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オバマ元大統領、2021年の夏の読書リストを発表

まだホワイトハウスにいる頃、夏に気に入った本をシェアし始めて、今や楽しみな恒例行事みたいになってしまった。今年のリストはこれ。これらの本を、私と同じくらいみんなが楽しんでくれることを願っている。
(バラク・オバマ元大統領、7月9日のTwitterより)

While we were still in the White House, I began sharing my summer favorites—and now, it’s become a little tradition that I look forward to sharing with you all. So here's this year's offering. Hope you enjoy them as much as I did.

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オバマ元大統領、2021年の夏のお気に入り本リスト

 オバマさん、毎年夏にこんなことやってたんですね。
 年末にその年のおすすめ本を発表しているのは知っていたけれど、夏にもやっていたとは。早く言ってよ。
 オバマ元大統領、毎夏にマーサズ・ビンヤード島で休暇をとるタイミングで、ほぼ毎年そこで読んだ本から面白かったものを全世界に発信しているそうです。みんなにもっと本を読んでほしいそうで。
 それにしても、どんだけ本が好きなんだ、オバマは。まるで出版業界の回し者・・・。オバマがこのリストを発表した途端に、Amazonの商品紹介ページが「オバマの夏のおすすめ本に選出!」と更新されている本が多数・・・。

 出たばかりの本が多く邦訳が出ていないものがほとんどですが、以下11冊を簡単にご紹介。

① 『At Night All Blood Is Black』(by David Diop)

 国際ブッカー賞*1の2021年長編小説部門を受賞。セネガル出身のフランス人作家デイビット・ディオプのフランス語の小説を、アンナ・モスコバキスが英訳。ディオプは、この長編二作目の小説で、国際ブッカー賞を受賞した初のフランス人作家となった。
 小説は、第一次世界大戦を舞台にしたヒストリカル・フィクション。第一次世界大戦において、アフリカの植民地から列強国のために200万人もの兵士が徴兵されていたというあまり脚光の当たらない史実が題材。フランスのために戦うことになったセネガルの狙撃手たちの葛藤が描かれている。

② 『Land of Big Numbers』(by Te-Ping Chen)

Land of Big Numbers

Land of Big Numbers

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 中国系アメリカ人女性ジャーナリストTe-Ping Chenのデビュー短編集。著者は、アメリカで育つも中国に長期間在住し、そこから米国のメディアに向けて情報を発信してきた人。この小説集には10篇以上の小説が収められ、現代の中国が愛と批判の両方をこめて描かれているとのこと。今の中国を楽しみつつ知るのに良さそうな本。

③ 『Empire of Pain: The Secret History of the Sackler Dynasty』(by Patrick Radden Keefe)

 アメリカ史上最悪の薬害をもたらしている麻薬性鎮痛薬オピオイド。今も、年間ウン万人というペースでオピオイドがらみの依存症から死亡に至る人が絶えない。なぜこんな危険な薬が堂々と大量に医者から処方されていたのか、本当に理解に苦しむ。日本では決して起きないであろう問題で、いずれアメリカの処方薬開発とか認可に関して勉強してみたいとは私も思っている。
 アメリカで大きな大きな社会問題となってしまったオピオイド問題に関しては、数多くのノンフィクション本が既に出ているけれど、今年4月に刊行されたこの本は、そのオピオイド系鎮痛剤の発売元である製薬会社パーデュー・ファーマの創業者一族のサックラー家の歴史から問題を追っているところが特色。世界有数の富豪一家として、慈善事業でも大きく世界に貢献してきたサックラー家はどこで道を誤ったのだろうか。

④ 『Project Hail Mary』(by Andy Weir)

 2021年5月に出たばかり、売れに売れているエンタメSF大作が来ました。『The Martian(邦題:火星の人)』の大ヒットで知られる米国のSF作家アンディ・ウィアーの新作。本当によく売れているので、既に読んだ洋書ファンの方も多いのでは。またまた宇宙空間で宇宙飛行士が頑張るドキドキハラハラの話。既に映画化決定。主演予定はライアン・ゴスリングだそうです。

⑤ 『When We Cease to Understand the World』(by Benjamin Labatut)

 ①と同じく2021年の国際ブッカー賞最終候補作のひとつ。著者のベンジャミン・ラバトゥは、オランダ生まれ南米育ちのチリ人作家。長編小説3作目のこの作品で、初めてスペイン語から英訳され英語圏で刊行された。
 実在した数学者や科学者を題材にしたSF+歴史フィクション+伝記フィクションのような小説。 フリッツ・ハーバー(物理化学者、毒ガス専門家、「化学兵器の父」)、グロタンディーク(数学者、フィールズ賞受賞、私の頭脳では彼の業績は説明不可能)、ハイゼンベルク(理論物理学者、量子力学の先駆者、ノーベル物理学賞受賞、ドイツ原爆開発チーム所属)、シュレディンガー(理論物理学者、量子力学に大貢献、もちろんノーベル賞)といった偉人・天才たちの頭の中が想像豊かに描かれた小説になっているそうです。

⑥ 『Under a White Sky: The Nature of the Future』(by Elizabeth Kolbert)

 2014年に『The 6th Extinction(邦題:6度目の大絶滅)』でピューリッツァー賞を受賞したアメリカ人科学ジャーナリスト、エリザベス・コルバートの新刊。ビル・ゲイツさんも今年の夏の必読本に挙げているそう。
 地球に破壊の限りを尽くした人類が、その同じ手で地球を救済することは可能だろうか。モハヴェ砂漠の真ん中のたった一つの水たまりで希少種の魚を守ろうとしている科学者、アイスランドで 放出炭素を石に変えようとしているエンジニア、地球温暖化下の環境でも生きられる「スーパー・サンゴ」を開発しようとしているオーストラリアの研究者、成層圏に小さなダイアモンドを放って地球を冷却することを思索する物理学者・・・著者が取材した地球救済のケーススタディ集。

⑦ 『Things We Lost to the Water』(by Eric Nguyen)

 これまた興味深い選出・・・これは選ばれた著者がTwitterで激しく動揺していたのもわかる。著者のエリック・グエンはおそらくベトナム系アメリカ人。マイナー過ぎてデータが無い。これがデビュー小説で今年3月に出たばかりの本。ベトナム人移民一家のニューオーリンズでの物語。移民文学。良い小説のようだけど、文学賞をとったわけでもなく、正直オバマはどうやってこんな本を見つけたのかを知りたくなる本。

⑧ 『Leave the World Behind』(by Rumaan Alam)

 バングラデシュ出身のアメリカ人作家、ルマーン・アラムの2020年刊行の三作目の小説。2020年の全米図書賞長編小説部門最終候補作で、ブッシュ元大統領の娘さんのブッククラブの課題図書にもなったとか。ネットフリックスで映像化が決定、主演はジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントンだそうで、すごい豪華。
 都会から人里離れた田舎の別荘みたいな住宅を借りて休暇を過ごすことになった夫婦と二人の子供たち。しかし、滞在を始めて間もなく、謎の災害で電気もネットも電話も使えなくなってしまう。そんな状況で夜中にノックが・・・。住宅の持ち主であると称する夫婦が帰ってきてしまったのだ。図らずも長い休暇を共に過ごすことになった二つの家族はどうなるのか? 
 ちょっと設定だけ聞くとホラーとかスリラーみたいな小説。しかし、この小説、読者のレビューがすごい。めちゃくちゃに叩いている人と絶賛している人とが混在しているというか・・・。好き嫌いがはっきり分かれる小説だそうです。

⑨ 『Klara and the Sun(邦題:クララとお日さま)』(by Kazuo Ishiguro)

 カズオ・イシグロの新刊。みんな読んでるから説明要らないっすね。

⑩ 『The Sweetness of Water』(by Nathan Harris)

 これがデビュー作となるアメリカ人作家ネイサン・ハリスによる、南北戦争の終わりごろのジョージアを舞台にした歴史フィクション。現時点でオプラ・ウィンフリーのブッククラブの最新の課題図書。オバマは、多分オプラのブッククラブの本は全部読んでるとみた。いつもおすすめ本にオプラのブッククラブの課題図書が何冊か入っている。
 奴隷解放宣言で自由の身となった二人の元黒人奴隷の兄弟の運命を中心に、戦争に傷ついた南部の小さな町の人々の様々な人間模様が繰り広げられる小説。百年以上前を舞台にした物語でありながら、人種間不平等や同性愛差別など、現在と同じような社会問題で小さなコミュニティが翻弄されている。「29歳がデビュー作でこんなに成熟した小説が書けるなんて!」とオプラも絶賛の小説。

⑪ 『Intimacies』(by Katie Kitamura)

 日系アメリカ人作家ケイティ・キタムラによる4作目の小説。これ、2021年7月20日発売でまだ刊行されてもいないんだけど、オバマさんどうやって入手したんだろう?? やっぱり有名人にはBlurbとか書いてほしいし、ゲラの段階でばらまかれるのか??
 戦争犯罪で裁かれることになった某国の元大統領の通訳のためにニューヨークからハーグの国際刑事裁判所にやってきた女性通訳者。犯罪者の通訳者としての倫理的な葛藤や、親の死や不倫、知人が遭った暴行事件など主人公の私生活で抱えるドラマが描かれた文芸小説。

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 以上、11冊、2021年のオバマ元大統領の夏のおすすめ本リストでした。

 11冊中、ノンフィクションはたったの2冊、あとはほとんど文芸小説、エンタメは一冊だけ(アンディ・ウィアーのSFね)、オバマらしいなあと思います。

 多忙を極めた大統領就任期間も、小説を読む時間はきちんととり、小説を通してさまざまな立場の人の心を理解するよう努めたというオバマ。就任期間最後の方は、毎日1時間読書にあてていたとのこと。 アメリカ大統領が! 毎日!! 1時間!!! 読書!!! 30分も読めずに眠くなる私はどうすればいい・・・。

 機会があったら、オバマさんのこれまでの夏の読書リストもまたまとめてご紹介してみたいと思います。お楽しみに。

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*1:英国最高峰の文学賞であるブッカー賞の翻訳部門。英語に翻訳され、イギリスまたはアイルランドで前年に出版された最も優れた本に授与される