reading lists would deny too many young people the reflections of the reality they know and experience.”

  • Jason Reynolds, Brendan Kiely, and Angie Thomas

第2位『Stamped: Racism, Antiracism, and You』by Ibram X. Kendi and Jason Reynolds(イブラム・X・ケンディ、ジェイソン・レノルズ)

 この本、すごく売れているんですけど邦訳が出ていないんですね。
 歴史学者イブラム・X・ケンディによる全米図書賞受賞のアメリカにおける人種差別の歴史書『Stamped from the Beginning』を、第三位の『オール・アメリカン・ボーイズ』の著者の一人ジェイソン・レノルズが若者向けにやさしく書き直したノン・フィクション。
 とにかく「脱・歴史書」「わかりやすく」「読みやすいペースで」元の歴史書をリミックスしたそうで、なんとなくこういう問題に関する本を読むのは気が重い・・・という大人にもおすすめ。
 主な抗議理由は、著者の公式声明*3、扱っているエピソードの選択が公平ではない、すべての人々に対する人種差別を網羅していない、など。

第1位『George(ジョージと秘密のメリッサ)』by Alex Gino(アレックス・ジーノ)

George

George

  • 作者:Gino, Alex
  • 発売日: 2017/04/01
  • メディア: ペーパーバック
ジョージと秘密のメリッサ

ジョージと秘密のメリッサ

 三年連続堂々の一位、おめでとう!!! やったね!!!
 ・・・と言っていいのか?
 男子として育ったものの内面ではどうしても自分を女子としか感じられない小学校四年生のジョージが、学校劇で主役の女の子の役を演じるという夢をかなえようとする小学校中学年~高学年向けの児童書、前回に続いて安定の一位です。
 そんなにすごいことが書いてあるのか? 過激なのか? これは読むしかない・・・と思って読みましたが・・・・・・ぜんっぜん大したことなかった。そんなにもめる本か? これはむしろ日本だったらそれほど問題にならないかも。これがもめるのはアメリカだから、クリスチャンの国だからじゃないかな。
 主な抗議理由は、LGBTQIA+*4コンテンツだから、宗教的な観点と矛盾している、「我々のコミュニティの価値観」を判定していない、などなど。
 やはり「宗教」が関係している。保守的なクリスチャンにとっては、どうしてもトランスジェンダー問題は受け入れがたいようで・・・。
 内容的に子供に読ませても大丈夫な、「トランスジェンダーの子ってこんなふうに感じているんだよ」という入門編みたいな小説で、全体的にやさしい雰囲気が漂っている。私はむしろそこがひっかかった。こんないい友達いないって。『Wonder(ワンダー)』もそうだったけれど、多くの人と違う体で生まれた本人が自ら勇気を持って一歩踏み出すというより、天使のような友人の勇気に頼っている内容。♪そうだったらいいのにな そうだったらいいのにな♪というお話。現実はもっともっとつらく、難しいはず。
 トランスジェンダーの当人の気持ちに寄り添った本というより、そうではない子がそういう子を理解するための教育本。だから、学校や図書館のおすすめ本になってしまい、抗議が来る・・・という流れと思われます。

まとめ

 大人は、他の大人がどの本を読もうが口出しできないということは理解しているが、自分の子供が関係していたらいくらでも文句つけていいと思っているらしい。他人はコントロールできないし、する権利も無い。大人の読書にケチをつけたら、「言論の自由の侵害」「検閲」。
 しかし、「子供は別」という・・・。そのせいで、図書館でもめる本もほぼすべて子供がらみ、教育がらみ
 前回は、LGBTQIA+本がランキングを占め、今回は人種問題本で文句殺到。
「うちの子にはLGBTQIA+のことなんて教えさせないわ!」
「うちは家族に警察がいるのよ!子供がいじめられたらどうするの?!」
といった感じか。
 青少年の皆さん、早く大きくなって、自分で読みたい本読めるようになるといいですね!!
 
参考記事:
Top 10 Most Challenged Books Lists | Advocacy, Legislation & Issues
Banned Spotlight: The Hate U Give | Banned Books Week
Banned Books 2020 - To Kill a Mockingbird - Marshall Libraries
Why ‘To Kill a Mockingbird’ Keeps Getting Banned - HISTORY
Banned Spotlight: To Kill a Mockingbird | Banned Books Week
Banned Book Highlight: “Speak” by Laurie Halse Anderson | The Collegian
"All American Boys" Authors Jason Reynolds and Brendan Kiely Discuss Racism, White Privilege, and Censorship in Today’s Civic Landscape, a guest post by Lisa Krok - Teen Librarian Toolbox

blog.the-x-chapters.info
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*1:F○ck活用とか

*2:N○gger

*3:どの公式声明か確認できず

*4:性的少数者の総称