THE X-CHAPTERS

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村上春樹の海外メディアとのインタビュー「過去の作品は、はき終わったパンツ」・・・疲れているのか?春樹

 もしかして日本国内より、海外でのほうが熱狂的に崇拝されているんじゃないかと感じる作家、村上春樹。
 日本出身です、と自己紹介すると、
「ハルキ・ムラカミが好きです!」
とすごく熱く返されることがあるんだけど、そのたび罪悪感を感じる私。だってだって、4,5作くらいしか読んでいないから・・・。しかも、こういうレベル。

高校時代の友人「この本、読んでみて! すごくエロいの!」
高校時代の私「ほんと~!? 100%純愛小説、って帯に書いてあるけど。純愛ってエロくない恋のことだと思ってた。」
高校時代の友人「むしろ逆だよ~。主人公の男が、出てくる女の登場人物のほとんど全員とヤッてるの!!」
高校時代の私「そうなの!?絶対読むよ!!」
ー読後ー
高校時代の私「ありがとう!エロかった! でも主人公の男より、ピアノの先生と教え子のところが一番エロかったかな」
高校時代の友人「そこ!! 確かに~。こっちもエロいから読んでみて~(村上龍の『トパーズ』を手渡す)」
高校時代の私「これもエロそうだね!ありがとう!!」

 このように、多感な年齢の私に大きな影響を与えた作家ハルキ・ムラカミ・・・。しかし、こんな読まれ方はハルキ・ムラカミも心外だろう。

 その後も世界のムラカミの作品は、いくつか読んだ。高校生の時のようにエロ目当てではない。しかし・・・

「好きな作家は村上春樹、と言ってみたい」
「お休みの日に村上春樹を読んでいる自分が好き」
「本棚に村上春樹を置いている私はなんとなくかっこいい」

まあ、この程度です。バカ丸出し。
きちんとハルキ・ムラカミの良さを感じ、愛している人からはビンタが飛んできそうなレベル・・・。本当にごめんなさい・・・なんですが、最近読んだ、村上春樹さんのインタビューがなかなか面白かったので、シェアさせて下さい。

 ハルキ・ムラカミのおされな感じが確かに似合う、男性向きのライフスタイル雑誌みたいなサイト「InsideHook」に2021年5月25日に掲載されたインタビューです。

My Conversation With Haruki Murakami Never Really Ends - InsideHook

 インタビュアーは、編集者・作家として活躍されているショーン・ウィルシーさん。ウィルシーさんの以下の本が翻訳出版された際に、村上春樹が多少尽力したらしく、それ以来両者の交流が続いているという関係らしい。

 元記事の前半は、熱心なムラカミ・ファンであるウィルシーさんによる「村上春樹をまったく知らない人に教えてやる、こことここをおさえとけ!」な内容になっていて、「ヤクルト・スワローズ」というアメリカ人からすると理解しがたい球団名の解説まで書かれている。ハルキ・ムラカミと共に歩いた神保町の思い出・・・とかなかなか良いエッセイなので、英語記事を読む気力があるハルキ・ムラカミファンの方は是非。

 しかし、気になるのは後半のムラカミ御大のお言葉である。これがまた、記事の前半のインタビュアーのハルキ・ムラカミへの熱い愛と対照的に全体的にめんどくさそーで、苦笑してしまう。

インタビュアー:「あなたの作品の○○は、△△を彷彿とさせます。読まれましたか?」「××は聴かれましたか? ○○は××からとったのでしょうか?」「昔、店主をされていたジャズ・カフェのお客さんたちはあなたの小説執筆になんらかの役割を果たしていますか?」「Tシャツを集めてらっしゃいますね? どういうのをお好みですか?」

春樹:「知らないなー」「読んだことないです」「聴いたことないです」「あんまり覚えていません」「集めているってわけじゃなくて、溜まっちゃっただけ」

 全体的にこんな感じです。

 村上春樹の作品中に登場する、男性に都合の良い女性キャラクターに関するつっこんだ質問にも・・・

インタビュアー:新作で女性の登場人物が変化したと感じましたが、それは意識して女性の書き方を変えたんですか?

春樹:あんまり。考えたこともない。(I can’t really say. I’ve never thought about it. )

インタビュアー:川上未映子さんもあなたとのインタビューでその点強調していらっしゃいましたね?「村上春樹作品では、男性主人公のために女性登場人物が犠牲になる傾向が一貫してある。なぜ女がそういう役回りになることが多いのか」と。新作はその問いへの答えになっているように思われますが。
(※筆者注:これだと川上さんが春樹を批判しているようにもとれますが、未映子&春樹はいつも気味悪いくらいお互いの作品をスキスキ言い合ってるのがよく海外メディアでも取り上げられています)

春樹:来月革命が起こったら、間違った思想のかどで逮捕されたりするのかもね。赤い三角帽子かぶせられて、群衆に罵られて、街灯の柱からつるされてさ。
(If the revolution happened next month, I might be arrested for the crime of thinking erroneous thoughts, have a three-cornered red had stuck on my head, be cursed by the mob and strung up from the nearest lamppost.) 
でも仕方ないんだよ。僕は自分の人生の生き方を楽しんでいるんだ。はやってる意見の流れを追って小説を書いたりはしない。今はそうするつもりはないよ。
(But that’s just the way it goes. I’ve enjoyed the way I’ve lived my life … I’ve never followed the tide of popular opinion in the way I write my novels. I’m not going to start now. )

 村上作品は反・フェミニズム、みたいな意見、多いんですか? めんどくさいなー、という空気を漂わせる春樹。
「私の娘が、ムラカミはフェミニストって感じじゃないけど、フェミニストじゃないって感じでもない、多分本人はどうでもいいんじゃないの、男とか女とかあんまり気にしてないんじゃないのという意見を言っているがどう思うか?」とさらに畳みかけるインタビュアーに対して春樹は・・・

春樹:僕の生き方は、「なんとかイズム」とは縁が無いんだ。僕は、いかなる「なんとかイスト」「なんとか主義者」でもない。ただ、その人が男性だから女性だからという理由でその誰かを傷つけたり軽蔑の気持ちを見せるものを物語の中に書かないように努力はしているけどね。そういうのも「なんとかイズム」「なんとか主義」なのかな? 言いたければ「ムラカミズム」って言ってもいいよ。
(The way I live my life, I don’t really have anything to do with all the “isms” of the world. I’m not an anythingist. I just make an effort not to write anything into my stories that would hurt or show contempt for someone because they’re male or female. Or could that be an ism in itself? You could call it Murakami-ism if you like.)

そうなんですよ、全体的に「どうでもいいのさ、やれやれ」感満載で、溢れるムラカミズム。
インタビュー中、 一番秀逸だったムラカミズムは、
「今でも『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は一番気に入っている作品ですか?」という質問に対して。

春樹:自分自身の作品のこととなると、いつだって満足いかないことが多くて、どれが気に入っているかと尋ねられると答えるのが本当に難しい。(There’s always so much I’m dissatisfied with when it comes to my own works, it’s really hard for me to answer when someone asks me which is my favorite. )
最適なたとえじゃないかもしれないけれど、書き終わった本は、脱いで洗濯に投げ込んだパンツみたいなもんだよ。(It might not be the best metaphor to use, but a book I have finished writing feels kind of like a pair of underwear I took off and flung into the laundry. )
(—中略—)僕が言おうとしているのは、パンツははいている間はすごく重要だってことだよ。でも、一旦はいちゃったら、それまででしょ。ポイっとやってもう要らない。僕の小説も同じなんだ。必要が無ければ自分の本を読み返しに行ったりはしない。もしそうしたら、多分書き直したくなるだろうしね!
( What I was trying to say is that when you’re wearing your underwear, they’re very important to you. However, once you’ve worn them, that’s it — you discard them and have no more use for them. It’s the same with my novels. I don’t go back and read my books unless I have to. If I did, I’d probably end up wanting to rewrite them! )

 脱いだパンツはどうでもいいんだよね~という、過去の作品に対して質問されることへのめんどくささがよく伝わっています。素晴らしい比喩! 確かにパンツははいている間は超重要だけど、脱いじゃったらもう一回はくのは嫌だ!! さすが世界のムラカミ!! ノーベル賞にふさわしい!! ムラカミズム万歳!! しかし、こんなところで世界のムラカミを感じられるのは、ハルキも心外だろう。
 
 真面目な話、キャリアが長くて作品も多い作家となると、どうしても一番良かった時の作品に関して質問が行くんだけど、作家本人としてはまだまだ現役で前を向いているわけで、彼らにとっては「何十年も前の仕事のひとつ」に過ぎないんでしょうね。答え疲れている感じが・・・。

 どっかで松任谷ユーミンさんが、
「人間の細胞は4-5年周期で入れ替わっていると聞くし、5年前の私はもう今の私じゃありませんから! 違う人間ですから!!違う人!!」
みたいな感じで、昔のことばかりつつかれることに、ちくっといらっと発言していらっしゃったことがありました。
 
 ハルキ・ムラカミも昔の自分に興味無いというか、今現在も作品を発表し続けているわけだし、今とかこれからのことを聞かれたほうが嬉しいのかも。あまり昔のこときかれると、なんかもう終わっちゃった人みたいだもん。私だったら、ひとつでも過去に功績あったらみんなが嫌がってんのに聞かれなくても永遠に自分から語り続けますけどね!! 

 ほかにも、

「現在アメリカでニュースになっているアジア系住民への暴力をどう思うか」
「アメリカ人のゼノフォビア(外国人恐怖症)の背景には何があると思うか」
「日本は二発の原爆投下を受けたという史上もっとも大きな重荷を負った国。我々アメリカのミッキー・マウスはじめいかなるものもしのぐカワイイの美学が商品化された国でもある。恐怖と軽薄の間には関連があるのだろうか」

などなど、ちょっとムラカミズムやれやれですますには難しい、国内の読者やメディアからはまず聞かれないであろう質問も投げかけられ、世界を舞台に活躍する作家の苦労がしのばれます。正直、あんま作品にも創作にも関係の無い質問。でもさらっと答えていて、さすがハルキ。

 私ならどう答えるか・・・いつでも海外の有名メディアに取材受けてもいいように考えておかないと・・・。
 
 それにしてもこのインタビュー、「パンデミック中に、メール越しに行われた」としか元記事に書いていないんだけど、村上春樹は上記の回答をすべて英語でしているのか? それとも英語で受け取った質問に日本語で答えているのか? そこははっきりとせず。
 翻訳家でもあるハルキのこと、英語の質問を正確に理解できるのは当たり前として、英語で表現もできるのか、つまり日→英翻訳もできるのかが気になる。もしできるなら・・・すごい・・・!! 負けた・・・負けたよ・・・ハルキ・・・何からなにまでね・・・。最初から勝負になってないけどね・・・。いつか、ロシア語が母国語だったのに英語で傑作書いたナボコフみたいに、ハルキも英語で小説書いちゃうかもね。

 確か、日本から持って来た本でいっぱいの段ボールの中に、ハルキ・ムラカミの脱いだパンツがいくつかあったはず。これを機に、世界のムラカミの脱いだパンツ楽しんでみようかな!!

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